インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

高潮・高波

自然災害・沿岸域分野|沿岸
協力:京都大学防災研究所

影響の要因

①海面上昇:海水の熱膨張、氷河や氷床の融解等により、海面水位が上昇する可能性が高い。
②台風の挙動変化:海水温上昇によって中心気圧が低下し、強い台風が増える可能性がある。また、台風の経路や数も変化する可能性がある。

気候変動による高潮・高波への影響のイメージ
出典:気象庁ホームページ「高潮」を加工して国環研作成

現在の状況と将来予測

日本周辺の海面水位は、1980年以降は上昇傾向にある。世界では、21世紀末には1986-2005年比で海面が0.29~1.10m上昇する可能性が高い(IPCC 2019 SROCC SPM)。台風の特性変化、高潮偏差の増加、日本の太平洋側の高波増加を予測した研究もある。

気候変動による高潮・高波への影響のイメージ
出典: IPCC (2019) Figure 4.9

適応策

海面のモニタリングや気候予測等を通じて気候変動の影響を的確に捉える。また沿岸域の社会経済活動や土地利用の動向も考慮し、ハード面とソフト面の適応策の最適な組み合わせを戦略的かつ順応的に進めることで、災害リスクの増加を抑制し、海岸を保全する。特にハードの対策を更新する際には、供用期間が終わるまで気候変動の影響に順応できる設計とすることが非常に重要である。

逃げる
  • ①ハザードマップや避難計画の作成
  • ②避難訓練
  • ③意識啓発
守る
  • ①より強い堤防を作る
  • ②段階的に高められる堤防や水門を作る
  • ③複数の施設で受け止める
動かす
  • ①安全な場所に移転する
  • ②高床式にする
  • ③盛土をする
回復を早める
  • ①復興の体制・計画づくり
  • 広域の連携
  • ②復興に向けた訓練(例:排水)
逃げる
守る

ハザードマップや
避難計画の作成

避難訓練

意識啓発

より強い堤防や
水門を作る

段階的に高められる
堤防や水門を作る

複数の施設で
受け止める

概要
【ハザードマップ】

・自治体と地域コミュニティが連携して、ハザードマップは主に住民等の避難に活用されることを目的とし、第一に住民目線で作成する。

・「災害発生前に勉強する場面」「災害時に緊急的に確認する場面」のシチュエーションを意識し、住民等にわかりやすく提供できるよう作成する。想定最大規模の高潮・高波を対象として作成する。

【避難計画】

自治体と地域コミュニティが連携して、ハザードマップ等の情報に基づき、避難対象地域、伝達方法、避難場所、避難路等を位置付けて、避難計画を作成する。

・自治体や地域コミュニティは、市民が災害時に安全かつ迅速な避難を行うことができるよう、定期的な避難訓練を実施する。

・住民は、積極的に避難訓練に参加して災害時に迅速な避難ができる状態とする。

・自治体や地域コミュニティは、防災教育の実施、説明会の実施、パンフレットの配付等、地域の実情に応じて意識啓発の活動を行う。

・水位の上昇に対応する堤防等の嵩上げを行う。

・想定を超える高潮等に対しても壊れにくい「粘り強い」構造の堤防を実現する。
①陸側の付け根(法尻部)の強化②陸側の被覆(法面)の強化③上面(天端被覆工)の強化

・水門について、供用途中の改修が困難な部材は、耐用年数内で予測される外力の増大分を予め考慮して設計するなどの方策が考えられる。

・気候変動によって徐々に増加していく高潮、高波の外力に対応できるように、あらかじめ将来に高さを追加できる堤防や水門を開発する。次のような段階をふんで開発する。
① 既に上昇した海面水位上昇分を見込む。② ①に加え、構造物の耐用年数における海面水位上昇分を外挿や予測計算などで見込む。③ ②に加え、台風の激化に伴う高潮上昇分を見込む。

・水門について、供用途中でも比較的安価に改修できる部材は、設計時に気候変動は考慮せず、気候変動による外力増を確認後に逐次対策を講ずるなどの方策が考えられる。

・堤防や消波工に、人工リーフや砂浜等も組み合わせることで、波の力を分散させて受け止めることができる。このような方式を面的防護方式という。

・災害リスクの増大抑制に加えて、砂浜の侵食対策も含めた海岸保全の効果も期待される。

自助
共助
公助

公助、共助

公助、共助、自助

公助、共助

公助

公助

公助

効果
(災害リスクの抑制、海岸の保全)

低~中

中~高

コスト


各海岸堤防対策の単価
粘り強い化 40万円/m
(土木学会 2018年)


各海岸堤防対策の単価
L1 高潮又は津波の嵩上げ 70万円/m2
(土木学会 2018年)

所用期間(目安)

数ヶ月~1年
(気候変動の進展等を踏まえて定期的に見直し)

数ヶ月
(定期的に実施)

数ヶ月
(定期的に実施)

10年~数十年

数年~数十年

数年~10年

動かす
回復を早める

安全な場所に移転する

高床式にする、盛土をする

復興の体制・計画づくり

復興のための訓練

概要

・国や自治体において、危険な区域における居住や開発を抑制し、安全な場所への移転を促進する。

・各世帯において、転居や都市構造の転換のタイミングなどに合わせて、ハザードマップ等で確認して安全な場所に移転する。

・各世帯において、行政機関が提供している自宅周辺の水害の可能性に関する情報などをもとに、建て替え時に床を高くしたり(盛土)、ピロティー構造にするなどの対策により、水害時の被害を軽減する。また、近隣住民が連携して取り組むことも考えられる。

・「床下浸水」から「床上浸水」になると急激に被害内容が増加するため、床上浸水の防止は重要である。

【体制づくり】事前に復興時の関係者の役割分担や指揮命令系統を決めるなど、復興体制を整備しておく。また復興手順も検討し、部局レベルまで実施主体を決めておく。例えば、高潮で浸水した市街地の排水には、警察、消防、自衛隊を含む多数の関係者が係るため、あらかじめ連携体制や指揮命令系統を構築しておくことが重要である。

【計画づくり】復興体制や復興手順、復興訓練、復興まちづくりの実施方針などを示した「事前復興計画」を策定し、平常時から関係者間で共有する。

・復興に必要な実務能力の習熟に向けた訓練を実施する。

・例えば、高潮については最大規模の浸水想定に基づき、以下の作業の訓練を行うことが考えられる。

①堤防決壊状況、浸水状況、道路等被災状況の調査 ②堤防仮締切、排水手順の検討 ③災害対策車、重機、資機材等の搬入 ④堤防仮締切 ⑤排水作業

自助/共助公助

公助、共助

自助、共助

公助

公助

効果
(災害リスクの抑制、海岸の保全)

低~中

コスト

中~高

低~中

所用期間(目安)

数年~数十年

1年~数年

数ヶ月~1年
(気候変動の進展等を踏まえて定期的に見直し)

数ヶ月
(定期的に実施)

適応策の進め方

【現時点の考え方】
海岸堤防は過去の潮位実績(伊勢湾台風規模等)等に基づいて設計されており、その設計を上回る場合はソフト対策で被害を軽減する。また海岸堤防等のうち、整備されてから50年以上経過した施設が約4割、20年後には約7割に増加する見込み(国土交通省 2019年12月9日開催)で、多くが更新の時期を迎えている。

【気候変動を考慮した考え方】
日本沿岸の平均海面水位は1980年代以降は上昇傾向にある。また、21世紀末には1986-2005年比で海面が0.29~1.10m上昇する可能性が高く(IPCC 2019 SROCC SPM )、これに加えて高潮偏差の増大や太平洋側における高波の増加を予測した研究もある。一方で、不確実性を含む情報を用いて堤防等を設計することは困難であるため、海面水位等のモニタリングを行い長期トレンドを把握しつつ、ハード対策においては順応的な対応(堤防であればかさ上げ)が必要である。排水口等、事後の改良が困難な構造物については将来変化を考えた設計を行う必要がある。また、ハードの想定を上回る災害が発生した場合、犠牲者を最小限とするため、さらに被災後の回復を早めるための様々なソフト対策が必要である。

【気候変動を考慮した準備・計画】
まずは、老朽化したハードの更新やソフトの対策等、直ちに取り組むべきことに早急に対応する。特にハードの対策を更新する際には、供用期間が終わるまで気候変動の影響(海面上昇、高潮、高波)に順応できる設計とすることが非常に重要である。並行して、継続的な海象のモニタリングや社会経済活動や土地利用の動向を勘案して、ハードとソフトの適応策の最適な組み合わせについて、中長期的な戦略に基づいて、順応的に整備していく。

2022年5月改訂
自然災害・沿岸域分野

ページトップへ