「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

草原の保全・再生

掲載日 2023年10月20日
分野 自然災害・沿岸域 / 水環境・水資源 / 自然生態系
地域名 全国

気候変動による影響と適応における位置づけ

短時間強雨や大雨が増加する一方、無降水日数の増加や積雪量の減少による渇水の増加が予測されている。健全な草原生態系は、高い雨水貯留・水源涵養機能を持ち、斜面崩壊に伴うリスクの軽減にも寄与することが知られており、草原生態系の保全・再生により、防災・減災と水資源の確保に寄与することが期待される。

取り組み

草原は採草や放牧により人為的に維持されてきた環境である。このため、低利用化、管理放棄による植生遷移、樹林化による劣化が生じないよう、定期的な維持管理により保全・再生を図る。これにより、水源涵養、斜面防災等の機能を発揮させることができる。

野焼き
(草焼き、火入れ)
秋季に野焼の火を制御するための防火帯を作る。草原と樹林の境界や、管理地境界に沿って野草を短く刈っていき、線状の防火帯を作る(輪地切り)。野焼は冬季~早春に実施し、作業時には作業者、見物客等の安全にも注意を払って実施する。1)
草刈り 牧草や茅葺材のほか、野草コンポストづくりなどの目的での利用がある。夏から秋にかけて開花結実を行う種は冬季から春季に草刈りを行うことで個体群を維持しやすくなる。2)
適切な密度での放牧 草地においてウシ等の放牧を行うことにより、採食、踏圧、排せつの影響で草原が維持され草原植物の種の多様性が高められる。3)

事例

阿蘇草原再生

野草地での輪地切り、野焼き、茅刈りを行い、牛の放牧を行うことで草原を維持している。

阿蘇草原再生
出典:環境省 阿蘇の草原を守る (令和3年3月)

期待される効果等

草原は森林と比較して蒸発散量が少ないことなどから、森林よりも多くの雨水を一時的に蓄え、水源涵養の機能が高いことが期待されるとの研究報告がある。また、森林斜面に比べ草地斜面では、災害による倒木・流木のリスクが少ないことに加え、倒木により滞留した土砂がもたらす土石流などの二次災害のおそれが小さいことが指摘されている。4)(注1)

適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。

生物多様性 草原性の動植物への環境提供
草原は絶滅危惧種が数多く生息する環境であり、生物多様性のホットスポットとしての可能性が指摘されている。5) 
草原の面積が大きいほどチョウ類の種数は多く、草原はチョウ類の生息域として重要な役割を果たしている。6)
緩和策 炭素固定
多くの草原の土壌である黒ボク土は炭素含有率が高く、炭素を土壌中に固定している。7)
阿蘇の草原による炭素の年間の蓄積速度は6.9t/haと推定される。7)(注2)
その他 文化的サービス
草原生態系は良好な草地景観や、生物との触れ合いによる文化的サービス等の生態系サービスを有する。8,9)

ネイチャーポジティブ(注3)に貢献するための留意点

本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。

  • 過放牧となった場合は採食圧や踏圧が強くなり草原植物の種の多様性が低下するため、放牧圧のコントロールが必要である。3)
  • 草原の維持には人為的かく乱(野焼き、放牧、採草)が必要不可欠であるが、担い手不足が課題となっている。10)担い手を確保した持続可能な取り組みとする必要がある。

脚注
(注1)斜面崩壊に対する植生の崩壊確率は、針葉樹林、広葉樹林、広葉樹二次林は、二次草原よりも有意に小さく、斜面崩壊抑制に寄与するため、災害リスクに対して草原と森林のどちらが安全かという単純な結果にはならない11)。このため、流域における草原と森林の配置が重要となる。
(注2)阿蘇での事例では草原の炭素吸収は定量的に確認されているが、緩和策としての機能を期待する場合、他の草原についてはそれぞれに炭素蓄積量の評価を行う必要がある。
(注3)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。

出典・関連情報