校種別の熱中症予防ガイドラインの作成

掲載日 2021年7月21日
分野 健康
地域名 北海道・東北(青森県)

気候変動による影響

弘前大学教育学部附属学校園(以下、附属学校園)では、猛暑に見舞われた2012年の保健室利用者の急増をきっかけに、熱中症対策として、熱中症チェックシートや暑さ指数モニタリングシステムを取り入れてきました。しかし、気温が急上昇する時期や夏休み明けに熱中症を疑う症状の児童生徒等が増加する傾向が明らかで、暑さに順化できない子どもが増えてきていることが考えられ、暑熱環境の掌握や学校行事における熱中症対策が大きな課題となっていました。さらに、2019年5月下旬には、寒冷地である青森県弘前市でも最高気温30度以上の真夏日が3日間連続したことから、熱中症対策について見直しを図る必要がありました。

取り組み

附属学校園では、各校の実情や児童生徒等の発達段階に合わせた熱中症予防の指針が必要であると判断し、個別の対応を要する附属特別支援学校を除く、附属幼稚園、小学校及び中学校の校種別の熱中症予防に関するガイドラインを作成しました。

  • 附属幼稚園:これまでに参考としてきた日本スポーツ協会による「暑さ指数に応じた注意事項等」が幼児の活動を基準としたものではなく、教職員が判断に迷うことが多かったことから、「保育活動に関する指針」として『附属幼稚園のガイドライン』を作成しました(図1)。作成の際に、これまでの「運動」を「外遊び」に置き換え、活動場所や内容についても具体的に示すなど、教職員が判断しやすい基準となるように工夫されています。また、対象が幼児であるため、休憩、水分補給については時間や回数にこだわらず、教職員がこまめに促せるよう、10~20分に1回以上、20~30分に1回以上という表現を用いました。
  • 附属小学校:熱中症の発生が運動時に限らないことや、理科や生活科等は屋外の学習も多いことを考慮して、「運動や学習活動に関する指針」として運動と学習活動はそれぞれ「屋外」と「屋内」に分けられた『附属小学校のガイドライン』を作成しました。教職員が体育・理科・生活科等の授業を行う際に、活動場所や内容について判断しやすい基準となるよう工夫されています。
  • 附属中学校:附属小学校とほぼ同じ内容で『附属中学校のガイドライン』を作成しました。ただし、部活動、学校行事等における熱中症発生を考慮し、危険度が「厳重警戒」では、運動・学習活動・その他の活動の全てにおいて「教職員(顧問・コーチ)が付けない場合は中止」としました。

それぞれのガイドラインは、各校の職員会議において、教職員の共通理解が図られました。附属幼稚園においては、保護者に対し、『附属幼稚園のガイドライン』に関するお知らせや保健便りを利用した啓発活動を行っています。
また、暑さ指数(WBGT値)は温度ではないことを児童生徒等に理解させることが難しいことや、単位が同じ「℃」で混同するという点を踏まえ、危険度区分ごとに附属学校園で統一したカラーやアイコンを使用することにしました(図2)。

効果/期待される効果等

  • 附属幼稚園:9月上旬に残暑が厳しく「厳重警戒」に達した日は、『附属幼稚園のガイドライン』に従い、外遊びを中断して屋内遊びに切り替え、熱中症予防を図りました。また、園児に対して紙芝居を用いて熱中症予防についての保健指導を行った結果、「熱中症にならないために水分をとる」という言動も見られるようになりました。
  • 附属小学校:『附属小学校のガイドライン』に従い、屋外の活動を暑熱環境が比較的良好であった体育館での活動に切り替え、安全に配慮することができました。9月上旬の運動会では、気温上昇の予報を踏まえて前日には午前中に終了できるようプログラムを縮小して実施することを決定しました。さらに、当日は、朝の時点で暑さ指数が「警戒」を指していたため、応援合戦や閉会式をテントの中で行う等の措置が講じられました。また、ガイドラインの提示物を作成し、暑さ指数や危険度をグラウンドで入り口に表示したところ、児童が関心を示し、熱中症や暑さ指数に対する知識・理解が深まっている様子が観察されました(図3)。
  • 附属中学校:部活動や文化祭等における熱中症対策が大きな課題でしたが、『附属中学校のガイドライン』に従い、暑さ指数「厳重警戒」に達した文化祭当日は屋外プログラムの中止措置による熱中症対策が講じられました。また、生徒が活動場所の暑さ指数の上昇を部活動顧問や養護教諭に報告し、活動内容の変更や休憩を自主的にとる行動が観察されました。その結果、2019年6~9月における熱中症疑いの発生事例は29件と減少傾向になりました(2018年44件)。発生事例も軽症が多く、医療機関の受診や救急搬送の事例もありませんでした。

附属学校園で統一したカラーやアイコンを使用する提示物等により、幼稚園から中学校に至る段階的な熱中症予防の理解や知識の定着が期待されています。今後も附属学校園が連携し、児童生徒等の発達段階に合わせた取組を継続することで、熱中症に対する意識が高まり、さらなる予防行動が形成されていくことが期待されています。

附属幼稚園のガイドライン

図1 附属幼稚園のガイドライン
(出典:大髙景子、森菜穂子、丹代菜々、高橋千晶 「弘前大学教育学部附属学校園における熱中症予防のための暑さ指数モニタリングシステムの活用と校種別ガイドラインの提案」)

暑さ指数の危険度区分に使用したアイコン

図2 暑さ指数の危険度区分に使用したアイコン
(出典:大髙景子、森菜穂子、丹代菜々、高橋千晶 「弘前大学教育学部附属学校園における熱中症予防のための暑さ指数モニタリングシステムの活用と校種別ガイドラインの提案」)

グラウンドで入り口における暑さ指数危険度の表示

図3 グラウンドで入り口における暑さ指数危険度の表示
(出典:大髙景子、森菜穂子、丹代菜々、高橋千晶 「弘前大学教育学部附属学校園における熱中症予防のための暑さ指数モニタリングシステムの活用と校種別ガイドラインの提案」)

出典・関連情報
大髙景子、森菜穂子、丹代菜々、高橋千晶 「弘前大学教育学部附属学校園における熱中症予防のための暑さ指数モニタリングシステムの活用と校種別ガイドラインの提案」弘前大学教育学部研究紀要クロスロード 第24号(2020年 3 月):79-88
https://home.hirosaki-u.ac.jp/fuzoku-g-yogo/wp-content/uploads/sites/52/Crossroads_24_79-12020.3.pdf

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