インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

スギ人工林

自然生態系分野|陸域生態系|人工林
協力:国立研究開発法人 森林研究・整備機構

影響の要因

気温の上昇や地域的な降水量の減少による乾燥ストレスの増大により、スギの生理機能や成長に影響を及ぼす懸念がある。

現在の状況と将来予測

スギは日本に広く植えられており、水分要求度が高い樹種とされている。これまで、三河地方や瀬戸内地方、九州地方など西日本を中心に、スギの枯損や衰退などの乾燥被害が報告されており、主に夏に雨が少なかったことや、土壌保水力の低さが原因だと考えられている。

現在(1996-2000年)から将来(2096-2100年)にかけて年平均気温が約2.5℃上昇した場合、全国的にみると、スギ人工林の純一次生産量は増加すると予測されている。しかし、四国地方や九州地方など西日本を中心とする一部地域では、純一次生産量が低下すると予測されている(右図参照)。

将来気候(2096-2100年)におけるスギ人工林の純一次生産量の変化量(RCP2.6シナリオの5つの気候モデルの平均値)
出典:Toriyama J. et al.(2021)
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所(2021)

適応策

気候変動(気温上昇・乾燥)の影響を考慮した造林適地の選定(ゾーニング)や伐期の変更など既存の施業方法の見直し、各地域の環境変化に対応できる適切な苗木の選定などを進めていくことが考えられる。また、高温や乾燥ストレスに耐性のある新品種の開発と導入を進めていくことが望ましい。

分類
施業方法の見直し
  • 造林適地の選定

    森林の最適配置(ゾーニング)
    ・成長促進立地:スギ再造林
    ・成長低下立地:樹種転換など

  • 伐期の変更

    ・成長促進立地:短伐期化
    ・成長低下立地:長伐期化
    ・気象害リスク回避:短伐期化

苗木の選定
  • 適切なスギ系統の選択

    地域の気候や将来の環境変化に適応的な系統を選択

  • コンテナ苗の利用

    植栽直後の乾燥に比較的強いとされるコンテナ苗の利用

    裸苗(左)とコンテナ苗(右)

新品種の開発
  • 育種技術の開発

    新たな系統評価手法の開発等

    無花粉遺伝子を高い精度で判定できるDNAマーカー

  • 育種素材の作出
分類
施業方法の見直し
苗木の選定
新品種の開発
方法
[ 造林適地の選定 ]

農林水産技術会議(2021)委託プロジェクトでは、気候変動シナリオと樹木の成長プロセス、さらに土壌の保水性を組み込んだスギ林の成長予測モデルを開発し、将来(2050年と2100年)の気候変動がスギ人工林の純一次生産量に及ぼす影響評価を高解像度(1 kmメッシュ)の全国地図として作成した。現気候下で比較的寒い東日本では、年間の純一次生産量はおおむね増加すると予測され(成長促進立地)、スギ人工林を維持できると考えられる一方、比較的暖かい西日本を中心に、年間の純一次生産量が減少すると予測される地域(成長低下立地)が出現した。このような地域では、スギの成長低下の度合いに応じて、適切なスギ系統(品種転換)やスギ以外の樹種を植栽(樹種転換)することが必要になると考えられる。

[ 伐期*の変更 ]

将来、スギの成長が促進される地域や立地(成長促進立地)では、伐期を短く(短伐期化)することができると考えられる。短伐期化は、風雪害や乾燥害などの気象害リスクを下げることにもつながる。一方、将来、スギの成長が低下する地域や立地(成長低下立地)では、長伐期化することで主伐時の収穫量を確保する必要が生じる可能性がある。

*人工林を植栽してから主伐(収穫)するまでの年数を伐期齢とよび、一般に概ね50年前後とされている。林業としての採算性は、収穫量に大きく左右される。

[ 適切なスギ系統の選択 ]

気候変動による気温上昇など、将来の環境変化に適応できるスギ系統の苗木を植栽することが望ましい。スギ種苗配布区域の区分**のうち、冷涼地域で生産されたスギ種苗を温暖地域に植栽した場合、スギの成長速度はほぼ同等かそれ以上であることが報告され、この傾向は種苗の配布区域間の移動方向にほぼ一致していることが確認されているため、現行の林業種苗法である程度対応できると考えられる。

**ある地域で生産されたスギの種子や苗木(種苗)の配布は、日本全国を7つに区分した同一区域内か、あるいは隣接区域間の特定の方向にしか配布できない(林業種苗法)。この区分は、現在の気象条件を反映している。

[ コンテナ苗の利用 ]

気候変動による無降水期間の増加は土壌の乾燥をもたらし、スギの成長低下や枯死が懸念される。特に、植栽されたばかりの幼齢木は、中・壮齢木と比べると、乾燥ストレスに弱いとされている。スギ植栽後の乾燥害を回避するためには、裸苗と比較して植栽直後の乾燥ストレスに強いことが確認されているコンテナ苗の利用が有効であると考えられる。他にも、乾燥リスクの低い時期に植栽する、健全な苗木の根が乾かないように運搬し深植えをする等の対策をとることも必要である。

高温や乾燥ストレスに耐性を有するスギの品種改良を推進するために必要となる育種技術の開発や育種素材の作出等が進められている。

[ 育種技術の開発 ]

育種素材作出の為の形質評価(高温や乾燥ストレス耐性に関わる特性を多数の系統について評価すること)を効果的に進める為、新たな評価手法(赤外線サーモカメラによる蒸散量評価及び乾燥ストレス耐性や雄花着花性等の早期判定に資するマーカー等)が開発されている。

[ 育種素材の作出 ]

気候変動に適応し、成長に優れた花粉発生源対策スギ品種を開発するための育種素材3系統以上を作出する計画で研究開発が進められており、将来的には開発品種の都道府県の採種穂園への導入が目指されている。

干害回避への効果
コスト
低(既存施業の範囲内)
中(コンテナ苗やマルチの手間)

適応策の進め方

【現時点の考え方】
従来から西日本を中心にスギ人工林の乾燥害が報告されており、夏季の少雨、降水量の少ない地域、土壌保水力の低さなどが原因であると考えられている。また、日本の人工林の多くが50年生をこえ、収穫後に再度植栽する主伐再造林が推進されている。

【気候変動を考慮した考え方】
スギ壮齢林を対象とした全国的な気候変動の影響評価では、西日本の一部地域では成長が低下すると予測され、このような地域では施業方法の見直しも必要だろう。スギ幼齢木は乾燥耐性が低いことから、植栽される苗木の選定や植栽時の工夫などにより、再造林時の乾燥害を回避することも重要だろう。

【気候変動を考慮した準備・計画】
植栽から収穫まで数十年を要する林業においては、長期的な視点に基づく対策が必要である。将来の環境変化を見据え、高温や乾燥耐性を有する新品種の開発や普及を進めていくことは重要であろう。また、市町村スケールで、尾根や谷など地形条件なども考慮に入れたより解像度の高い影響予測を行う必要があるだろう。

2022年3月改訂

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