No 3. GISデータを知る

目標
GISデータの構造や種類を理解する
学習時間
約1時間

3.1 GISデータの基本概念

レイヤ
GISではマップ上に追加されているデータを「レイヤ」という概念で認識しており、それぞれのデータを層のように重ね合わせて地図として表現している。レイヤの下層に配置されたデータが地図上でも下層に描画され、上に配置されたデータは他のデータより上に重なって表示される。

図3-1 レイヤ構造の考え方
「地球地図日本データ」(国土地理院)
(https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/gm_jpn.html)を加工して作成

3.2 GIS基本データ形式

GISデータ形式は大きく分類して、頂点(=座標)で構成される図形の「ベクター(vector)」と、画像に基づく「ラスター(raster)」が存在する。(図3-2)

図3-2
左:ラスター形式:データをピクセルで表す(形状:画像)
右:ベクター形式;データを点やそれらをつなぐ線で表す(形状:点、線、面)

ベクターデータ

ベクターデータは点(ポイント)・線(ライン)・面(ポリゴン)の3種類に分類される。例として、鉄道駅の位置は点、道路は線、コンビニなどの建物は面で表される。(図3-3)

図3-3 点線面のイメージ

ベクターデータは、その位置に関連する情報を「属性」として持つことができる。属性をもつことで、たとえば図3-4で示すように、「16:00に営業している銀行」や「制限速度が50km以下の道路」のような特定の条件に合致するデータを抽出できたり、市町村の人口に応じた面の色分けも可能である。

図3-4 属性を持つベクターデータのイメージ
(井口 奏大. 現場のプロがわかりやすく教える位置情報エンジニア養成講座, 秀和システム, 2023. P. 26)

ベクターデータの主要なファイル形式には「Shapefile」があり、以下のような複数のファイルから構成されている(図3-5)。

  • .dbf:属性情報を記録したファイル
  • .shp:座標を持った形状を記録したファイル
  • .shx:.shp と .dbf を結びつけるためのファイル
  • 〜.prj:座標系に関する情報を持ったファイル
図3-5 シェープファイル構成
地球地図日本データ(国土地理院)
(https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/gm_jpn.html)を元に作成

GISデータの基本概念については、以下のリンクもご参照下さい。

地物

ベクターデータとして存在する個々の点(ポイント)・線(ライン)・面(ポリゴン)を「地物」と呼ぶ。例えば、「空港地点」のポイントデータのレイヤにおいては、「羽田空港」や「関西国際空港」のような個々の地点が地物である。ポイントデータ以外にもラインデータであれば1つの線が、ポリゴンデータであれば1つの領域がレイヤを構成する最小単位であり、GISではこれらの一つ一つの地物に属性情報を持たせてデータを管理することができる。(図3-6)

図3-6 QGIS上における地物情報の確認
「地球地図日本データ」(国土地理院)
(https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/gm_jpn.html)を加工して作成

ラスターデータ

ラスターデータは位置情報を持った画像データ形式である。TIFFフォーマットの他、pngやjpegなどの一般的な画像ファイルに位置情報を付与することでGISで使用可能となる(図3-7)。スキャンした紙地図も、適切な位置情報を設定することによりGISデータとして利用できる。ラスターデータの利用例には、背景地図(図3-8)、航空写真(図3-9)、標高データ(図3-10)などがある。

図3-7 ラスター
「地球地図日本データ」(国土地理院)
(https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/gm_jpn.html)を加工して作成
図3-8 背景地図イメージ
「地理院タイル」(国土地理院)
https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html
図3-9 航空写真
「地理院タイル」(国土地理院)
https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html
図3-10 標高データイメージ
国土地理院 基盤地図情報数値標高データを元に作成
https://fgd.gsi.go.jp/download/menu.php

ラスターデータとベクターデータ
GISソフトのレイヤパネルでは、マップに追加しているそれぞれのデータタイプを判別することができる ようになっているものもある(図3-11)。

図3-11 QGISの画面上でのデータタイプ

3.3 回転楕円体と座標系

位置の表し方と座標参照系

GIS上の位置特定には座標が用いられる。座標には緯度と経度の角度で表される地理座標系と、ある原点からの距離(メートル単位)で表される投影座標系がある。またGIS上での地球の形状は回転楕円体と呼ばれる球体で定義しているが、回転楕円体の形状には多くの種類が存在する。そのため、同じ緯度経度でも異なる回転楕円体を用いると異なる位置を示すことになる。現在日本では測地基準系1980(GRS80)楕円体が多く使われている。

この各回転楕円体の形状と座標の示し方の組み合わせを座標参照系(CRS, Coordinate Reference System)と呼び、座標参照系の種類それぞれにEPSGコードという識別子が割り当てられている。例えば、GRS80回転楕円体に準拠するWGS84地理座標系のEPSGコードは4326である(図3-12)。

Shapefileの場合、データの座標系の情報は.prjファイルに記述されているが、.prjファイルが欠損していたり、データの座標値に対して.prjで記載されている座標系が異なっている場合などは、データに定義されている座標系通りにデータが読み込まれず、正しい位置に描画されない。

図3-12 座標系の設定画面(QGISの例)

地理座標系

地理座標系では、緯度と経度で位置を特定する。緯度は赤道を基準に北方向が正、南方向が負の値を取り、経度はイギリスのグリニッジを通る南北の経線を基準に東方向が正、西方向が負の値を取る。GPSのシステムでも使用されている座標系であり、WGS84やJGD2000、JGD2011などの種類がある (図3-13)。

図3-13 経緯度の地球上の位置表し方
「国土地理院「日本での位置の基準となる測地系」
https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/datum-main.html

投影座標系

地球上の場所を緯度経度で特定することは可能だが、地球は球体であるため赤道付近と極地付近では経度1度の実距離が異なり、距離や面積を緯度経度のみで正確に測ることは困難である。地球上の距離や面積を求める際には、球体である地球を平面として扱う必要があるが、球体を平面に展開しようとすると隙間(誤差)が生じる(例:みかんの皮をむいて広げたときの隙間(図3-14))。GISではこの誤差を最小限に抑えるために、地球を平面上に投影して描画する投影座標系が用いられる。

図3-14 みかんの皮を展開した様子
「井口 奏大."位置情報エンジニアリングのすすめ" Software Design 2023年8月号, 2023,.p.110.)

次では、日本においてよく使われる投影座標系を紹介する。

Webメルカトル(EPSG:3857)

Webメルカトルはメルカトル図法に基づいた投影法である。Webメルカトルは地球を平面に展開する際に生じる歪みを許容しつつ、全世界を一貫した形で表現できる利点があるが、高緯度地域の面積や形状が実際よりも大きく歪められることに注意が必要である。主にWeb配信する際の座標系として使用される。(図3-15)。

図3-15 Webメルカトルイメージ図
(井口 奏大. 現場のプロがわかりやすく教える位置情報エンジニア養成講座, 秀和システム, 2023. P. 19を参考に作成)

平面直角座標系(EPSG:2454, EPSG:6676…等)

平面直角座標系(Japan Plane Rectanglar)は、日本を19の系(=領域)に区分し、それぞれの領域を便宜上「平面」として扱う投影法である。(図3-16)平面にするエリアを細かく分けることで、地図の歪みを最小限に抑えることができる。
GIS上の位置は各系の原点からの東西方向および南北方向の距離で表される。例えば、JGD2011平面直角座標系 第Ⅸ系において東京駅の位置は[-35406.9m,-5977.1m]となるが、これは第Ⅸ系の原点から南方向に35406.9m、西方向に5977.1mの位置を示している。
第Ⅰ系の原点は長崎県沖合に、第Ⅸ系の原点は埼玉県といった具合に各系によって原点の位置が決まっており、平面直角座標系のデータを扱う際には、そのデータの位置に最も近い原点の系を定義することで、データの正確な位置関係に基づいた解析処理などを行うことができる。
平面直角座標系の19それぞれの系の適用エリアは「国土地理院 わかりやすい平面直角座標系:https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/jpc.html」において確認できる。

図3-16 19の平面直角座標系 (国土地理院)
https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/jpc.html

UTM図法

UTM図法は、メルカトル図法に基づいた地図投影法で、ユニバーサル横メルカトル座標系(Universal Transverse Mercator coordinate system)の略称である。
UTM図法では経度方向に西経180°から東に向かって地球を6°ずつ1〜60ゾーンに分割され、緯度方向に赤道で北半球と南半球に二等分されている。各区画で地球の曲率を考慮して精度精度よく地図を描画しており、これにより、広範囲にわたる地域でも地図上の距離や形状の歪みを少なくすることができる。日本周辺では北半球の51帯~56帯が利用されている。(図3-17)

図3-17 UTM座標系
(2022年7月28日(木)12:49UTC)
国土地理院 中部地方測量部(平成26年3月5日)
https://www.gsi.go.jp/common/000090488.pdf

目的に応じた座標系の選定

地理座標系では座標の値が経緯度であるため、距離や面積の計測が不可である。距離や面積の計測が不要であるなら地理座標系でも良いが、距離または面積の計測が必要な場合、投影座標系を利用する。投影座標系の中では表示エリアの範囲によって座標系を選定する。市町村及び都道府県レベルは平面直角座標系(場所によって19系の中から選定する)を、複数の都道府県を跨ぐほどの広域のデータではUTM図法(場所によって51帯~56帯から選定する)を、それより広い範囲の場合はWebメルカトルなどの広域に対応した投影座標を使用すると良い。

座標系については、以下のリンクもご参照下さい。

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