気候変動による影響
富山湾では、400年以上も前から定置漁業が盛んであり、暖水性の回遊魚を中心に漁獲してきました。しかし、主要漁獲物であるブリの近年の漁獲量は不安定で、能登半島沖の海水温が低いときに多く漁獲される傾向にあります。日本海の温暖化が進むと回遊状況も変化し、漁獲量の予測が困難になると考えられます。
富山湾で漁獲される魚介類は、日本海の海洋環境、特に海水温に大きく依存しており、温暖化に対応した漁獲量の予測手法の開発が求められます。また、漁業への温暖化による影響に適応するため資源管理や養殖業を推進する必要があります。
取り組み
富山県は、栽培漁業(注1)を行うために、昭和53年に県内初となる県営の「富山県栽培漁業センター」(以下、氷見センター)を稼働し、昭和59年から63年には、公益財団法人富山県農林水産公社営の「滑川栽培漁業センター」(以下、滑川センター)が整備されました(図1)。現在、深層水が活用できる滑川センターでは、高水温では生産が困難な魚介類(ヒラメ、アワビ等)の種苗生産を行っています。一方、氷見センターでは、高水温でも生産できる魚介類(クロダイ、クルマエビ等)の種苗生産を行っています。
また、県内漁業者等から、市場での取引価格が高いキジハタやアカムツの放流についての要望が近年多いことから、「富山県農林水産総合技術センター水産研究所」において、両種の種苗生産技術の開発研究を平成23年度から開始し、キジハタの事業化に向けた技術開発を進めてきました(図2)。そして、放流効果の向上を図るため、令和元年8月に「キジハタ・アカムツ種苗生産施設」を水産研究所に整備しました。施設では、キジハタの種苗の増産に取り組んでおり、種苗の放流適地を検証しています。将来、キジハタ栽培漁業の事業化の目処が立てば、キジハタは高水温でも生産できることから、沿海市町や漁業団体の放流要望を踏まえたうえで氷見センターの施設を整備し、種苗生産・放流を実施します。同時に、水産研究所の「キジハタ・アカムツ種苗生産施設」は、アカムツの種苗生産に切り替え、アカムツ栽培漁業の早期事業化を推進することを計画しています。
効果/期待される効果等
栽培漁業によって、富山県の漁業経営の安定と水産物の安定供給が期待されます。また、富山県では平成31年3月に策定した「富山県水産業振興計画」において、栽培漁業対象種の産出額を令和8年までの約10年間で10%アップさせることを目標に掲げ、栽培漁業を一層推進することとしています。
脚注
(注1)栽培漁業は、水産動物の減耗が最も激しい卵から仔稚魚の時期を人間の管理下において飼育・育成(種苗生産)し、これを天然の水域へ放流したうえで適切な管理を行い、対象とする水産資源の持続的な利用を図ろうとするものであり、つくり育てる漁業の中核をなすものである。