気候変動による影響
日本では夏の猛暑や大型台風による気象災害が近年多発しており、農業や人々の暮らしが脅かされています。世界では気候変動に起因するような豪雨や乾燥等により、安定した食糧を確保できない地域もあります。このような地域のうち発展途上国では、人口増加に伴う深刻な食糧や環境問題も抱えています。
掲載日 | 2021年5月12日 |
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分野 | 農業・林業・水産業 / 水環境・水資源 |
地域名 | 東北(青森県) |
日本では夏の猛暑や大型台風による気象災害が近年多発しており、農業や人々の暮らしが脅かされています。世界では気候変動に起因するような豪雨や乾燥等により、安定した食糧を確保できない地域もあります。このような地域のうち発展途上国では、人口増加に伴う深刻な食糧や環境問題も抱えています。
青森県立名久井農業高等学校の環境研究班では、発展途上国等における食糧や環境問題の解決に貢献できる技術開発に2014年から取り組んでいます。
その一つとして「生物の力で水質浄化と食糧生産を同時に行うハイブリッドシステム」を開発しました。世界には富栄養化(注1)による水質汚染と食糧不足という2つの問題を抱えている新興国や発展途上国が少なくありません。食糧増産のために多投する化学肥料、処理されない生活排水やし尿は地下水を汚染し悪循環を繰り返していますが、富栄養化の原因となる窒素やリン酸は作物にとっては肥料と成り得ます。そこで、富栄養化を起こした池沼を再現し、トウモロコシやインゲンマメなどの作物を使用した水質浄化と食糧生産を同時に適える技術を開発しました。
また、「三和土を使った機能性集水システム」も開発しました。これは、日本伝統の「三和土(たたき)(注2)」を利用して土壌を固化させて土壌流出を抑制する技術です(図1)。乾季には、斜面上方から流れてくる貴重な雨水を集めて栽培に利用し、雨季には簡易堤防として役割を担います。この技術は、「三和土」の材料に家畜の堆肥を加えることで緩和性肥料としての機能を備え、①雨季に降った雨水を集水保持することによる水の確保、②痩せた土壌への栄養分の供給、③降雨によって発生する土壌流出や栄養分の流亡、さらに土壌浸食による耕地の喪失を同時に抑制することで、多角的に食糧増産に寄与します。
「生物の力で水質浄化と食糧生産を同時に行うハイブリッドシステム(注3)」により、富栄養化池沼における水質浄化と食糧生産研究では、池沼を耕地に変えることができました。
「三和土を使った機能性集水システム(注4)」では安価な材料で簡単に導入できるため、食糧増産以外にも世界各地が抱える環境問題の解決手段として有用です。例えば、水害対策として、河川や池沼の氾濫などを抑制する簡易堤防としても活用することができます。
これらの農業技術は、気候変動などに対応して安定した食や水を提供できる新たな緑の革命である「New Green Revolution」となる可能性を持っています。
図1 三和土で作った集水ウイングを設置する実地試験
(出典:環境省 「令和2年度気候変動アクション環境大臣表彰」)
脚注
(注1)窒素・リンなどの栄養塩類は湖沼や海域の生態系を構成する細菌や動植物にとって必須な元素である。しかし、公共用水域への汚濁負荷物質の流入が高まり、水中の窒素・リンが必要以上に増えると、それを栄養として利用する植物プランクトンが急速に増える。このような状態を富栄養化という。(出典元:国立環境研究所)
(注2)三和土(たたき)とは、土に砂、消石灰、にがり(塩化マグネシウム)に水を混ぜこねることで土壌を固化させる日本の土木技術をいう。
(注3)2018年ストックホルム青少年水大賞・国際大会第二位受賞 テーマ「植物による水質浄化と食糧生産を同時に行う複合システム」
(注4)2020年ストックホルム青少年水大賞・国際大会グランプリ受賞 テーマ「乾燥地の土壌流出抑制と食糧増産を可能にする多機能集水技術の開発」