空き地の維持・活用
掲載日 | 2023年10月20日 |
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分野 | 自然災害・沿岸域 / 国民生活・都市生活 / 自然生態系 |
地域名 | 全国 |
気候変動による影響と適応における位置づけ
住宅地などに存在する空き地には、生活環境に近い場所に存在する緑地として、暑熱リスクの緩和、雨水の浸透、自然との触れ合いの場の提供などの生態系サービスを提供するグリーンインフラとしての機能が期待できる1)。さらに、適切に管理された緑地には、生物多様性保全の機能も期待できる。長期にわたり草刈り等の管理で維持されてきた空き地には、草原性の動植物の貴重な生息環境となっている場所もある2)。
国の気候変動適応計画では、「流域治水の推進に当たっては、自然環境が有する多様な機能を活かしたグリーンインフラの活用を推進し、遊水地等による雨水貯留・浸透機能の確保・向上を図るとともに、災害リスクの低減に寄与する生態系の機能を積極的に保全又は再生することにより、生態系ネットワークの形成を推進する」こと及び「ヒートアイランド現象を緩和するため、都市における緑地の確保や緑化をはじめ 実行可能な対策を継続的に進める」ことが掲げられている。
(気候変動適応計画(2021、閣議決定)より抜粋・引用、一部CCCAにて参考文献を参照して追記)
取り組み
空き地を草地や樹林等の緑地空間として維持・活用することで、流域治水等の気候変動適応に資するとともに、生き物の生育・生息地が創出されるため、生物多様性の保全につながる。さらに、土地利用状況から、生物多様性保全上優先的に緑地空間として維持・活用するべき場所を把握することで、より効果的に機能を発揮させることにつながる。
植生管理 | 対象地の気候・土壌、利活用の歴史等を踏まえ、草原や多様性の高い二次林として管理することで、多様な生態系サービスの発揮が期待できる3)4)。 |
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土地利用の コントロール |
生態系サービスや生物多様性保全上重要な空き地が緑地として維持・活用されるように誘導したり、開発地を他の(重要性の低い)空き地に誘導したりすることで、緑地が維持できるようコントロールする。2) |
土地利用の 履歴の把握 |
過去の土地利用状況を把握し、長期間草原や樹林が維持・管理されてきた土地を優先的に維持することで、生物多様性保全上重要な場所を保全することが可能となる。1) |
暫定利用によるマネジメント | 空き地に暫定的に緑地空間を導入することにより、その効果や必要性が実感され、整備に対する世論を形成しやすくなったり、社会状況や周辺状況の変化に柔軟に対応しやすくなる。2) |
事例
カシニワ制度(千葉県柏市)
柏市内で市民団体等が手入れを行っているオープンスペース(草地、樹林地等)や、オープンガーデンをカシニワと位置付け、「カシニワ」に対して、市及び関連組織が総合的に支援をする制度。制度を通じて活動を始めた登録地の中には、元々アズマネザサが茂り、うっそうとした樹木で覆われていた森だったが、管理により貴重植物が生育する樹林地に変化を遂げた場所もある。また、市内の未利用地を緑地として維持しつつ、コミュニティの交流広場として整備・活用し地域活性化に貢献している事例もある。
期待される効果等
空き地の緑化により緑被率を高くすることで、ヒートアイランド現象の緩和機能が向上する。6)その効果の計測法としては、建物・地表面・緑に関する空間形態及び構成材料を考慮できる3D-CAD対応の熱環境シミュレータを用いた街区内の全表面から大気側に対する顕熱負荷の評価が活用できる。
また、人工舗装された非緑地よりも緑地の方が雨水の最終浸透能が高く、さらに樹林系の緑地は大きな浸透能力を有する。7)
適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。
生物多様性 | 草地性植物の生息地の創出 過去に農地や宅地として利用されず、長期間にわたり草原あるいは樹林として維持されていた空き地には、多様な種の草原性植物が生育する。2) [評価方法の例] 複数の空き地の植物調査を行い、種多様性に影響する要因を局所的要因・空間的要因・時間的要因に分け、各影響について統計解析を実施 |
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その他 | 住環境性能の向上 日照や通風の確保や延焼危険の緩和、騒音伝達の軽減等によって、住環境の性能が向上する。3) |
ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点
本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。
- 生育・生息地が創出されることによって外来生物が増加してしまう場合、捕食や競合、交雑によって、在来の生態系が攪乱される恐れがあり、生物多様性保全上プラスにならないケースとなり得る。3)
脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。
出典・関連情報
- 1)坂井 暖子(2017)15.空地:「空」マネジメントによるグリーンインフラ整備, 【書籍】 グリーンインフラ研究会、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、日経コンストラクション編, 「決定版!グリーンインフラ」, 第3部グリーンインフラ実践編 ●都市 第15項, p.268-273,日経BP, 東京
- 2)Noda A, Yamanouchi T, Kobayashi K, Nishihiro J(2022), Temporal continuity and adjacent land use exert different effects on richness of grassland specialists and alien plants in semi-natural grassland, Applied Vegetation Science, 25
- 3)浅田 正彦, 寺田 徹(2014)空閑地・空き家と生物多様性-野生動物と人間生活が重複する空間をどう考えるか-, 【書籍】 浅見 泰司 編, 「都市の空閑地・空き家を考える」, p.14-25, 株式会社プログレス, 東京
- 4)金子 是久, 明星 亜理沙, 長谷川 雅美, 宮下 直(2013),千葉県北総地域の半自然草原での長期間の刈り取り管理の違いが春季に開花する草原性植物の生育に及ぼす影響, 景観生態学 ,18:189-199
- 5)古橋 登希(2013), 柏市における緑の取り組み 「カシニワ制度」について,都市住宅学, 82:48-51,
- 6)村上 暁信, 佐藤 理人, 原山 祐太郎(2012), ヒートアイランド緩和効果からみた環境指標としての緑被率の有効性, 日本都市計画学会 都市計画論文集, 47:265-270,
- 7)飯田 晶子, 大和 広明, 林 誠二, 石川 幹子(2015),神田川上流域における都市緑地の有する雨水浸透機能と内水氾濫抑制効果に関する研究, 都市計画論文集, 50:501-508,
- A-PLAT / 国内外の適応策事例集:自然を活かした洪水管理