気候変動の藤野学

掲載日 2021年8月5日
分野 健康 / 自然災害・沿岸域 / 自然生態系
地域名 関東(神奈川県)

気候変動による影響

神奈川県相模原市における年平均気温の推移も上昇傾向にあり、熱中症による救急搬送人員数は、平成27年では333人でした(平成26年:224人)。1時間の最大雨量も増加傾向にあり、平成30年の台風24号では1時間の最高雨量は63ミリを記録し、相模原市緑区の青根地区では道路周辺の斜面が大規模に崩落しました。気候変動による影響に備えるために、これまでの緩和策に加え適応策への取組が必要となっています。

取り組み

相模原市緑区の藤野地区において、白井信雄教授(当時、法政大学サステナビリティ研究所)より提案された「気候変動の藤野学」プロジェクトが、平成28年春スタートしました(注1)。このプロジェクトでは、地域で発生している気候変動の影響事例を調べて共有し、気候変動の将来にわたるリスク(および機会)を考えながら、自分たちでできる「自助」とみんなで行う「互助」の視点から、具体的な適応策を検討していくための活動を、様々な団体と連携して展開しています。

「気候変動の藤野学」は大きく3つのステージに分けて進められました。

  • 第1ステージ:実態調査
    • 過去から現在において、地域の環境や暮らしに出現している気候変動の影響事例に関する調査が参加住民に対して行われました。調査票では「いつ頃から/どんなことが/どの場所で起きており/その原因や対策」について回答する形式がとられ、地元に長く暮らす人たちを中心に10名から43事例の回答がありました(図1)。そして、この調査結果は、わかりやすくまとめられました。
  • 第2ステージ:テーマ選定
    • 第1ステージの調査結果をもとに、ワークショップが実施されました。参加者たちは「重大性」、「緊急性」、「確実性」の視点から、これから取り組むべき優先課題を対話によって特定しました。その結果、優先度の高い課題として「水土砂災害対応」、「鳥獣被害対策」、「猛暑に対する健康管理」の3つが挙げられました。この3つの課題の対策等を検討するため、気象キャスターや相模原市環境政策課長、地域の農家なども招いた啓蒙イベントとなるシンポジウムが平成29年に開催されました。
  • 第3ステージ:テーマ実践
    • 選定された3つの優先課題の実践方法についての話し合いが行われ、参加住民一人ひとりが「できることを少しずつやる」ことをまとめ、地域への発信を行いました(図2)。
      令和元年10月の台風19号では、藤野地区でも多数の土砂崩れや倒木等が発生し、少なくとも100ヵ所以上で道路が被災しました。その年に行われた「気候変動の藤野学」では、従来の取組の延長線上ではなく、一部の市民だけによる活動から、より多くの市民が参加できるようにするため、自治会の自主防災組織や今回の災害時に積極的に動いたコミュニティカフェの関係者を招き、彼らの情報提供および参加者による対話会が開催されました。

効果/期待される効果等

第1ステージで調査された影響事例を分析した専門家チームは、地域の人たちの日々の暮らしに根差した環境変化への観察力を高く評価しました。また、参加者は気候変動の地域への影響を知ることで、気候変動が地球規模の将来の影響ではなく、現在進行している地域、あるいは自分の課題としてとらえるようになります。さらに、適応策を話し合うことにより、行動意図を高めることができると期待されます。
「気候変動の藤野学」の活動は、平成28年から約5年間にわたる継続的な活動が評価された結果、『令和2年度 気候変動アクション環境大臣表彰』を受賞しました(注2)。

区域ごとの気候変動の影響事例

図1 区域ごとの気候変動の影響事例
(出典:気候変動の藤野学 「第1ステージ<実態調査>」)

ふじの里山くらぶ会報に掲載された適応策の実践方法

図2 ふじの里山くらぶ会報に掲載された適応策の実践方法
(出典:気候変動の藤野学 「第3ステージ<テーマ実践>」)

脚注
(注1)NPOふじの里山くらぶによるコーディネートにより、白井信雄教授と有志の市民が協働で方法をデザインし、運営するプロジェクト。
(注2)気候変動の緩和及び適応に顕著な功績のあった個人又は団体に対し、その功績をたたえるために環境大臣が表彰を行う。

出典・関連情報
気候変動の藤野学webページ 「「気候変動の藤野学」とは」 (2020年4月29日更新)
https://fujino-satoyama.com/fujinogaku/post-22/
気候変動の藤野学webページ 「第1ステージ<実態調査>」 (2020年4月29日更新)
https://fujino-satoyama.com/fujinogaku/post-26/
気候変動の藤野学webページ 「第2ステージ<テーマ選定>」 (2020年4月29日更新)
https://fujino-satoyama.com/fujinogaku/post-28/
気候変動の藤野学webページ 「第3ステージ<テーマ実践>」 (2020年4月29日更新)
https://fujino-satoyama.com/fujinogaku/post-30/
気候変動の藤野学webページ 「台風19号(2019/10/12)による土砂災害」 (2020年4月29日更新)
https://fujino-satoyama.com/fujinogaku/post-32/
気候変動の藤野学webページ 「再出発に向けて〜可能性と課題〜」 (2020年4月29日更新)
https://fujino-satoyama.com/fujinogaku/post-34/
環境教育、 2017 年 27 巻 2 号 p. 2_62-73、白井信雄、田中 充、中村 洋 「「気候変動の地元学」の実証と気候変動適応コミュニティの形成プロセスの考察」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoee/27/2/27_2_62/_pdf/-char/ja
相模原市環境政策課 「相模原市における気候変動適応への取組紹介」
http://kanto.env.go.jp/kanto2-s9-3.pdf
相模原市環境政策課 「これからも地球温暖化は進みます! 今から気候変動の影響に備えよう」 (2017年3月発行)
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/148/pamphlet.pdf

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