No 2. GISソフトの種類と概要

目標
業務の目的に応じて各種GISソフトウェアから適切なツールを選定できる
学習時間
約1時間

2.1 デスクトップ型GISソフト

デスクトップ型GISは複数の製品があるが、ここでは世界的にユーザー数が多いArcGIS ProとQGISを例として特徴や機能について紹介する。

ArcGIS Pro

【公式サイト】
https://www.esrij.com/products/arcgis-pro/

【特徴】
ArcGIS ProはESRI社から提供されている、安定性が高い有償の高機能デスクトップGISアプリケーションである。ESRIジャパンによる保守やサポートが行われている。操作を習得する為のガイドや動画、研修、Q&A等も充実しており、ユーザーコミュニティフォーラムも開催されている。

【機能】
基本機能として地理情報データの表示・解析・編集を行うことができ、Spatial Analystや3D Analystなどの有料のエクステンションを使用することで更に高度な解析(3D解析、ラスターデータの解析等)が可能となる。またクラウド型GIS(ArcGIS online、次項参照)との連動も出来、地図の共同編集や発信もノーコードで可能となっている。(図2-1)

図2-1 ArcGIS Proの画面
出典 esri「ArcGIS Pro」
https://pro.arcgis.com/ja/pro-app/latest/get-started/introducing-arcgis-pro.htm (参照2024年5月15日)

【利用環境】
Windows OS

QGIS

【公式サイト】
https://qgis.org/ja/site/

【特徴】
QGISはオープンソースのデスクトップ型GISソフトである。開発・運用はコミュニティによって行われており、ソフトウェアに不具合があった場合は、コミュニティに報告することで改善される可能性がある。ユーザーも多く、講習会や技術的な質問のやり取りなど、ユーザー同士の交流が盛んに行われている。

【機能】
QGISには様々なプラグイン(追加機能)が用意されており、基本機能には無い分析ツールやデータ処理機能を組み込むことができる。世界中のコミュニティのメンバーから、数多くのプラグインが公開されているが、コーディングスキルがあれば自分自身で実装することも可能である。 (図2-2)

図2-2 QGISの画面

【利用環境】
Windows OS、Mac OS、Linux OS
表2-1はArc GIS ProとQGISの主な項目の比較表である。

表2-1 ArcGIS ProとQGISの比較

ArcGIS Pro
OS Windows
料金 有償
基本機能 可能
追加機能 有料
安定性 高い
QGIS
OS Windows,Mac,Linux
料金 無償
基本機能 可能
追加機能 無料
安定性 稀に不具合あり
ArcGIS Pro QGIS
OS Windows Windows,Mac,Linux
料金 有償 無償
基本機能 可能 可能
追加機能 有償 無償
安定性 高い 稀に不具合あり

※データの表示・解析・加工操作を指す。

2.2 クラウド型GISソフト

クラウド型GISソフトの概要

クラウド型GISソフトは、インターネットを介してWebブラウザ上で閲覧することができる地図サービスであり、利用者はシステム開発者が公開するWebページを通じてサービスにアクセスする。一般的にWebGISとも呼ぶ。

専用のソフトウェアをインストールする必要がなく、インターネット接続さえあれば手軽に利用することができる。
クラウド型GISの代表として、Esri社が提供しているArcGIS OnlineはWebブラウザ上で利用可能なGISプラットフォームである。

多くのクラウド型GISのシステム開発にはWeb開発に関する知識が必要である。LeafletやMapbox GL JS、OpenLayers、Cesium、MapLibre GL JSといったWebGISエンジンを基に構築されることが一般的であり、JavaScript言語で開発されることが多い。

GISデータは膨大なデータ容量になることがあり、Webブラウザの性能向上によりデータ描画の安定性は向上しているものの、データの効率的な配信手法やフォーマットには工夫が求められる。

デスクトップ型GISとは異なり利用者自身が特定の解析を行うことは一般的には困難であるが、一部のクラウド型GISでは簡易な解析であれば可能になっている場合もある。

ここでは、ArcGIS OnlineとWebGISエンジン(Leaflet、MapLibre、OpenLayers)について紹介する。これらのWebGISエンジンは、それぞれ地理データの可視化手段、スタイリング、操作性に違いがあるため、開発者はそれぞれの特性や目的に応じて適切なWebGISエンジンを選択する必要がある。

ArcGIS Online

ArcGIS Onlineは、ArcGIS Pro同様にEsri社によって提供されるクラウド型GISプラットフォームである。Webブラウザ上で利用可能で、専門的なGISソフトウェアをインストールすることなく、インターネットの接続環境があれば利用できる。地図の作成や空間分析などの基本的な機能は無料で提供されており、高度な解析機能やデータストレージの利用にはクレジットが必要となる。

ArcGIS Proで作成した地図をArcGIS Onlineで公開したり、他のArcGISライセンス所有者との共同編集も可能となっている。
またノーコードで様々なアプリ(現地調査用のフォーム作成やダッシュボードの作成等)を構築する事が可能である。(図2-5、図2-6)

図2-5 データ詳細確認機能
出典:esri「ArcGIS Online」
https://www.esri.com/en-us/arcgis/products/arcgis-online/capabilities/make-maps
図2-6 リアルタイムデータ可視化
出典:esri「ArcGIS Online」
https://www.esri.com/en-us/arcgis/products/arcgis-online/capabilities/make-maps(参照2024年5月15日)

様々なWebGISエンジン

名称 概要
Leaflet

軽量でシンプルな操作性で非常に人気のあるWebGISエンジンである。わかりやすいAPIで、初心者でも開発しやすい(1)。
データの描画や属性情報の表示など、基本的な機能は備わっているが、アニメーションなどの高度な描画には向いていない。

図2-7 Leaflet公式サイト
https://leafletjs.com/
図2-8 Leafletによる可視化事例
https://leafletjs.com/examples/quick-start/
MapLibre

Mapbox GL JSから派生したWebGISエンジンであり、WebGLを使用していることからWebブラウザでの描画パフォーマンスが非常に高い(1)。
ベクタータイルにも対応しており、容量の大きいデータも比較的安定して描画することが可能となっている。 スタイリングや描画手段も豊富であり、3D可視化も可能となっている。(図2-10)

図2-9 MapLibre公式サイト
https://maplibre.org/
図2-10 MapLibreによる可視化事例
https://maplibre.org/maplibre-gl-js/docs/examples/
OpenLayers

柔軟性の高いWebGISエンジンとなっており、他のWebGISエンジンが対応していない地図投影法に対応している(1)。
3D地図の表示やWebGLを活用した高性能な描画を実現している。

図2-11 OpenLayers公式サイト
https://openlayers.org/
図2-12 OpenLayersによる可視化
事例
https://openlayers.org/en/latest/examples/
名称 概要 公式サイト 公式サイトより事例
Leaflet 軽量でシンプルな操作性で非常に人気のあるWebGISエンジンである。わかりやすいAPIで、初心者でも開発しやすい(1)。
データの描画や属性情報の表示など、基本的な機能は備わっているが、アニメーションなどの高度な描画には向いていない。
図2-7 Leaflet公式サイト
https://leafletjs.com/
図2-8 Leafletによる可視化事例
https://leafletjs.com/examples/quick-start/
MapLibre Mapbox GL JSから派生したWebGISエンジンであり、WebGLを使用していることからWebブラウザでの描画パフォーマンスが非常に高い(1)。
ベクタータイルにも対応しており、容量の大きいデータも比較的安定して描画することが可能となっている。
スタイリングや描画手段も豊富であり、3D可視化も可能となっている。(図2-10)
図2-9 MapLibre公式サイト
https://maplibre.org/
図2-10 MapLibreによる可視化事例
https://maplibre.org/maplibre-gl-js/docs/examples/
OpenLayers 柔軟性の高いWebGISエンジンとなっており、他のWebGISエンジンが対応していない地図投影法に対応している(1)。
3D地図の表示やWebGLを活用した高性能な描画を実現している。
図2-11 OpenLayers公式サイト
https://openlayers.org/
図2-12 OpenLayersによる可視化事例
https://openlayers.org/en/latest/examples/
(1) 井口 奏大. 現場のプロがわかりやすく教える位置情報エンジニア養成講座, 秀和システム, 2023. pp.114-116

2.3 オンライン配信の背景地図

クラウド型GISやデスクトップ型GIS上でデータを可視化する際には、背景地図を表示することが一般的である。背景地図にも様々な種類があるが、ここではオンライン配信の背景地図(以下「オンライン配信地図」とする)でよく利用されるタイル地図を紹介する。

タイル地図は「タイル」と呼ばれる技術により、広域のデータを細分化して保持している。そのためシステム側はユーザーの操作(地図移動やズーム)に応じて必要最小限のデータのみ描画すれば良く、描画にかかる時間を短縮することができる。このことからWeb上での配信に適していると言える。

オンライン配信地図の多くは、衛星写真や国土地図などが活用され、範囲は日本全国・世界範囲で整備されている。クラウド型GISだけでなくデスクトップ型GISにおいても背景地図として広く使用されている。

オンライン配信地図

以下に主なオンライン配信地図の種類を挙げる (図2-13)

  • 国土地理院 地理院地図タイル
    地理院淡色地図:標準地図の配色を淡色化したもの。
    地理院衛星写真:国土地理院が提供する航空写真をもとにタイル化したもの。
    ※そのほかの種類については国土地理院 地理院タイル一覧(https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html)を参照。
  • OpenStreetMap
    OpenStreetMap (https://www.openstreetmap.org/#map)のデータをタイルとして配信したもの。
    OpenStreetMapはコミュニティにより地図データの追加や更新がなされており、世界中のメンバーが更新した地図情報(道路や建物など)を利用することが可能である。
図2-13 ArcGIS Pro上での行政界(図中青線)と背景地図
左:地理院淡色地図、中:地理院衛星写真、右:OpenStreetMap
地理院タイル (https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html)

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