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イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

侵略的外来アリ*

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*本来の生息範囲の外へ人為的に移動させられ、分布を拡大しているアリ類。ヒアリのように全球的な侵入分散を果たし、定着地で多大な被害をもたらしている外来アリは、特に侵略的外来アリと 呼ばれている。(以上橋本編2020より引用)

影響の要因

人間活動(グローバル経済、都市化、土地改変等)が外来アリの定着を促す。また熱帯・亜熱帯域起源の種の定着には、気温上昇以外にも複数の要因が関係する。

現在の状況と将来予測

現在、国際的な物流により国境を越えて外来アリが運ばれ、人為的に改変された土地(港湾や都市環境など)に順応して、一部の種が国内で定着・分布拡大している(右図参照)。未定着種でも、輸入コンテナ等に乗じて侵入を繰り返しており、特にヒアリ類の国内定着が懸念されている。

今後も国際的な活動が続けば、侵略的外来アリの侵入・定着の恐れが高まると考えられる。一方、熱帯・亜熱帯域起源の種(ヒアリ、アカカミアリ等)の定着には、気温上昇以外にも冬季の低温(越冬の可否)や生息環境、在来種の動態等複雑な要因が作用して決まる為、動向を注視していく必要がある。

外来アリの侵入・定着状況

適応策

外来アリをはじめ外来種の侵入・定着は我々の生活が環境に大きな負荷を与えていることの写し鏡であり、在来生態系の保全やライフスタイルの見直しをする事が、外来生物対策の根幹となる。その基盤対策を実施した上で、侵略的外来アリ確認時には緊急対策として徹底防除を行う。

緊急対策
未侵入
侵入
定着
四島への
侵入段階**
クロヒアリ等
ヒアリ、アカカミアリ等
アルゼンチンアリ等
  • 海外→国内
    輸出国(定着国)との協力
  • 国内
    監視の継続・環境整備
  • 侵入発見時の緊急防除
  • 徹底的な防除・拡散防止
  • 防除の実施
  • 国内未侵入地域への拡大防止
基盤対策
  • 在来生態系の保全

    生物多様性の保全が外来種の入りにくい環境に繋がる

  • ライフスタイルの見直し

    グローバルサプライチェーンに頼りすぎない生活へ

  • ハイリスク外来生物に関する普及啓発
外来アリの侵入・定着を防ぐ環境づくり
=気候変動対策にも繋がる

**ここでは「侵入段階」を以下の3つに分けています。未侵入:四島に侵入していない状態、侵入:輸入貨物等と共に四島に侵入した状態、定着:侵入した地域で継続して繁殖している状態

基盤対策
緊急対策
外来アリの侵入・定着を防ぐ環境づくり
未侵入
侵入
定着
方法

侵略的外来アリの侵入機会を減らす生活様式への見直しや、侵入しても定着しにくい生態系の維持・保全、ハイリスク外来生物に関する普及啓発・リテラシー向上が非常に重要であり、対策の根幹となる。

[ 在来生態系の保全 ]

ヒアリは人為的に改変された土地(港湾や冬でも一定温度が保たれる都市環境など)や、裸地・草原など開放的な環境で生息しやすい一方、天然林や二次林のような自然度の高い環境では生息が難しい。また、在来アリが適正に生息している環境では、在来アリが外来アリの定着を一定程度防ぐ役割が期待される。このように在来生態系を維持・保全する事は、外来種が侵入・定着しにくい環境づくりとなり、同時に気候変動影響への対応力、回復力を高める事にも繋がる。また林地を保全する事は、炭素貯留機能等(温暖化対策)の役割も担う事が期待される。

[ ライフスタイルの見直し ]

地産地消型の消費行動や、自然共生型の経済の推進等、国内の地域資源を活用する生活様式や社会活動を取り入れていく事が、国際的な物流への過度な依存を緩和し、侵略的外来アリの侵入機会を減らす事に繋がる。また地域資源の活用は、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減にも繋がる。

[ ハイリスク外来生物に関する普及啓発 ]

外来生物法では、特定外来生物(ヒアリ類は要緊急対処特定外来生物)の指定や、その取扱規制等が定められている。それら外来生物が引き起こす問題や規制事項(輸入、運搬等)、日常生活での注意点等普及啓発を引き続き行い、市民の外来生物対策へのリテラシーを向上をする事が対策上重要となる。

緊急対策では、外来アリを国内侵入させない事が最重要となる。

[ 輸出国(定着国)との協力 ]

ヒアリやアカカミアリの侵入は主に日本に輸入される海上コンテナで発生しており、その積載地は、ヒアリは殆どが中国、アカカミアリは東南アジアからインド、ガーナまで多様な国となっている(橋本2019)。ヒアリでは、中国側への対策強化依頼や専門家交流等による協議・協力の継続等が行われており(環境省 参照2023年4月27日)、侵入防止には輸出国側の協力が重要となる。

[ 監視の継続・環境整備 ]

①監視の継続
侵入時の早期発見の為には、監視の継続が重要である。現在コンテナヤードやその周辺において、行政や港湾管理者による定期的な監視が行われている。また、令和5年4月には事業者が取組むべき事項について定めた「ヒアリ類(要緊急対処特定外来生物)に係る対処指針」が交付され、事業者との連携が強化されている。

②定着しにくい環境の整備
港湾のコンテナヤード内やその移送先等において、地面のひび割れの補修や雑草除去等を定期的に実施し、ヒアリ等外来種が潜みやすい環境をなくすことが侵入防止の観点から重要である(環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室 2023)。

侵入発見された場合、その場所や周辺で迅速かつ徹底的な防除を行い、拡散させない事が最重要事項となる。

[ 侵入発見時の緊急防除 ]

ヒアリ類(の疑いがあるアリ類)が発見された場合、担当者の安全を確保した上で、少数の場合はその場で殺虫等、可能な範囲で緊急処理し、行政機関に通報する。

[ 徹底的な防除・拡散防止 ]

①防除
侵入発見時の緊急防除後、関係機関等専門家により、発見場所及びその周辺の生息確認調査、及びその結果を踏まえた体系的な防除を行う。防除後のモニタリングは、対象の外来アリが確実に生息しなくなった事が確認できるまで実施する。

②注意喚起・協力要請
関係事業者等への注意喚起、協力要請(取扱輸入貨物等の点検)等行い、侵入地域からの拡散を防止する(岡山県 2018)。

[ 防除の実施 ]

定着地域では、防除の計画と実施(目標設定⇒防除計画区域の設定⇒生息状況の把握⇒防除手法の検討⇒計画策定⇒防除実施)と、モニタリング・評価⇒次の防除に反映、と順応的に防除を実施し、目標達成を目指す(環境省2013)

アルゼンチンアリでは東京都、神奈川県、静岡県、京都府の防除において、個体群密度の低下や部分根絶等具体な成果が上がっている(五箇2019)。

[ 国内未侵入地域への拡大防止 ]

未侵入地域への分布拡大阻止の為、定着地からの物資の運搬(特に土砂や園芸植物等)時には外来アリの有無を確認し、発見したら完全駆除する。

コスト

侵入を防ぐ事が最も低コストであり、侵入した場合は初期段階での防除(根絶)がコストが低くなる。

例)定着段階でのコスト:東京都大田区大井埠頭・城南島でのアルゼンチンアリ防除事例
面的防除:ベイト剤及び液剤の年間のコスト
①低薬量処理区:約6.6 万円/ha、②高薬量処理区:13.4 万円/ha
(環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室 2013より引用)

適応策の進め方

【気候変動を考慮した考え方】
現時点では、侵入発見が続いている侵略的外来アリを確実に駆除して定着を防ぐと共に、定着した種の地域根絶を進める事が喫緊の対策となっている。これらを緊急的に対応しながら、侵略的外来アリの侵入機会を減らし、侵入した場合でも定着しにくい環境を作る基盤対策を長期的に講じる事が重要であり、それらが温室効果ガス排出削減や、気候変動影響への回復力・対応力にも繋がる。

2023年7月初版

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