気候変動による影響
国の特別天然記念物でもあるライチョウは長野県の「県鳥」で、過去50年間にその生息数が半減し、2000年代には約1700羽(推定)と絶滅の危機にあります(注1)。
絶滅危惧の要因としては、観光開発や登山者等が出すごみによる環境悪化、それに伴うキツネやカラス等捕食者の増加などが考えられます。また、最近では、気候変動の影響やニホンジカによる高山植物の食害などによる生息環境の悪化も懸念されています。今後さらに、気候変動や高山環境の変化を受けて、今世紀末には生息環境がほぼ消失すると予測されています。
取り組み
長野県は、中央アルプスのライチョウを絶滅から守るため2020年から「ライチョウ保護スクラムプロジェクト」として、主に以下の4つの活動に取り組んでいます。
① 県民参加のライチョウ保護
県民参加のライチョウ保護を推進するため「長野県ライチョウサポーターズ制度(注2)」を設立しました。この制度では下表の活動を行っています。
長野県ライチョウサポーターズによる活動内容 |
1.ライチョウの生息域内を巡回し、その生息状況等について情報を提供する。 |
2.ライチョウ保護に関する普及啓発活動を支援する。 |
3.その他ライチョウの保護回復に関し、必要な活動を行う。 |
また、ライチョウ保護のためには、ライチョウの生息状況を正確に把握する必要があります。このため長野県では、ライチョウを広く見守るために、登山者や長野県ライチョウサポーターズによるライチョウの目撃情報を投稿できるアプリ「ライポス(注3)」を開発しました(図1)。本アプリにGIS(地理情報システム)機能を盛り込むことで、ライチョウを目撃した登山者等から正確かつ多くの情報を集めることが可能となりました。アプリへ登録された目撃情報は、「ライチョウマップ」として蓄積されます(図2)。
効果/期待される効果等
「ライチョウ保護スクラムプロジェクト」により、中央アルプスでは10家族64羽の生息が確認されました。(2021年9月時点)
「ケージ保護」では、主な死因となる降雨による低体温や捕食者の危険から回避し、環境省が南アルプスで実施した実証試験では、孵化後3ヵ月の生存率はケージ保護しなかったヒナが平均25%であるのに対して、ケージ保護したヒナの生存率は平均65%になるなど、その効果が確かめられています。
また、「ライチョウマップ」へ蓄積されたデータは、ライチョウの新規生息地の発見や個体数の増減、生息区域の拡大や縮小の把握を可能にすることにより、ライチョウの保護保全に役立つと期待されています。
脚注
(注1)長野県版レッドリストの改訂時(2015年)において、ライチョウは、絶滅の危険性を示すランクが3番目に高いカテゴリーの絶滅危惧II類から2番目に高いカテゴリーのIB類になり、絶滅のおそれがさらに高まっていることが明らかである。
(注2)県民の参加と連携による「ライチョウの保護回復事業*」の推進を図り、ライチョウ保護体制を拡大するため、ボランティアによるライチョウ保護への協力制度をいう。
*ライチョウ保護回復事業計画(平成20年度策定)
本計画は長野県希少野生動植物保護条例に基づき、指定希少野生動植物について、その個体(卵及び種子を含む。以下同じ。)の維持又は保護増殖を促進するための事業、その個体の生息地又は生育地及びこれらと一体となった生態系の保全・回復及び再生をするための事業、その他保護を図るための事業について定めるもの。
(注3)かつて「ライチョウポスト」を設置して登山者からライチョウの目撃情報を調査票で集めていたが、手軽にライチョウの目撃情報を投稿できるように開発されたアプリである。
(長野県「ライポス」パンフレット:https://www.pref.nagano.lg.jp/kamichi/kamichi-kankyo/kannai/documents/raiposutirasi.pdf)
(注4)ライチョウの生存率が極端に低い生後4週の間、日中はライチョウに付き添って天敵から守り、夜間は生息地内に設置したケージ(鳥小屋)に入れて保護する手法をいう。