インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

回遊性魚介類の分布域北上に伴う水産業の適応

農業・林業・水産業分野 | 水産業 | 回遊性魚介類
協力:東京海洋大学 学術研究院
海洋政策文化学部門

影響の要因

気温の上昇による海洋の昇温により、回遊性魚介類の分布域の変化や、それに伴う漁業、加工業や流通業への影響が生じる。

現在の状況と将来予測

回遊性魚介類は適水温域において分布・回遊する特性がある。
現在日本周辺海域では、海水温の上昇によって、暖水性魚種(ブリ、サワラ等)の増加や、冷水性魚種(サンマ、スルメイカ等)の減少など、各地域の漁獲量や構成魚種が変化し、漁業、加工業や流通業に影響が出ている地域もある。

将来、日本周辺海域では、回遊性魚介類の分布域や回遊範囲の変化、体のサイズの縮小が予測されており、各地域での影響に応じた対策が必要となる。
例えば、マサバの産卵場への影響を予測した研究(奥西他2018)によると、2090年代( RCP8.5シナリオ)には温暖化の影響が顕著に現れ、産卵場に好適な環境が伊豆周辺(現代気候)から房総半島周辺に移動する予測が示されている(右図参照)。

マサバの産卵好適水温の分布(3〜4月の水温が15.9~21.6℃(適水温)になる確率(水深250m以浅))
マサバの産卵好適水温の分布(3〜4月の水温が15.9~21.6℃(適水温)になる確率(水深250m以浅))
出典:奥西他(2018)

適応策

様々な水産業振興策や支援策等を活用しながら、従前から行われている各現場(漁業、加工、流通、販売等)での魚種変化に合わせた工夫・改善を進める。また新たな情報ネットワークや研究成果の活用を通じて、より効果的な対応に結び付ける事が考えられる。

分類
漁業経営
  • 漁獲対象種の複数化
  • 漁業経営の複合化
加工・流通・販売
  • 魚種の変化への対応
  • 販売の工夫
地域活動・地域づくり
  • 地域との連携
    学校給食での提供

    学校給食での提供

  • 観光資源としての活用

    観光資源としての活用

水産資源管理の拡充
  • 資源評価対象魚種の拡大(200種程度)
  • 資源・漁獲情報ネットワーク体制の構築
研究成果の反映
分類
漁業経営
加工・流通・販売
地域活動・地域づくり
水産資源管理の拡充・研究成果の反映
方法
[ 漁獲対象種の複数化 ]

単一の資源のみに頼るのではなく魚種や漁法を組み合わせることなど、新たな資源管理システムの下で、マルチな漁業*の操業形態(水産庁2021bより引用)の検討が行われている。現在、地域的に増加する種への対応(クロマグロの漁獲技術の開発(山形県)、サワラの高鮮度出荷(福岡県糸島市)等)や、不漁への対応(サンマの代替として特別採捕許可によるイワシの漁獲(岩手県、宮城県等))等各地で取組が進められている。

*マルチな漁業:資源状況に応じた漁獲を行える漁業等(水産庁2021b)。

[ 漁業経営の複合化 ]

複数経営体の連携による協業化や共同経営化、養殖との兼業など事業の多角化などを段階的に進め、資源変動に対応できる弾力性のある漁業経営に転換するための取組を促進することが必要である(水産庁2021bより引用)。

①複数の漁業の組合せ:鈴鹿市漁業協同組合の事例では変化する漁場環境に対し、複数の漁業(貝けた網、船びき(ばっち)網、黒ノリ養殖)の組合せにより生産安定化を図っている。

②漁業以外の工夫:6次産業化も進められており、漁業者によるオンラインや対面での直接販売等を通じて、収益確保を行っている事例が見られる(水産庁漁港漁場整備部防災漁村課2012、佐賀流通デザイン公社 参照2022年12月26日)。また渚泊(漁村地域における滞在型旅行)での体験プログラムや民泊の提供等により収益を増加させる取組も行われている(水産庁漁港漁場整備部 防災漁村課 参照2022年1月6日)。

[ 魚種の変化への対応 ]

水産庁では、水産加工・流通構造改善促進事業の一環である魚種転換プロジェクト(漁獲量が減少し入手困難な魚種から、漁獲量が豊富な魚種等新たな加工原料へ転換する取組への必要経費を一部支援(国産水産物流通促進センター2022))等、漁獲物の変化に応じた加工設備整備への支援等を進めている。各地(北海道や岩手県等)でこの支援を活用し、増加しているサバやイワシ等の加工・流通体制の整備や商品開発などが進められている。

[ 販売の工夫 ]

漁協が消費者に直接販売し、ニーズ把握・収入確保を行っている事例が各地で見られる(水産庁 参照2022年9月1日)。

[ 地域との連携 ]

漁獲量が増加した魚種の認知度向上や消費拡大、地域の活性化等に繋げる取組が各地で行われている。

例①)ブリ(北海道渡島総合振興局):ブリの消費拡大に向けた取組を実施(メニュー開発、学校給食での提供、イベント開催等)。

例②)シイラ(福井県):大量の氷水を使って鮮度維持に努め、新商品開発や学校給食での提供等消費拡大も進められている。

例③)答志島トロさわら(三重県):基準(漁業種類、サイズ、脂肪含量等)を明確にし三重ブランドにも認定、正規取扱店も指定され観光資源にもなっている。

[ 情報共有 ]

新漁業法施行(平成30年12月)により新たな資源管理が推進されており、①資源評価対象魚種の拡大(200種程度)、②資源・漁獲情報ネットワーク体制の構築(漁協・産地市場から水揚げ情報を電子的に収集する)等が進められている(水産庁2021a)。このような研究機関、行政、漁業者・漁協間で資源評価結果やデータの共有等を通じて、魚種変化も含めた水産資源管理の拡充が行われている。

[ 研究成果の反映 ]

将来予測については、資源評価を元にした漁獲量の予測が水産政策審議会資源管理分科会において水産研究・教育機構から示されており、また気候シナリオを用いた将来予測研究も多くの魚種を対象に実施・公表されている。将来的にどのような影響がいつ頃から起こるかを予測結果として示すことで、現在行っている高水温への対応策が将来の気候変動への適応に結びつくかどうかの指標にもなると考える(木所2019)。

コスト
中(魚種変化に合わせた漁具導入、6次産業化等への対応)
~大(他漁業、養殖業への対応)
大(新規加工設備整備)
小(イベント開催等)~中(地域ブランド化等)
大(ネットワーク構築・研究費等)
所要期間
短期~(既に取組まれており、今後も継続が必要)

適応策の進め方

【現時点の考え方】
地球温暖化に伴う地球規模の環境変化を背景としたリスクが顕在化している中で、漁業を継続的に行える体制とすることが不可欠である。すなわち、新たな資源管理に取り組むことはもとより、現在直面するリスクが今後も継続し中長期的に影響を及ぼし得るものとして、まずは、リスクの状況を把握し、これを正面から認識した上で、その状況に対応してリスクの分散やリスクへの順応に向けて漁業の構造改革を進めることが必要である。(以上水産庁2021bより引用)

【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】
現在実施されている施策・制度について、中長期的な資源変動や環境変化に伴うリスクに対応しているか否か、また、生産構造の転換を阻害する要因とならないかといった観点から検証した上で、持続的に生産を継続していけるよう、必要な見直しを行い、整合性のとれた施策を展開する。(以上水産庁2021bより引用)

2023年7月初版
農業・林業・水産業分野

ページトップへ