インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

サンゴ礁生態系

自然生態系分野|沿岸生態系|亜熱帯

影響の要因

地球温暖化による熱波の高頻度化、大雨や大型台風の増加が大きく影響している。

現在の状況と将来予測

現在サンゴ礁生態系は、白化の高頻度化、台風の大型化、赤土等の流出による様々な影響により衰退傾向にある。

熱波によるサンゴ白化
熱波によるサンゴ白化
赤土の流出
赤土の流出

将来、温室効果ガスの排出量の違いによりサンゴの生息可能域が変化する事が示されている。CO2高排出シナリオ(SRES A2)では今世紀末には日本近海からサンゴが消滅する一方、CO2低排出(SRES B1)シナリオでは、九州・四国から南に生息可能である事が示されている。

気温上昇による収穫指数の変化
出典:Yara et al. (2012)、山野(2013)

適応策

温室効果ガスの排出を削減すると共に、現在進行するサンゴ礁生態系の衰退に対し保全(農地等からの赤土流出の削減、天敵のオニヒトデ駆除、サンゴの養殖・移植)を行う事が必要。

適応策
赤土流出の削減
オニヒトデ対策
サンゴの養殖・移植
方法
[ 農地における対策 ]

沖縄県では流出源の約8割が農地とされており、営農・土木の両面から対策が進められている。

1.営農的対策
①緑肥(休耕期に肥料となる植物を植え、ほ場の裸地化を防止)②グリーンベルト(ほ場の周りにベチバーなどの植物を植栽)、③葉殻梱包(サトウキビの葉をブロック状に束ねたものをほ場の周りに配置)、④マルチング(すすきの枯れ草などで表土を覆い、土壌の侵食防止)、⑤サトウキビの春植えの推進(梅雨時期の裸地を避ける事で赤土や施肥した肥料の流出を抑制)等が取り組まれている。

2.土木的対策
①沈砂池の設置(土壌粒子を沈殿させてから河川等へ排水)、②勾配修正(ほ場を緩い勾配に修正し表流水の流速を低下させ、土壌の流出を低減)等取り組まれている。

[ 開発事業 ]

沖縄県では赤土等流出防止条例が1995年に施行され、開発行為による赤土等流出に関する規制が行われている。

[ 短期 ]

①稚ヒトデモニタリング
直径0.5cmから1cmの稚オニヒトデの密度をモニタリングして大量発生を事前に予測する手法。モニタリングで多くの稚ヒトデが見つかった場合、約2年後にオニヒトデが大発生する確率が高い。

②駆除
駆除数を増やすのではなく、密度を低下させる駆除を行う。そのためには、優先的にサンゴを保全する区域へ人的資源を集中し、特に産卵期前にオニヒトデが許容密度(サンゴの成長率をオニヒトデの摂食率が上回らない状態)以下になるまで駆除を繰り返し行う。方法は「取り上げ(串や鉤を用いてオニヒトデを捕獲)」が主体、「注射器による薬品を用いた駆除」等も行われている。

[ 長期 ]

赤土流出等の削減(オニヒトデ幼生の餌となる植物プランクトン増加の原因である栄養塩の沿岸海域への流出を減らす)。

サンゴの養殖・移植は、サンゴが本来備える回復力を人為的に補助する試みである。現在、サンゴの養殖・移植は一部の種を対象とした技術開発の段階である。移植によるサンゴ幼生供給基地の造成が目標とされている。主に下記二つの手法が用いられている。

①無性生殖法(直接移植を除く)
採取した断片から種苗を作り、基盤に固定して中間育成施設で一定期間育成して基盤への活着を強めたり、種苗を大きくしたりしてから植込む(移植)技術。多くのクローンを含み遺伝的多様性が低くなる問題点が指摘されていたが、沖縄県(2017)の事業では、親株の育成(海底から嵩上げする“ひび建て”養殖)や、遺伝的多様性を考慮した複数種の組み合わせによる植え込み等移植技術の開発が行われた。

②有性生殖法
ミドリイシ類を対象としてサンゴの一斉産卵を利用して、卵と精子の塊であるバンドルを集めて受精させ、幼生を基盤に定着、大量の稚サンゴを海中や陸上施設で育てて、植込む方法。天然のサンゴを傷つけることもなく、サンゴの遺伝的多様性は高く保てるが、種苗の生産に高い技術と労力、時間、設備(費用)が必要。

時期

緑肥やマルチングは休耕期等に実施し裸地化を防止。

①産卵後、肉眼視可能なサイズ(5~10mm)の時期(琉球列島10~12月)②オニヒトデ産卵前(沖縄島4~6月等)

サンゴ移植片の生残率を高めるために、 水温の高い時期や台風の時期等は避けるのが望ましい。

効果

沖縄県での2016年度の各地目からの赤土等年間流出量は27,400トン(推計値、2011年度比9.2%)減少(沖縄県2019)。

「取り上げ」は効果が高いが手間、時間、費用を要する(沖縄県2007)。

沖縄本島で移植されたサンゴの3年後の生残率は40%以下(大森2016)との報告がある。

コスト

石垣島の10a当たり費用例、()内は流出削減率①緑肥9,600円(54%)②グリーンベルト6,726円(8〜50%)③葉ガラ梱包24,320円(50%)④マルチング:29,200円(80〜90%)。(坂井他2015)

駆除費用の一例として、準発生(5~9個体/ha)で10万円程度(沖縄県2007)。

条件により異なるが一例として、種苗植付一本あたり無性生殖で約2,000円(比嘉他2018)、有性生殖で約2,700円、約3,500円等(沖縄県2017)という報告がある。

適応策の進め方

【現時点の考え方】
対策の基盤となる研究及びモニタリング調査結果等を元に、保全計画(サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020(環境省2016)等に基づいた対策(陸域からの負荷低減、サンゴ自体への物理的負荷の低減等)が進められている。

【気候変動を考慮した考え方】
今後、海洋熱波の増加によりサンゴの白化頻度増加、回復力低下、消滅の可能性がある。大規模白化を防ぐには、温室効果ガスの削減等の気候変動の緩和が不可欠であると共に、白化現象からの回復を図るには、人為的負荷低減等の気候変動の影響への適応策が重要となる。(環境省2017)

【気候変動を考慮した準備・計画】
更なる影響が懸念される事から、優先的に保全すべき地域の選定や、サンゴ礁生態系保全行動計画の改訂等、対策を加速させる必要がある。

2021年7月初版

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