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- イラストで分かりやすい適応策
洪水
影響の要因
気候変動により、極端な降水の発生頻度や強度が増えることにより、治水施設の整備水準を超える規模の洪水が発生し、被害を生じさせる可能性が増大する。
現在の状況と将来予測
現在、浸水面積の経年変化は全体として減少傾向にある一方、氾濫危険水位を超過した洪水の発生地点数は国管理河川、都道府県管理河川ともに増加傾向にある。
将来、洪水を起こしうる大雨事象が、日本の代表的な河川流域において今世紀末に増加することが予測されている。洪水、高潮、洪水高潮の複合の各災害の年平均期待被害額*を都道府県ごとに比較した研究においては、31都道府県において洪水単独災害による被害額が最大、14都府県において高潮単独災害による被害額が最大、千葉県のみにおいて複合災害による被害額が最大となると予測されている(右図参照)。
*年平均期待被害額:数百年を眺めたときに、平均的に1年で生じる水災害被害金額(風間2020)
**洪水、高潮、洪水高潮の複合のうち被害額が最大となる災害を図示したものであり、示された単独災害以外の災害も予測されている事に注意が必要
適応策
近年の水災害による甚大な被害を受けて、気候変動により施設能力を超過する洪水が発生することを前提に、流域の全員が協働して流域全体で行う治水対策である「流域治水」への転換が進められている。突発的に発生する激甚な災害に対して行政の防災対策だけでは限界がある事から、住民自身も防災意識を高め防災対策を強化し、自助・共助・公助で連携して対策を進めていく事が重要である。
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■防災情報の利活用
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■ ■避難場所の確保
公共施設に加え民間施設も活用
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■ ■効果的なダムの運用
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■流域の持つ保水・遊水機能の確保
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■河道の強靭化
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■輪中堤等の整備
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■不動産取引時の情報提供
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■条例等による規制
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■移転
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■広域連携
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■水害保険や金融商品の活用
事前の備えにより復旧・復興を迅速化
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■生活再建マニュアル
適応策
*適応策の詳細は自然災害・沿岸域分野の「内水」参照。**流域:対象河川における降雨や降雪が流入する地域。***氾濫域:河川の氾濫時に浸水する領域。
気象庁は、「洪水警報の危険度分布」について、地図上に5段階で色分け表示した情報を提供している(3時間先まで予測)。指定河川洪水予報の発表対象ではない中小河川も含め、早い段階から洪水災害発生の危険度の高まりを一目で確認できるようにしており、危険度の高まりをプッシュ型で通知するサービスも行われている。
公共施設の指定だけでは十分な避難場所を確保することが困難な場合、民間施設等を活用する事も有効であり、災害時における避難施設として使用する為の協定締結の事例等が各地で見られる。また都市の再開発事業においては、避難スペースや連絡通路等の整備を計画段階から誘導し、災害対策を施した街づくりを進めることが有効である。
・治水ダムについては、洪水調節機能強化の為の施設改良や、効果的な事前放流の為の予測精度向上(降雨予測、ダム流入予測等)の取組が行われている。
・多目的ダムや利水ダム、ため池については、利水者の協力のもと、洪水が予測された際に利水容量を事前に放流し、洪水調節に活用するための取組み(協定の締結等)が進められている。
流域全体で遊水の貯留能力を高める為に、従来から行われている遊水地・調整池の整備推進、田んぼ、多目的遊水地(道路や公園等)の活用等が進められている。
氾濫水を減らす為に、河川管理者による粘り強い堤防(越流しても決壊しにくい堤防)整備、河道掘削や引堤等、従来からの取組の更なる強化が進められている。
従前より行われてきた輪中堤(ある特定の区域を洪水の氾濫から守るために、その周囲を囲むようにつくられた堤防)や二線堤(本堤の背後に作られ、万一本堤が決壊した場合に被害の拡大を防ぐ)等の整備により氾濫水を制御し、浸水範囲を特定の区域外に限定する。
不動産取引時に、宅地建物取引業者がハザードマップにおける取引対象物件の所在地(水害リスク情報)を説明することが重要事項説明の対象項目として追加、義務化されている。
水害リスク低減の為に、各種法律において建築に関する規制や勧告、誘導等の制度が整備されているほか、市町村等独自で条例に基づき対策を講じている事例(滋賀県等)も見られる。
既に水災害リスクの高い地域では、防災・減災対策を実施したとしても一定のリスクが残る場合や、移転等の取組を促進する方が適切な場合も想定される為、防災集団移転促進事業やがけ地近接等危険住宅移転事業の活用などを活用し、当該地域からの移転も選択肢の一つとして検討する事が考えられる。
平時より大規模氾濫減災協議会等を活用し、災害時における防災行動とその実行主体を時系列で整理するタイムラインを広域で作成すると共に、災害時は関係者が連携し、TEC-FORCE活動等の支援も含め迅速に復旧・復興活動を行う。
水害保険や金融商品*の充実により、個人の備えを推進することも有効な手段の一つとなる。
*個人や企業が水災害リスクを軽減するための対策を適切に講じている場合に住宅ローン金利や保険料が割り引かれる金融や保険の商品(社会資本整備審議会2020)
実際に水災害にあった場合に必要な手続きや片づけ方法等をまとめたマニュアルが公開されている。事前に目を通す事で、万一の被災時の初動や生活再建を早める事が出来ると考えられる。
中・長期(ハード対策)
中・長期(ハード対策)
適応策の進め方
【現時点の考え方】
河川、下水道、海岸等において災害を防止するための施設は、過去に発生した現象やそれらの統計解析により計画を策定し、それを実現するための施設配置や施設設計を行っている。(社会資本整備審議会 2020より引用)
【気候変動を考慮した考え方】
近年の水災害による甚大な被害を受受け、施設能力を超過する洪水が発生することを前提に、社会全体で洪水に備える「水防災意識社会」の再構築(社会資本整備審議会 2020)を一歩進め、気候変動の影響や社会状況の変化(人口減少、インフラの老朽化)などを踏まえ、様々な関係者が協働して行う流域治水への転換を推進し、防災・減災が主流となる社会を目指す。
【気候変動を考慮した準備・計画】
気候変動による今後の豪雨の激甚化・頻発化の程度については、温室効果ガスの排出抑制政策の動向や気候変動予測の不確実性などから、大きな幅が存在していることを考慮する必要がある。治水計画や施設設計等の検討にあたって、降雨量の増加等の外力の増加を現在の計画や設計の考え方に直接反映するとともに、外力が増加した場合にかかる追加コストの大きさ等に応じ、必要に応じてさらなる外力の増加にも配慮することが考えられる。(以上気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会 2020より引用)