インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

土石流・地すべり等

自然災害・沿岸域分野|山地
協力:福島大学 共生システム理工学類

影響の要因

降雨強度や総降水量が極めて大きい大雨の発生頻度の上昇等の降雨条件の変化が、土砂災害の増加等の要因となっている。

現在の状況と将来予測

近年、多数の深層崩壊や同時多発型表層崩壊 ・土石流 、土砂・洪水氾濫による大規模土砂災害が各地で発生している。

将来、集中的な崩壊・がけ崩れ・土石流等の頻発により、山地や斜面周辺地域の社会生活への影響が予想されている。また、土砂・洪水氾濫の発生頻度が増加することや、深層崩壊等の大規模現象が増加する恐れがある。更に河川へ流れ込む土砂量が増大し、治水・利水機能の低下も懸念されている。(右図参照)

可能最大降水量に応じた土砂災害発生確率マップ
可能最大降水量に応じた土砂災害発生確率マップ
出典:川越(2020)

適応策

土砂災害は複雑な誘因、素因が連関して発生し、正確な発生予測には更なるデータ蓄積や研究、技術開発が必要である事から、ハード対策とソフト対策を一体的に進めていくことが重要となる。

ハード対策=  ソフト対策=
逃げる
  • 土砂災害警戒区域*の指定
    土砂災害警戒区域の指定
  • 防災訓練、防災教育
    防災訓練、防災教育
  • 防災情報の利活用

    自ら情報収集し、早めに避難

    防災情報の利活用
動かす
  • 土砂災害特別警戒区域*
    特定の開発行為に対する許可制
  • 建築物の構造の規制
  • 安全な地域への移転
守る
  • 地すべり防止区域内等
    抑制工

    地すべりの元となる要因自身を低減・除去する

    集水井
  • 抑止工

    地すべりを構造物で防ぐことにより安定化を図る

    アンカー工
回復を早める
  • 復興事前準備

    計画図

    計画図
  • 模擬訓練
    模擬訓練
  • 保険・共済加入の検討
    保険・共済加入の検討

*土砂災害警戒区域:土砂災害による被害を防止・軽減するため、危険の周知、警戒避難体制の整備を行う区域
土砂災害特別警戒区域:特定の開発行為を許可制とするなどの制限や建築物の構造規制等を行う区域 (国土交通省 参照2020年7月20日)。

適応策
逃げる
動かす
守る
回復を早める
方法
[ 土砂災害警戒区域の指定 ]

警戒避難体制の整備やハザードマップの配布を市町村等が、要配慮者利用施設における避難確保計画の作成等を施設管理者が行う。

[ 防災訓練、防災教育 ]

土砂災害は発生箇所が局所的である場合が多い為、自治会等の地区単位で、個人レベルや地区レベルでどのような避難行動を行うか事前に検討し、更に状況の急激な変化にも対応する為にセカンドベスト、サードベストの避難場所、避難経路等を準備して(国土交通省砂防部 2020)、実践的な避難訓練を行うことが重要である。また、これらを踏まえ策定される「地区防災計画」と、市町村単位の「地域防災計画」との連携により、地域の防災力を向上させる事が進められている。

[ 防災情報の利活用 ]

①プッシュ型通知サービス
住民の主体的な避難の判断を支援したり、離れた場所に暮らす高齢者等の家族への避難行動を呼びかけることを目的として、メールやスマホアプリにプッシュで知らせる取組が行われている(気象庁「危険度分布通知サービス」、国土交通省「逃げなきゃコール」)。

②重ねるハザードマップ
防災に役立つ様々なリスク情報や全国の市町村が作成したハザードマップを1つの地図上に重ねて表示し、複数のリスクをまとめて調べる事等ができる。

特に土砂災害特別警戒区域では、避難に配慮を要する方々が利用する要配慮者利用施設等が新たに土砂災害の危険性の高い区域に立地することを未然に防止するため(国土交通省 参照2020年7月20日)、以下のような措置が講じられる。

[ 特定の開発行為に対する許可制 ]

住宅宅地分譲や災害時要援護者関連施設の建築のための開発行為は、基準に従ったものに限って許可され、特定の開発行為は、都道府県知事の許可を受けた後でなければ当該宅地の広告、売買契約の締結が行えない。

[ 建築物の構造の規制 ]

居室を有する建築物は、作用すると想定される衝撃に対して建築物の構造が安全であるかどうか建築確認される。

[ 安全な地域への移転 ]

著しい損壊が生じるおそれのある建築物の所有者等に対し、建築物の移転等の勧告および支援措置を行う。
(以上国土交通省 2017及び新潟県参照2022年3月3日)

計画規模を上回る土砂移動現象に対しても、砂防堰堤等が少しでも長い時間減災機能を発揮することで、人命を守り、社会経済活動への影響を最小限とすることができるように施設配置や構造を検討する(社会資本整備審議会2015)。砂防堰堤等のうち、地すべり防止施設には大別して下記2つがある。

[ 抑制工 ]

地すべりの原因を排除する工種。地下水の排除や、移動する土塊の上部を軽くするために土砂を取り除く。(以上京都府 (参照2022年3月4日)より引用)主な抑制工には、地表水排除工や地下水排除工(集水井工等)などがある。

[ 抑止工 ]

構造物の持つ抵抗力を利用して、地すべりの運動の一部またはすべてを停止させる工法(斜面防災対策技術協会 参照2022年3月4日)。杭工、シャフト工、アンカー工の種類がある。

[ 復興事前準備 ]

復興事前準備とは、平時から災害が発生した際のことを想定し、どのような被害が発生しても対応できるよう、復興体制や手順等、事前に準備しておくことをいう(国土交通省2018)。土砂災害に係る復旧・復興に関しては、居住エリアの土砂災害(特別)警戒区域等以外へ配置、林業や農業を営む土地(圃場や林道等)の再生、地域コミュニティの維持等の配慮が考えられる。

[ 模擬訓練 ]

職員や住民を対象に、復興まちづくりへの理解を深め、被災後の復興まちづくりに関する知識や手順を習得する等(国土交通省2018)の復興訓練を行う。

[ 保険・共済加入の検討 ]

大雨や地震などが原因で発生した土砂災害を補償対象としている保険や共済に加入する事で、災害に備える一つの方法になると考えられる。

コスト
低~中
所要時間
短期~
短期~長期
短期~長期
短期

適応策の進め方

【現時点の考え方】
土砂災害は複雑な誘因、素因が連関して発生し、正確な発生予測が難しいことから、ハード対策とソフト対策を一体的に進め(国土交通省 2018)、自助・共助・公助による防災・減災の取組みが進められている。

【気候変動を考慮した考え方】
今後、気候変動の進展に伴い、台風・梅雨前線ともに影響範囲が東進、北進し、これにより、これまでも集中豪雨が数多く発生した九州西部や中国地方ではより一層降水量が増大し、これまで降水量が多くなかった地域である北海道においても集中豪雨が発生するようになると予想されている(気候変動を踏まえた砂防技術検討会 2020)。

【気候変動を考慮した準備・計画】
今後の気候変動を踏まえた土砂災害への適応策を推進するためには、1.どのような土砂移動現象が今後頻発化もしくは新たに顕在化する恐れがあるのかを社会全体として認識できるようにすることと、2.計画論上・設計論上の外力(降水量・生産土砂量)がどの程度増加するのかを推定する手法を構築することが重要となる(気候変動を踏まえた砂防技術検討会 2020) 。

2022年3月改訂

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