気候変動による影響
米国マサチューセッツ州の東端を形成するケープコッド(図1)は、長い海岸線を持つ低地の半島に位置します。この地域ではたびたび洪水が発生しています。そのリスクを高める要因として、ノーイースター(注1)、熱帯低気圧、ハリケーンに伴う豪雨、高波、高潮や、地球温暖化による海面上昇が挙げられます。岬全体に及ぶバーンスタブル郡では、低・中所得層の不動産の多くが潮汐と繋がる低地にあり、浸水リスクの増加に直面しています。ウッズホール(注2)にある検潮器によると、その潮位は1932年と比較して9インチ(約23cm)以上も上昇しています。
取り組み
全米及びバーンスタブル郡の15の地方自治体の居住者は、洪水から資産を守るため、全米洪水保険制度(NFIP)を通じ、長い間洪水保険に加入してきました。しかし、NFIPが請求する保険料は、NFIP創設以前に建てられた洪水被害に脆弱な建築物の抱えるリスクと見合わないため(注3)、洪水保険料の引き上げが行われました。なお、このNFIPには保険料を抑える方法も存在します。それは、地方自治体がアメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の提供するコミュニティ評価システム(CRS)を通じて、後の保険料の引き下げと洪水リスクの低減を同時に促進させることです。例えば、強力な建築基準の制定や氾濫原を維持するための取組を行うことで、地方自治体はCRSクレジットを獲得できます。
このCRSのためのマニュアル(注4)は、600ページ以上もあり、特に職員数の少ない市町では負担が大きいため、バーンスタブル郡は地域のCRSコーディネーターを雇いました。このコーディネーターは、排水溝の拡充や建物の嵩上げのような新しい取り組みを行うよりも、既存事業に少し手を加えることによりCRSクレジットの即時獲得が可能であることに気づきました。この一例として挙げられるのが、蚊の駆除です。バーンスタブル郡では26名の蚊の駆除職員が冬期に1500マイル(約2400km)に及ぶ溝や水道管等から枝や葉、泥、堆積物などのゴミを取り除き、雨水が流出するよう整備を行い、蚊の繁殖する場所を削減しています。(図2)このような雨水の水路管理は、洪水管理にも大変有効となります。CRSコーディネーター達は、毎年清掃されている水路を電子的にマッピングすることにより、15の地方自治体がCRSクレジットを獲得できると考えました(注5)。
CRSを通じて地方自治体が洪水リスク削減のためのCRSクレジットを取得したため、不動産を保有する居住者は5~45%保険料を抑えることができました。
効果/期待される効果等
この取組により洪水保険料は安くなり、気候変動へのレジリエンス強化も期待されています。