インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

蚊媒介感染症

健康分野|感染症|節足動物媒介感染症
協力:国立感染症研究所 昆虫医科学部

影響の要因

気候変動による気温の上昇や降水の時空間分布の変化は、感染症を媒介する節足動物 (蚊等)の分布可能域や個体群密度、活動を変化させる。

現在の状況と将来予測

現在、蚊媒介感染症*であるデング熱、チクングニア熱、ジカ熱は海外での断続的な大流行が続いており、国内への輸入感染症例の増加傾向が確認されている。また、その媒介生物であるヒトスジシマカの生息域が拡大し(青森県以西で定着)、活動可能期間が長くなっていることが確認されている(右図参照)。他の媒介節足動物(蚊等)の生息域の変化に関しては十分な情報がないが、変化が生じている可能性が指摘されている。

将来、媒介生物の活動期間長期化に伴い、上記感染症の流行の頻度が上がる可能性がある。

東北地方におけるヒトスジシマカ の北限の推移(2018年)
東北地方におけるヒトスジシマカ の北限の推移(2018年)
出典:国立感染症研究所(参照2020年10月16日)を一部改変

*主な蚊媒介感染症には、ウイルス疾患であるデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、日本脳炎、ウエストナイル熱、黄熱、原虫疾患であるマラリアなどがある。これらは主に熱帯、亜熱帯地域で流行している。(出典:厚生労働省「蚊媒介感染症」)

適応策

日本脳炎以外の蚊媒介感染症については大部分が海外からの輸入感染症であるが、その感染者から国内感染を起こさないようにする事が重要である。行政は発生源の対策による生活環境の改善(幼虫対策)に努め、また非常時(国内感染発生時)における成虫駆除実施の備えを行う。個人はできることとして、関連する知識を取得し、生活の中に対策を組み込む。

分類
行政
蚊対策
感染症対策
個人
平常時の対策
  • リスク地点の選定・管理
    蚊を発生させない環境づくり
  • 感染症に関する普及啓発
  • ワクチン、治療法等の普及・開発
    例)幼虫対策
  • 蚊を呼び寄せない環境づくり
  • 渡航時の注意点の徹底

    トラベラーズワクチンの接種等

    トラベラーズワクチンの接種等/虫除け剤の使用/肌の露出を減らす
発生時の対応
  • 推定感染地での駆除等

    感染者を吸血した可能性がある成虫の駆除が最優先

  • 感染症サーベイランス

    出典:国立感染症研究所(2018)を一部改変

  • まん延防止の為の協力
分類
行政(国、地方公共団体)
蚊対策
感染症対策
個人
平常時の対策
[ リスク地点の選定・管理 ]

蚊の発生が多く、かつ人口密度が高く人の利用が多い所(公園、住宅街等)をリスク地点として選定し、対策等を行う。選定の際には、土木関連部局(公園管理者等)や保健関連部局(感染症対応)等が連携し、横断的な情報収集(蚊に関する住民からの相談等)が出来ると発生時の初動も早くなり好ましい。地域の状況に即したリスク地点の選定が重要。

例1)発生源対策
蚊を減らすためには、水中に生息する幼虫(ボウフラ)を退治することが最も有効となる。幼虫対策として、物理的駆除(水がたまるごみ(古タイヤ)や不要物(水がたまる容器、ビニールシート)を片付ける)等を行う。また、適宜成虫対策としての清掃(下草を刈る等)を行う。木々は剪定を行い風通しをよくし、日光が当たるようにする。

例2)幼虫調査
成虫が羽化する5月中旬から成虫の活動性がなくなる10月下旬まで、調査(雨水マス調査で確認された場合水を抜く等)を実施する。

[ 感染症に関する普及啓発 ]

個人及び地域で実施可能な予防方法として、媒介蚊の発生源の対策、肌をできるだけ露出しない服装や忌避剤の使用等による防蚊対策(厚生労働省(2015)、ワクチンがある蚊媒介感染症(日本脳炎)については予防接種等の関連情報の普及を行う。

[ ワクチン、治療法等の普及・開発 ]

現在デング熱に対する承認されたワクチンは無いが、今後、有効性および安全性が保証されたワクチンが開発・承認されることが望まれる。

[ 蚊を呼び寄せない環境づくり ]

①幼虫対策
蚊の幼虫発生防止のために週に1回程度家の周囲のたまり水(古タイヤや植木鉢の受け皿、ビニールシート等)を無くすようにする。

②成虫対策
蚊に刺されない為の対策(肌の露出を控える等)と共に、家の周囲のやぶ、草むらを無くす等も有効。

[ 渡航時の注意点の徹底 ]

・流行地への旅行の際には必要な予防接種(トラベラーズワクチン)を受ける。

・流行地に出かけた場合の蚊に刺されないような工夫(長袖・長ズボンの着用、虫除け薬や蚊取り線香の使用)を行う。帰国後の体調不良時は、早めに医療機関を受診する。また、帰国日から 4 週間以内の献血自粛の遵守を行う。

発生時の対応
[ 推定感染地での駆除等 ]

・国内感染発生(疑い時含む)時、調査において成虫の密度が高いと判断された場合については、管理者、市町村、都道府県等とで相談の上、また事前に周辺住民へ周知した上で(国立感染症研究所 2015)、必要に応じて成虫対策(薬剤駆除等)を優先的に行う。

・発生時の緊急対策の後、推定感染地周辺では、必要に応じて成虫対策を行った後、新たな成虫の発生防止のための幼虫対策(物理的駆除等)を状況に応じて行う。

[ 感染症サーベイランス ]

感染症サーベイランス(発生動向調査)とは、法律に基づき、感染症の発生情報の正確な把握と分析、その結果の国民や医療関係者への迅速な提供・公開(国立感染症研究所感染症疫学センター 2018)を行うもので、適切な感染症対策を立案する為に行われている。デング熱やジカウィルス感染症等は全数報告で直ちに届出を行うものとして定められている

[ まん延防止ための協力 ]

・蚊媒介感染症と診断された場合には、行政機関が実施する積極的疫学調査に協力する(推定感染地の絞り込み、感染拡大の可能性等について確認する為に行われる)。蚊に刺されないように注意すると共に、献血を行わない。

・公表された推定感染地が自宅周辺の場合、幼虫対策(たまり水の除去)等に協力する。

コスト
中〜高
普及啓発:低、ワクチン、治療法等の開発:高

適応策の進め方

【現時点の考え方】
デング熱やチクングニア熱、ジカウィルス感染症については、仮に流行地でウイルスに感染した発症期の人(日本人帰国者ないしは外国人旅行者)が国内で蚊にさされ、その蚊がたまたま他者を吸血した場合に、感染する可能性は低いながらもあり得る。その蚊は冬を越えて生息できず、また卵を介してウイルスが次世代の蚊に伝わることも報告されたことがないため、限定された場所での一過性の感染と考えられる(厚生労働省 参照2020年7月10日)が、今後の気候変動の進行に伴う感染リスク拡大が想定されうる。現在、蚊媒介感染症の対応・対策に関する手引き等が整備されると共に、個人への周知が行われている。

【気候変動を考慮した考え方】
蚊媒介感染症の発生の予防とまん延の防止のために「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針(平成 27 年4月 28 日)」に基づき、都道府県等において、感染症の媒介蚊が発生する地域における継続的な定点観測、幼虫の発生源の対策及び成虫の駆除、防蚊対策に関する注意喚起等の対策に努めるとともに、感染症の発生動向の把握に努める(閣議決定 2021)。

2022年3月改訂

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