イタリアにおける災害リスク軽減保険(DERRIS)プロジェクトの展開

掲載日 2022年9月8日
分野 産業・経済活動
地域名 海外(イタリア)

気候変動による影響

イタリアでは、洪水や地すべり、竜巻、熱波、寒波等、異常気象の深刻さが増しています。このような異常気象による被害総額は、2013年~2015年にかけて80億ユーロ(日本円で約1兆円)と推定されており、異常気象により生産停止を余儀なくされた中小企業の9割が1年以内に倒産しています。

取り組み

欧州議会が出資するDERRISプロジェクト(注1)が2015年~2018年に実施されました。本プロジェクトは、保険会社と行政、中小企業間の官民協働体制によって、特に中小企業がさらされているリスクを軽減するための具体的なツールを提供し、都市の回復力を高めることを目的とした事業です。

イタリア・トリノ市では、2016年~2017年にかけて約30社の中小企業が参加し、研修と企業適応行動計画の策定支援を受けるパイロット段階を経て、2017年4月に「気候リスク評価管理ツール」が開発されました。さらに本プロジェクトが10都市に拡張され、行政や業界団体、商工会、企業及び大学から566人のステークホルダーが参加の上、平均20の適応策を含んだ企業適応行動計画がそれぞれの都市において策定されました。これらの計画は参加した小規模な企業にとって有益となっています。開発された「気候リスク評価管理ツール」は、簡単に使えるオンラインツールであり、異常気象時に直面するリスクとその被害を防ぐために実施可能な対策を把握することができます(図)。

また、DERRISプロジェクトは、トリノ市における特定地域を対象とした総合的地区適応計画(注2)の策定も支援しました。 総合的地区適応計画は、トリノ市の将来の戦略の方向性と気候変動への適応行動計画に備えるもので、新しいグリーンインフラの創設や潜在的適応策の特定といった内容を含んでいます。さらに、本プロジェクトでは、気候変動適応策に資金を供給するための革新的な金融手段についても分析しています。

効果/期待される効果等

DERRISプロジェクトの最終報告書を取りまとめた2018年の時点で、128社の企業によって3,723件の適応策が含まれた適応行動計画が策定されています。内訳は、リスク予防:1,725件、リスク管理:1,382件、早期警告と緊急管理:616件でした。また、リスク回避を考慮していなかった中小企業や行政は、保険会社から実習やワークショップ等を通じて異常気象に対するリスク評価とリスク管理に関する知識を得ることができました。
プロジェクトパートナーの保険会社による今後の活動として、官民パートナーシップモデルに関心を持つ自治体への支援、中小企業との会合開催、「気候リスク評価管理ツール」の更新等が2023年まで提供される予定です。

気候リスク評価管理ツール

図 気候リスク評価管理ツール(チュートリアルより抽出)
(出典:DERRIS 「Risk assessment」)

脚注
(注1)DERRISとは、DisastEr Risk Reduction InSuranceの略で、災害リスク軽減保険のこと。
DERRISプロジェクトパートナー:CINEAS(ミラノ工科大学が設立した学術コンソーシアム)、COORDINAMENTO AGENDE 21 LOCALI(非営利団体)、MUNICIPALITY OF TURIN(トリノ市)、UNIPOLSAI(UNIPOLグループの複合保険会社)、UNIPOL GRUPPO FINANZIARIO(UNIPOLグループ)、ANCI(イタリアの全国知事対協会)
(注2)Integrated District Adaptation Plan ”TORINO CHE PROTEGGE”
(http://www.derris.eu/wp-content/uploads/2018/06/idap-28maggio2018-c1b1207-c.pdf)

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