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- イラストで分かりやすい適応策
内水面漁業
影響の要因
気温の上昇により、河川や湖沼などの内水面の水温も上昇し、変温動物である魚類の生理状態は環境水温の影響を受ける。また降水パターンの変化(短時間強雨、長雨等)は生息環境の悪化の要因となる。
現在の状況と将来予測
現在、水温上昇によると推測されるアユの漁獲量の減少や、ワカサギのへい死が報告されている地域がある。
将来、河川水温の上昇により渓流魚(オショロコマ、イワナ)の生息空間の縮小が予測されている。また、湖沼におけるワカサギの高水温による漁獲量減少や、海洋と河川の水温上昇によるアユの遡上時期の早まり、遡上数の減少が予測されている地域がある。
適応策
河川や湖は海洋に比べ水産資源の量が少なく、資源の枯渇を招きやすいことから、河川等の環境の保全・管理、増殖・資源管理を引き続き進め、 天然魚の保全も含めた健全な個体群や生息環境を維持・改善していくことが気候変動への適応に繋がると考えられる。
水量が少ないと、水温が上がりやすい。水温を、対象とする水産資源に適した低水温にするためには、水量を減らさない必要がある。
川に沿って生えている木(河畔林)は川の水面に日陰をつくることによって、水温上昇を抑えるため、河畔林を残したり増やすのが良い。冷水性魚類であるイワナ、ヤマメの生息に適した樹冠率(水面に対する木の葉の繁りの割合)も示されている。
雨で増水した時に魚が隠れる場所(隠れ家、カバー)の保全・造成を行う。自然にできた隠れ家はできるだけ残す。増水や河川工事によって隠れ家が壊れたり無くなった場合は、石を組んだり魚が棲める護岸によって隠れ家を造成する。
イワナ、ヤマメ、アユ、カジカ、ウグイ、オイカワ、コイ、フナについて、人工産卵場の造成技術が開発されている。増水や河川工事によって産卵場が壊れたり無くなった場合に、その技術を利用して産卵場を造成する。
渓流魚(イワナ、ヤマメ)の場合
従来の継代養殖稚魚の放流にくらべて、半天然稚魚や半野生稚魚の放流効果は2.5~3.5倍高い。半天然稚魚や半野生稚魚は、天然魚に近い生命力を持っているからである。そのため、半天然稚魚や半野生稚魚を放流するのが良い。
①半天然稚魚の放流
産卵期に天然魚の雄を生け捕りにして精液だけを採取し(魚は川に戻す)、その精液と養殖魚の卵を交配・ふ化させた魚を川へ放流する。
②半野生稚魚の放流
地域によって天然魚が残っていない場合、天然魚に近い野生魚(昔、少しだけ放流が行われたことがあるが、最近は放流されていない川の魚)を代用し、その精液を使って半野生稚魚を生産して放流する。
アユの場合
小さな川(支流や本流の上流域)で浮石が多い環境はアユが生き残りやすい。早期(水温が8°C以上になる時期)に放流すると生存率が高く、費用対効果も高い。
最近の研究で、放流の増殖効果が期待より低いことがわかってきた。放流をするだけでなく、稚魚・幼魚を守ったり、その年に産卵する親魚を守るための漁獲規制(体長制限や尾数制限、禁漁期など)を強化するのが良い。
ワカサギの場合
給餌放流技術の確立を目標に、餌料プランクトンの効率的生産技術の開発、種苗生産時の最適な飼育密度・餌料密度の解明、粗放的かつ大量生産可能な種苗生産技術の開発に取り組む(農林水産省2021)。
高水温に由来する疾病の発生などに関する情報を収集する。また、水温上昇により被害の拡大が予測される内水面魚類の疾病(アユのエドワジエラ・イクタルリ感染症など)について、病原体の特性や発症要因に関する研究とその結果を利用した防除対策技術の開発を行う。
現在より高い水温でも生息したり繁殖する特性をもった魚を選抜育種などにより作出し、放流する。
中(河川工事)
適応策の進め方
【現時点の考え方】
内水面漁業・養殖業が気候変動により受けた影響はまだ顕在化していない(農林水産省 2021)とされているが、一部の地域や種において水温上昇の影響が報告されている。
【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】
放流方法や漁獲規制方法の改善を行い資源を維持することで、産業としての漁業を継続できるようにする。また、気候変動に対する順応性の高い健全な生態系の保全と回復を図るため、生息環境(水量、河畔林、隠れ家、産卵場等)の保全・改善を進める。中・長期的には、漁獲量の減少や疾病の発生防除に対する技術開発、高水温耐性を持つ集団の作出なども進め、将来の生息環境悪化に備える。天然魚(在来個体群)の保全を引き続き進める。