インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

藻場*

農業・林業・水産業分野|水産業|沿岸域・内水面漁場環境等
協力:水産研究・教育機構 水産技術研究所

*藻場:沿岸の浅海域において海藻あるいは海草が繁茂している場所あるいはそれらの群落や群落内の動物を含めた群集のこと(水産庁 2015a)。

影響の要因

海水温の上昇は、藻場における藻類の種構成、現存量や藻場面積を変化させる。また、水温上昇による植食性動物の摂食活動の活発化も藻類を減少させる。

現在の状況と将来予測

現在、水温の上昇による藻類の生産力への直接的な影響と、植食性動物(ウニ、魚等)の摂食活動の活発化による間接的な影響によるものと考えられる藻場の減少や構成種の変化が各地で生じており、藻場面積の減少が進んでいる。

将来、水温情報を用いて日本沿岸のカジメの分布域を予測した結果、RCP2.6 シナリオによる水温上昇のもとでは、植食性魚類による食害の影響のみ顕在化するが、RCP8.5 シナリオでは高水温による生理的影響と食害の双方の影響により 2090 年代にはこれまで分布適域であった海域で生育が困難になるとの推定されている(右図参照)。

出典:Takao, S. et al. 2014(2015)

適応策**

早くから植食性魚類の食害が顕在化し、藻場回復の為の対策を実施してきた南西海域の知見を他地域でも共有し、今後も予想される海水温上昇に対して長期的な視点で適応策を講じる事が考えられる。

**複数ある藻場の衰退要因のうち、ここでは水温上昇と植食性魚類の影響に対する適応策について記載。

藻場の状態
分類
植食性動物対策
  • 食害対策により海藻群落の更新を助ける

    ウニ対策
    ハンマーで潰す/ウニフェンス
  • 魚対策
    刺網による除去/侵入防止(網)
海藻の増殖
  • 藻場の状態に応じた増殖対象種を選定・供給し、再生産できる藻場(成熟藻体)の成立を目指す

    母藻の採取・設置
    スポアバッグ(開放型)
  • 種苗・藻体の移植
    人工種苗(基質)/天然採苗
目標藻場の変更
  • 「四季藻場」を藻場回復の最終目標とする場合が多いが、藻場の状態に応じ、回復しやすい目標を設定する事が考えられる

    南方系種を活かす(春藻場)
    南方系ホンダワラ類
  • 小型海藻藻場の活用
    小型海藻藻場
分類
植食性動物対策*
海藻の増殖*
目標藻場の変更
方法
[ ウニ対策 ]

①除去
素潜りやスキューバ潜水により、ハンマーや鉤で潰すのが一般的で、手タモや網袋に回収する方法などがある。ウニの生息密度は、1 ㎡あたり5~10 個体以上の場所では磯焼けが継続しているとされ、場所や種類によって異なるが、長崎県では5~10 個体/㎡以下がウニ除去の目標数値として利用されている(長崎県水産部2018)。

②侵入防止(フェンス)
ウニフェンスが利用されており、棒状タイプ(刺網を筒状に巻いたもの)と立網タイプ(一枚網を立たせたもの)がある。設置後は付着物による侵入防止効果の低下、時化等による破損や流出などが発生する可能性があり、定期的な管理が必要。

[ 魚対策 ]

①除去
魚の生態に応じた漁獲が行われている。い集する場所や時期を予め把握しておくこと、漁場環境に応じた漁具を設置していることなどが成功の鍵とされ、刺網が一般的だが、雑魚篭や魚類養殖生簀を改良した漁具なども用いられている。

②侵入防止(網)
網篭(小規模)、網による一定範囲を囲ったもの、入り江等を網で仕切った大規模なものや被覆ネット(海底に網を被せる)等がある。目合は対象となる魚の種類と大きさを考えて決める必要があるが、5 ㎝位が多いとされる。設置時期は、周年の設置と限定した期間の設置があり、定期的なメンテナンスが不可欠となる。

* 長崎県水産部(2018)及び水産庁(2015a, 2015b, 2015c)参照

海藻の新規加入等が難しい場合、人為的に海藻のタネを供給する(母藻利用:近傍に母藻(成熟した海藻)が豊富にある場合、種苗利用:母藻利用が難しい場合)。

[ 母藻の採取・設置 ]

母藻を採取して海底に設置し、種(生殖細胞)の自然放出と自然着生を行うのが一般的な方法となる。

①採取
通常管内藻場から母藻を採取するが、困難な場合は管外からの入手や流れ藻の利用等が考えられる。

②設置
局所散布(高密度、海底)~広範囲散布(低密度、表層)まであり、目的に応じた方法を選択する。スポアバック方式(局所散布)が一般的だが、効率性、コスト性、安定性、保持性(母藻の長期間維持)等を検討し、古材の有効利用や漁場環境に合わせた創意工夫が必要となる。

[ 種苗・藻体の移植 ]

①人工種苗
一般的に種糸や基質に海藻が付着したものを現場へ移植する。種糸(岩や移植用の基質や藻礁に巻きつける)、プレート等の小型の基質(水中ボンド等の接着剤の使用、ボルトやナットで固定)等の方法がある。

②天然の藻体
石等の基質に付いた海藻を基質ごと採取して移植する。基質が時化等で移動しないよう設置の工夫や静穏域等の移植場所の検討が必要である。

③天然採苗した種苗
母藻群落の直下~周辺に海藻の種を着生させる基質を設置し、自然放卵による採苗(天然採苗)を行う。基質の設置や移設に労力を要するが、育苗する手間がかからない、母藻を採取しないので海藻群落を傷めない等、メリットとデメリットとがある。

[ 南方系種を活かす(春藻場) ]

近年南方系ホンダワラ類の確認・繁茂例がみられる地域が広がっている。この春藻場はウニには弱いが魚や高水温には比較的強い特徴があり、四季藻場の再生が困難な水域でも磯焼け対策の目標に設定され、藻場の造成が進められている地域がある。

[ 小型海藻藻場の活用 ]

植食性魚類の被害や高水温の影響が大きく、在来の大型海藻の再生が困難な場合、高水温や魚類の食害に強いとされる小型海藻藻場(アミジグサ類等)の造成を目的とした整備が行われている地域もあり、その機能等の研究も進められている。

コスト
中~高(対策の種類・期間により異なる)
中~高(対策の種類・期間により異なる)
所要期間
中期~長期(モニタリングと対策の継続が必要)
短期~長期(翌年成長する場合もあるが、食害を受けた場合は再度供給)
~長期

適応策の進め方

【現時点の考え方】
藻場造成に当たっては、現地の状況に応じ、高水温耐性種の播種・移植を行うほか、整備実施後は、藻の繁茂状況、植食性動物の動向等についてモニタリングを行い、状況に応じて植食性魚類の除去などの食害生物対策等を実施するなど、順応的管理手法を導入したより効果的な対策を推進する(農林水産省2021より引用)。

【気候変動を考慮した考え方】
今後、海水温上昇による海洋生物の分布域・生息場所の変化を的確に把握し、それに対応した水産生物のすみかや産卵場等となる漁場整備(農林水産省2021)に取り組む。

【気候変動を考慮した準備・計画】
地方公共団体が中心となって、海域を広域的にとらえた実効性のある効率的な藻場・干潟の保全・創造に向けたハード・ソフトが一体となった計画の作成及び実施体制の構築を行う。その際、漁業者、地域住民、企業などの多様な主体の参画を得ることが重要である点や、地域の漁業者等が自主的かつ持続的に藻場・干潟の保全を行うことができる体制を構築することが重要である点、藻場・干潟の保全には、漁業者の役割が不可欠であり、漁業者が安心して漁業を営むことができるような取組が引き続き必要である点に留意する。(以上水産庁 2016より引用)

2022年4月改訂

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