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イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

死亡リスク等・熱中症等

健康分野|暑熱

影響の要因

気候変動による気温の上昇は、熱ストレスの生理学的影響により、熱中症を増加させる可能性がある。

現在の状況と将来予測

現在、熱中症による救急搬送人員、医療機関受診者数・熱中症死亡者数の全国的な増加傾向が見られる。
また、日本全国で気温上昇による超過死亡者数・熱中症による死亡者数が増加傾向にあり、相対的に寒冷な地域で、高齢者死亡率が顕著に上昇している。

将来(2031~2050年)の熱中症リスク(全国合計搬送者数)を予測した研究では、各都道府県の現在(1981~2000年)と比較しRCP2.6シナリオ下では約1.3~2.9倍、RCP8.5シナリオ下では3.2~13.5倍程度となる予測結果が示されている。熱ストレス超過死亡数は、将来期間、RCP、年代によらず、すべての県において2倍以上となる事が予測されている*。(右図参照)

*補足:実際の熱中症搬送者数は、2008(総務省消防庁による熱中症搬送者数の調査開始年)~2009年と比較し、2010年以降2倍以上に増加している(環境省2018、図1-5参照)

RCP8.5シナリオの将来(2031~2050)気候下における熱中症リスクマップ(4GCMの平均値)
RCP8.5シナリオの将来(2031~2050)気候下における熱中症リスクマップ(4GCMの平均値)
出典:日下(2020)

適応策

熱中症は生命にかかわる病気だが、予防法を知っていれば防ぐことができる。予防は、脱水と体温の上昇を抑えることが基本であり、脆弱性(乳幼児、高齢者等)や環境(組織内、職場、自宅等)に応じたきめ細やかな対策を行う事が有効となる。

分類
基本的な対策
脆弱性・環境に応じた対策
情報収集
個人での対策
脆弱な集団への配慮
組織側での対応
学校、幼稚園・保育園
職場
方法
[ 暑さ指数(WBGT)*の確認 ]

環境省熱中症予防情報サイトより暑さ指数(WBGT)の情報提供が行われており、2021年からは「熱中症警戒アラート」が全国で実施される予定となっている。

*人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい①気温、②湿度、 ③日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 の3つを取り入れた指標(環境省参照2020年12月24日)。暑さ指数(WBGT)が28℃(厳重警戒)を超えると熱中症患者が著しく増加する事が報告されている。

個人での基本的な対策として、①暑さを避ける(暑い日や時間をさける等)②こまめな水分補給、③急に暑くなる日に注意する(徐々に暑さになれる)、④日頃からの適度な運動で暑さに備えた体づくりを行う、⑤各人の体力や体調を考慮して行動する(無理をしない)、⑥集団活動の場では個人の体力や体調に合わせ無理をさせない、の注意事項を守る。

[ 高齢者 ]

熱中症による救急搬送者人員の半数が高齢者(満65歳以上)となっている(総務省消防庁2020)。高齢者の熱中症は自宅での発生が半数を超えていることから(環境省 2018)、基本的な対策に加え、自宅での対策(温湿度計の設置や冷房利用の推進等)を促す事が重要である。特に高齢者のみの世帯の場合は①家族のサポート(IoT活用による見守りや電話等)、②自治体や町内会等組織によるサポート(声掛け、避暑施設の開放等)など様々な方法で注意喚起を行い熱中症を防ぐ事が考えられる。

[ 乳幼児 ]

乳幼児は体温が上がりやすく*、脱水にもなりやすいが、基本的な対策を守り、保護者が乳幼児の様子を観察しながら休憩や水分補給を促すことが熱中症の予防に繋がる。

*特に晴天時は地面に近い程気温が高く、高温環境になりやすいので注意が必要。

[ 共通 ]

活動や業務開始の前に各人の体調を確認し、体調に応じた対応(活動の見学、室内作業への変更等)を取るようにする。

[ 学校 ]

暑熱下のスポーツ活動(部活動、体育、昼休み等)では熱中症が起こりやすい為、教員は生徒の熱中症の兆候に注意し、適切に対処する必要がある。スポーツ活動中の熱中症予防として、①暑いとき、無理な運動はしない、②暑熱馴化(暑くなり始める前(5~6月頃)に、暑さに慣れる馴化期間を設ける)、③各個人の「のどの渇き」に応じた自由な水分、塩分の補給、④特に重装備の服装やユニフォームを着用するスポーツ種目では、できるだけ休憩時間を設け、その間に防具をはずし衣服を緩め、体温を下げる、⑤生徒の体調管理、が挙げられる。

[ 幼稚園・保育園 ]

基本的な対策に加え、日隠下での水遊び・ミストシャワー等遊びを工夫すると共に、室内での熱中症対策にも配慮する事が挙げられる。

業務に従事する労働者は、自身の症状に合わせて休憩を取りにくく、身体活動の持続時間が長い事等から、雇用者や監督者が労働者に対し適切な対応を取る必要がある。

[ 作業環境管理 ]

高温多湿作業場所(WBGT 基準値を超え、又は超えるおそれのある作業場所)においては、屋外(簡易屋根の設置等)、屋内(冷房設備の設置等)それぞれで対策を行うと共に、休憩場所の整備も行う。

[ 作業管理 ]

作業休止時間や休憩時間の確保、熱への馴化、水分・塩分の補給、服装への配慮、監督者による作業中の巡視等を行う。

[ 健康管理 ]

熱中症を発症しやすい疾患(①糖尿病、②高血圧症、③心疾患、④腎不全、⑤精神・神経関係の疾患、⑥広範囲の皮膚疾患、⑦感冒、⑧下痢等)がある労働者については、医師の意見を聞き人員配置を行う。

適応策の進め方

【現時点の考え方】
ひとりひとりがヒートアイランド現象や地球温暖化の防止に努めるとともに、熱中症についても正しい知識を持って予防を心がけること、そして、熱中症になったときに適切な処置を行うことができるようにする(環境省 2018)。

【気候変動を考慮した考え方】
熱中症による救急搬送人員、医療機関受診者数・熱中症死亡者数の全国的な増加傾向が確認されており、また、今後も熱中症リスクの増加が予測されていることから、熱中症の注意喚起や関係団体等への周知等が必要である。なお、情報伝達を行う際に、個人が取るべき対策についての普及啓発等と組み合わせた施策実施が有効である。(以上閣議決定 2021より引用)

【気候変動を考慮した準備・計画】
気候変動が熱中症に及ぼす影響も踏まえ、熱中症対策推進会議の下で、関係府省庁が連携しながら、救急、教育、医療、労働、農林水産業、スポーツ、観光、日常生活等の各場面において、気象情報及び暑さ指数(WBGT)の提供や注意喚起、予防・対処法の普及啓発、発生状況等に係る情報提供等を適切に実施する(閣議決定 2021)。

2022年3月改訂

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