気候変動による影響
気候変動による影響が海域においても顕在化しつつあります。熊野灘(注1)の沿岸水温は、過去約100年間で高水温化が進行しており、2020年の平均値は、過去最高の20.6℃を記録しました。さらに、近年は、黒潮大蛇行や気象等の影響も加わり、顕著な高水温、餌不足といった漁場環境下において、アコヤガイのへい死が発生しています。また、2019年、2020年の夏には、外套膜萎縮症状(注2)を示し、へい死する事例が新たに確認されました。
掲載日 | 2021年8月5日 |
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分野 | 農業・林業・水産業 |
地域名 | 近畿(三重県) |
気候変動による影響が海域においても顕在化しつつあります。熊野灘(注1)の沿岸水温は、過去約100年間で高水温化が進行しており、2020年の平均値は、過去最高の20.6℃を記録しました。さらに、近年は、黒潮大蛇行や気象等の影響も加わり、顕著な高水温、餌不足といった漁場環境下において、アコヤガイのへい死が発生しています。また、2019年、2020年の夏には、外套膜萎縮症状(注2)を示し、へい死する事例が新たに確認されました。
三重県水産研究所は、「真珠適正養殖管理マニュアル 2020年9月」に、新しく得られた漁場環境データの解析結果やアコヤガイのへい死要因等に関する知見を加え、「気候変動に対応した新たな真珠適正養殖管理マニュアル」を同年12月に発行しました。
本マニュアルでは、現時点のアコヤガイのへい死が、水温が平年よりも高く餌料となる植物プランクトンが少ないという環境や、感染症、飼育カゴの揺れ、にごり等の要因が複合的に影響した結果(図1)であることに基づき3つのへい死軽減対策が提案されています。
水産研究所では「アコヤ養殖環境情報」「アコヤ避寒情報」を毎週1回発行しています(注6)。この他に、ICTブイを活用した三重県真珠養殖関係漁場水温モニタリングシステムを構築し、パソコンやスマートフォン、携帯電話を通じて、県内の真珠養殖関係漁場の水温や塩分濃度を把握できるようにしました(図3)。
マニュアルや水産研究所の発信する漁場環境情報を活用することにより、気候変動に対応した適正なアコヤガイの養殖管理が可能になると期待されています。
図1 へい死等に影響を与える要因のまとめ
(出典:三重県水産研究所 「気候変動に対応した新たな真珠適正養殖管理マニュアル」)
図2 冬季の黒潮流路と気温の予想と避寒・抑制の実施の判断
(出典:三重県水産研究所 「気候変動に対応した新たな真珠適正養殖管理マニュアル」)
図3 三重県真珠養殖関係漁場水温モニタリングシステムのトップページ
(出典:三重県真珠養殖連絡協議会 「三重県真珠養殖関係漁場水温モニタリングシステム」)
脚注
(注1)和歌山県最南端の潮岬から三重県志摩半島大王崎にかけての紀伊半島南東岸海域。
(注2)アコヤガイの外套膜が委縮する事象。
(注3)挿核貝とは、アコヤガイの生殖巣まで先導メス・ピース針・核挿入器を使用してピースと真珠核を挿入して、真珠袋を形成させる手術をした貝のこと。
(注4)アコヤガイは水温が10℃以下になると死亡するため、秋から春の間に温かい漁場へ移動させて春を待つ。
(注5)抑制とは、「卵止め」とも呼ばれ、母貝を秋からカゴに窮屈な状態で育成して、春の挿核まで活動を抑え、卵を成熟させない方法。挿核手術によるショック症状を避けるために行われる。
(注6)「アコヤ養殖環境情報」では、プランクトン検鏡結果の他、今後1週間程度の水温動向予測等に関して、水産研究所のホームページへの掲載と併せてLINEによるプッシュ型情報として発信されている。「アコヤ避寒情報」では、避寒の場所やタイミング、抑制方法の選択など避寒時期の飼育管理情報が、12月から翌年3月まで発信されている。