インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

海岸侵食*

自然災害・沿岸域分野 | 沿岸
協力:東北大学大学院工学研究科

*高波・高潮による災害に対する沿岸域の適応策(ハード・ソフト両面)については「自然災害・沿岸域分野 | 沿岸 | 高波・高潮」 で扱う。ここでは、海岸侵食に対する砂浜保全方法や今後の適応策の考え方について扱う。

影響の要因

気候変動による海面水位の上昇や台風の強度増加に伴う荒天時の波高増加は、砂浜の形状や面積に影響を及ぼす。

現在の状況と将来予測

1980年代以降日本沿岸で海面水位の上昇が観測されているが、海岸侵食への影響については、その他の要因の影響も踏まえて明らかにする必要がある。

将来、気候変動による海面水位の上昇によって、海岸が侵食される可能性が高い。海面上昇に起因する日本の沿岸地帯における将来の砂浜消失率を予測した研究結果(Udo and Takeda 2017)では、21世紀末(2081~2100 年)までに、RCP2.6で62%、RCP4.5で71%減少する予測が示されている(右図参照)。

今世紀末(2081-2100年)の砂浜消失予測結果(RCP2.6)
今世紀末(2081-2100年)の砂浜消失予測結果(RCP2.6)
出典:有働(2019)、Udo and Takeda(2017)

適応策

海岸域においては、波を減衰させて高潮等の災害から人命・財産を守り、数多くの動植物の生息・生育・繁殖の場であり、文化・歴史・風土の形成の役割も有する「砂浜」の消失が予測されている。このため、海岸保全施設の整備により砂浜を守るとともに、養浜(人工的な土砂供給)等により砂浜を養う。これらにあたっては、砂浜をモニタリングし、気候変動予測等も考慮して評価・分類等を行い、対策を実施するなどの「予測を重視した順応的砂浜管理」を実施する。また、陸域から海岸への適切な土砂供給が図られるよう、河川の上流から海岸までの流砂系における総合的な土砂管理対策を推進する。

分類
予測を重視した順応的砂浜管理
総合的な土砂管理
砂浜を守る
砂浜を養う
方法

砂浜の順応的管理は以下の手順に従い実施する。

(1)砂浜のモニタリング
砂浜の評価や地域の意見等を踏まえた管理水準を設定する。海岸協力団体やボランティア、研究機関、民間等との連携による体制を構築し、合成開口レーダー画像(SAR 画像)やUAV の活用、関係者による環境調査などのモニタリング手法も考慮し適切に実施する。

(2)砂浜及び背後地等の評価・分類
砂浜の防護機能を評価するとともに、砂浜侵食の程度及び速度、沿岸漂砂量、土砂収支、背後地の重要度等の過去・現在・気候変動の影響を考慮した将来について評価・分類を行う。また、砂浜特有の生物の生息といった環境機能や、海水浴やサーフィン、釣りなどのレジャーなど利用機能についても評価・分類を行う。

(3)計画
砂浜に求められる機能及び要求性能・管理指標を設定し、海岸保全基本計画・海岸保全区域の確認又は見直しを行う。また、砂浜の海岸保全施設としての指定を行う。

(4)侵食対策事業・海岸環境整備事業の実施

(5)砂浜及び背後地等の再評価・分類の実施
(津波防災地域づくりと砂浜保全のあり方に関する懇談会 2019)

[ 海岸保全施設(面的防護方式)]

堤防や消波工に、離岸堤等の沖合施設や砂浜等も組み合わせることにより、防護のみならず環境や利用の面からも優れた面的防護方式による海岸保全施設の整備を推進する(農林水産省・国土交通省2020)。

  • 離岸堤:汀線の沖側に設置される天端高が海面よりも高い海岸保全施設であり、消波することにより越波を減少させる機能、漂砂を制御することにより汀線を維持し若しくは回復させる機能を有する。
  • 人工リーフ:汀線の沖側に設置される天端高が海面よりも低い海岸保全施設であり、消波することにより越波を減少させる機能、漂砂を制御することにより汀線を維持し若しくは回復させる機能を有する。
  • 突堤:陸上から沖方向に細長く突出した海岸保全施設であり、漂砂を制御することにより汀線を維持し、又は回復させる機能を有する。なお、大規模な突堤を通常の突堤より間隔を空けて設置して安定な海浜を形成する工法は「ヘッドランド工法」と呼ばれる。

(以上の用語解説:全国農地海岸保全協会他2018)

[ 養浜 ]

養浜とは、海岸に砂を人工的に供給し、海浜を造成するものである。養浜にあたっては、漂砂の上手側に砂を投入することにより、自然の波の作用によって下手側に広がり、砂浜が形成されることにより、良好な自然環境や海浜利用等の維持に繋がる。また、港湾・漁港等の沿岸構造物により沿岸漂砂の連続性が阻害されている場合は、構造物の上手側に堆積した土砂を下手側に移動する(サンドバイパス)、より上手側の侵食が進行した海岸に戻す(サンドリサイクル)。砂の輸送については、ダンプトラックや船舶等で直接輸送する方法のほか、ポンプ等を用いて輸送する方法も開発されている(例:静岡県福田漁港)。なお、養浜にあたっては、海岸利用者や自然環境にも配慮する。

[ 流砂系としての取り組み ]

砂防・ダム・河川・海岸等のそれぞれの領域において各領域の個別の対策だけでは解決が困難な場合に、流砂系または土砂移動に関する課題を有する複数領域において総合的な土砂管理を推進し、土砂収支を考慮した上で、土砂の生産抑制、流出の調節等の必要な対策を講じ、解決を図る(国土交通省 水管理・国土保全局 2022)。

  • 砂防領域:土砂流出の調節と下流が必要な土砂を安全に流下させるために、透過型砂防堰堤の設置や既存砂防堰堤のスリット化を行う。
  • ダム領域:ダム堆積土砂を適切に下流に還元するために、ダム下流へのダム堆積土砂の置き土や土砂バイパスの設置を行う。
  • 河川領域:土砂移動の連続性を確保するために、堰等の河川横断構造物の改造を行う。また、堆砂傾向にある河川において治水・利水・環境保全上支障のない場合において適切に砂利採取を行う。
所要時間
現在~
(既に実施されており、今後も継続・拡充が必要)
現在~
(既に実施されており、今後長期の対策が必要)
現在~
(既に実施されており、今後長期の対策が必要)

適応策の進め方

【現時点の考え方】
海岸保全施設等の整備は、これまで、伊勢湾台風や東日本大震災等をはじめとする大災害を契機とする集中投資等により進展してきた(気候変動を踏まえた海岸保全のあり方検討委員会2020 より引用) 。近年も「防災・減災、国土強靭化のための5 か年加速化対策」等により整備を加速させている。しかしながら、現在の計画で目標としている防護水準に対する整備率は、例えば海岸堤防の高さが確保された海岸線の延長が5割程度にとどまるなど、今後とも整備を継続していく必要がある(気候変動を踏まえた海岸保全のあり方検討委員会2020 より引用) 。

【気候変動を考慮した考え方】
気候変動の影響を踏まえた海岸保全施設の計画外力(設計高潮位、設計波)の設定にあたっては、2℃上昇相当における将来予測の平均的な値を前提とすることを基本としつつ、予測に幅があることや2℃以上の気温上昇が生じる可能性も否定できないことから、4℃上昇等のシナリオについても参考として活用するよう努めることが示されている(農林水産省・国土交通省 2021)。

【気候変動を考慮した計画・対策等】
気候変動を踏まえた海岸保全への転換を進めるため、「海岸保全基本方針」の変更(令和2年11月)、「海岸保全施設の技術上の基準を定める省令」の一部改正(令和3年7月)が行われ、これらを踏まえ、各都道府県が「海岸保全基本計画」の変更に向けた検討を進めている(令和7年度までに見直し予定)。また、海岸の侵食対策として、モニタリングの充実や予測の信頼性向上を図るとともに、30年から50年先を見据えた「予測を重視した順応的砂浜管理」や(国土交通省2021より引用) 、河川管理者や隣接する海岸管理者等と連携し、総合的な土砂管理の取り組みを推進する。

2023年3月改訂
自然災害・沿岸域分野

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