養殖・水産漁業のための意思決定支援システム開発

気候変動による影響

気候変動により世界の食糧生産量の全体的な減少が予測されています。その中でも養殖・水産漁業の持続的成長への影響が懸念されています。

取り組み

「ClimeFish（注１）」はヨーロッパにおける気候変動に対するレジリエンスの低い養殖および天然漁獲の魚介類についての成長戦略を検討するプロジェクトを実施しました。このプロジェクトでは、海洋養殖、海洋漁業、湖沼漁業の３つの生産部門を対象に、25種類以上の魚介類を含む16事例において①気候変動の影響予測（注２）、②リスクと機会の特定、③適応戦略の提言、④社会経済分析が行われました。
また「ClimeFish」 はステークホルダーのための意思決定支援として検討結果を提供するため、「意思決定支援システム（Decision Support System (DSS)）」を開発しました（図1、注３）。このシステムでは気候変動によるヨーロッパ各地の海洋や淡水の漁業や養殖業の生産量に加え、社会経済指標に与える影響をシミュレートすることができます。現在では、スコットランド西沿岸の漁業、ハンガリーの湖沼漁業、ギリシャの水産養殖業の３地域で当該システムが活用されています。
ギリシャの例では、ヨーロッパスズキとオオニベをモデル種としたシミュレーションが実施されました。将来的には魚の成長が早くなり、地域によっては、2050年までに生産期間が最大で3か月短縮される可能性が予測されました。また、暴風や熱波のような異常気象による魚の死亡率の増加や生産量への悪影響等の可能性も挙げられています。リスク評価では、ギリシャの養殖業に正または負の影響を与えるいくつかの気候関連要因（主に気温と異常気象）が特定されました（図２）。これらのリスク・機会の特定を踏まえ、適応戦略においては、（ア）産業レベルでの適応策の提言、（イ）政策提言、（ウ）研究と知識のギャップの特定という3つのレベルで提言されています（注４）。
また、社会経済分析においては、特定された適応策が実施されれば持続的な成長が可能となり、その成功のカギは、産業界、学術界、行政レベルのすべてのステークホルダー間の強力な協力関係であると分析されました。

効果／期待される効果等

将来、餌（質と量）と気温と密接な関係にあるすべてのライフステージのモデルを開発することにより、対象魚種の生理学に与える気候変動影響を理解し、餌の変換効率、魚の成長、体格、繁殖の予測が可能となります。このような効果的な予測と気候変動への適応を可能にする管理システムの活用により、欧州の持続可能な漁業と養殖生産量の増加が期待されています。

脚注
（注１）16ヶ国の21団体から成るEU出資のコンソーシアム
（注２）「ClimeFish」で検討されている3つの気候変動シナリオ下*で、水温と成長の関係などに関するパラメータに基づく調査対象種の全体的な魚の生産量と分布の暫定的な予測
*2100年までの3つの気温上昇シナリオを使用（①2℃上昇②3℃上昇③4℃上昇）
（注３）データベースと複数の生物学的・社会経済モデルから構成されており、専門家でなくても使用できるように設計されたインターフェースが備えられたシステム
（注4）適応戦略の3つのレベル：
(ア) 漁場間の協力関係の強化、並びに広範囲な組織レベルでの将来的な変化への備え
(イ) 養殖場の運営や新しい漁場の指定のための柔軟な法的枠組みの確立、繁殖プログラムや新しい漁業技術への投資
(ウ) 気候変動要因への対応に関係する生物学的メカニズムに関する知識の構築