Staff interview #46
高橋 奈津子(TAKAHASHI Natsuko)

現在のお仕事の内容について教えてください。

企画支援チームで、 気候変動適応に関する研究体制の強化に取り組んでいます。
適応に取り組んでいる研究所や大学の有識者から話を伺って、我々と一緒に取り組める事案を探したり、関係する研究者・機関同士が連携できるよう調整しています。
「適応」にはさまざまな分野があり、適応センターや国立環境研究所だけで対応することは難しいので、このように他の研究機関と協働しながら、専門家を招いた検討会等を企画しています。
そのためにも、当センターのスタッフのみならず、国内で取り組まれている適応研究の概要はできるだけ把握することを心がけ、適応に関する研究がよりスムーズに進むような橋渡し役になれたらと思っています。

他にも、国立環境研究所が運営する気候変動適応情報のプラットホーム「A -PLAT」で適応研究に関する情報を発信しています。研究者や行政の方に参考にしてほしいと思うと同時に、一般の方にも見てもらえるよう、届ける相手を意識したコンテンツを作り、研究成果が各地で社会実装されるところまで進めば嬉しいです。

大学で取り組んだ研究について教えてください。

筑波大学生命環境学群生物資源学類で農学について学びました。生物資源学類はいわゆる農学部のような場所で、化学や経済なども含めて、多角的に農学ついて学ぶことができました。幼少期から自宅の庭でガーデニングに励む植物好きだったこともあり、野菜や花に関する研究をしている蔬菜花卉学研究室に入りました。小さい頃から観察していた植物の成長過程を科学的な角度から知ることに楽しさを感じました。「今植物の体の中でこんなことが起きているから花が咲くのか」と幼少期から花を育てていた経験が、科学で実証されている感覚もあったのかもしれません。一日中小さな温室にこもって調査をする日もしばしばでしたが、温室は不思議と心が落ち着く場所でした。

大学卒業後、入社された種苗メーカーでは、どのような業務にあたられましたか。

植物や野菜の苗を作る植物工場で、継ぎ木をしたトマトの生産方法や最新技術の調査を行っていました。印象深いのは、生産性を高めるためにトマトの継ぎ木作業を行うロボットを試験導入したことです。当時は作業用ロボットが実用化されたばかりで、ぎこちなさはありつつも、作業は人間の数倍早かったです。生産性を高めながら、植物の質も保つ難しさに日々向き合っていました。

適応センターに入所したきっかけを教えてください。

2015年に国立環境研究所に入所した時は、事務の仕事をしていました。ちょうどその頃、研究所内で適応センターの立ち上げが検討されており、私のバックグラウンドを知った現センター長の肱岡から立ち上げメンバーとして声をかけられました。立ち上げ当初は、同僚も5,6人と少なく、メンバー全員が日々目の前の仕事を処理していくような状態で。A-PLATに情報を集めることにも苦労しましたが、時を経て貴重な情報のつまったプラットフォームになったと感じます。

現在の仕事のやりがいを教えてください。

研究に関する検討会などの事務局を務めることは大変でもあり、やりがいを感じる業務です。先日も長く取り組んでいたワーキングの内容をまとめた論文が完成し、受理されました。検討会の委員の先生方が、気候予測に関する研究内容を社会実装するための共有方法をまとめてくださったものです。適応研究に関わる多くの人が感じる課題を解決に導くためのヒントがつまっているので、これからの業務の中で活用していきたいと思っています。

今後の展望になりますが、全国各地の気候変動の影響や適応策の実例を、わかりやすく発信したいと考えています。例えば、ワイン用ぶどうの栽培適地に合わせてワイナリーを移設した例や、愛媛県ではうんしゅうみかんの生育が困難になり始めた代わりに、ブラットオレンジを作っている例など適応策の優良事例が多くあります。地図上に全国各地の気候変動影響と適応の取り組みを可視化したポスターをオフィスに貼っていますが、そのようなわかりやすい形で、日本各地の取り組みが見えるものを作りたいと同僚たちと話しています。

今年の春に育休から復帰された高橋さん。働き方に変化はありましたか。

2020年夏から2023年春まで、3年弱の育休を取りました。現在は、3歳の女の子と1歳半の男の子を育てながら働いています。実は、同じ職場で働いている夫も、長男が産まれたタイミングで1年間の育休を取りました。子どもと一緒にいる時間を確保するためでもありますが、研究所の良い福利厚生の制度を自分が使うことで、後に続く人が増えたらという思いもあったようです。子どもの保育園への送迎は、行きは夫、帰りは私が担当しています。保育園のお迎えの時間が決まっているので、決まった時間の中で段取り良く業務に取り組めるようになりました。仕事と子育て、どちらの時間もあることで、生活にメリハリがつき、育休前よりも気を引き締めて働けている気がします。慌ただしい毎日ではありますが、子どもを寝かしつけた後、達成感を感じながら夫婦でお酒を飲む時間が至福の時。休日は季節の花や風景を見たり、自然の造形を楽しむことでリフレッシュしています。

適応センターは、私が育休を取っていた3年間で、業務が急拡大し、スタッフの数も増えました。異なる専門性を持ったスタッフが増えたことで、対応できる分野が広がったように感じます。さまざまな経験を積んだスタッフに囲まれて、日々刺激を受けています。

今後の目標を教えてください。

子どもを産んでから、今後の気候変動をより自分ごとに感じるようになりました。子どもたちが歳を重ねた頃には気温は今よりも上がり、世界中で洪水などの自然災害が発生するという予測が多くの研究でされています。そうならないための緩和策をとることはもちろん、そのような事態が起きることを前提にした備えが必要な状況になっています。メディアや教育現場で気候変動に関して扱われる機会が増え、気候変動適応の認知は進んできていますが、まだひとごとに思われている方もいるかもしれません。適応センターの取組をとにかく多くの方に知ってもらい、自分ごととして捉えてもらえるような情報発信を皆で考えていきたいです。また、その情報にしっかりとした科学的根拠を与えていくためにも、「気候変動適応」が一つの学問として発展していくような取組を支えていきたいです。

子育てと仕事の両立に奮闘中の高橋さん。お子さんが産まれてからは、「適応」への考え方がより自分ごとになり、仕事にも生かされているそうです。高橋さん、ありがとうございました!
取材日:2023年9月19日

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