インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

強風等

自然災害・沿岸域分野|その他
協力:京都大学防災研究所

影響の要因

気候変動によって強い台風が増加し、住宅や電柱、倒木の被害等を増加させる可能性がある。また、強い竜巻を発生させるスーパーセル(巨大な積乱雲で強風や竜巻等激しい気象現象をもたらす)の発現頻度が高くなることで、被害が生じる可能性がある。

現在の状況と将来予測

現在、気候変動に伴う強風・強い台風の増加等と被害増加との因果関係について、具体的に言及した研究事例は現時点で確認できていないが、気候変動が台風の最大強度の空間位置の変化や進行方向の変化に影響を与えているとする報告もみられる。

将来、RCP8.5 シナリオを前提とした研究では、21 世紀後半にかけて気候変動に伴って強風や熱帯低気圧全体に占める強い熱帯低気圧の割合の増加等が予測されているものの、地域ごとに傾向は異なることが予測されている(右図参照)。

猛烈な台風が存在する頻度の変化
猛烈な熱帯低気圧(台風)が存在する頻度の将来変化。
赤色の領域で頻度が増加している。(RCP8.5シナリオ、21世紀末)
出典:Yoshida et al. (2017) 、気象庁気象研究所(2017)

適応策

個人での備えとして、事前に住宅や農業用施設等の耐風対策を進めると共に発生時の避難方法の確認等を行い、強風等の発生時には第一に身の安全を守る。万が一被害が生じた際には、行政は迅速な回復の為に、被害を早期に把握し必要な支援の提供等を行う。

時間軸= 事前発生時発生後全体、ハード対策= 、ソフト対策=
逃げる
  • 事前の備え
    注意情報等の収集

    台風と竜巻ではリードタイム*や襲来確率が異なる事に注意が必要

    台風の予報と実況/竜巻発生確度ナウキャスト
  • 発生時の対応
    身を守る為の行動

    台風と竜巻では逃げ方が異なる

    竜巻の場合(在宅時)/( 外出時 )

    *リードタイム:警報・注意報を発表してから基準を超える現象が発生するまでの時間(気象庁予報部 2011)。避難などの防災行動にかけられる時間となる。

守る
  • 事前の備え:住宅
    台風対策:耐風性強化(屋根)
    ガイドライン工法(被災時・新築時)/住宅リフォーム時の対応(既存住宅)

    出典:全日本瓦工事業連盟

  • 被害防止対策(窓)
    飛散防止フィルム/耐風性シャッター
  • 事前の備え:農業用施設
    低コスト対候性ハウスの推進
    低コスト対候性ハウスの推進
回復を早める
  • 全体
    チェックリスト等の活用
  • 被害発生後の対応
    早急な被害把握と支援
分類
逃げる
守る
回復を早める
方法

台風(影響が広範囲で発生確率も高い、数日前からの備えが可能)と竜巻(局所的で被災確率は低いが、発生しても接近するまで気付きにくい)では、注意情報等の理解の仕方や逃げ方が異なる事に注意が必要である。

事前の備え
[ 注意情報等の収集 ]

①台風の予報と実況
台風情報には予報と実況があり、予報では5日先までの予想進路や強度が発表される。強風に関しては、暴風域に入る確率として図示されており、特に台風の進行方向では接近と共に確率が高くなることから、常に最新の予報を確認し強風へ備えることが重要である。スマートフォン向け防災アプリも複数あり、自分がいる場所の防災情報をリアルタイムで確認する事ができる。

②竜巻発生確度ナウキャスト
半日~1日程度前に「竜巻などの激しい突風のおそれ」として気象情報が発表される。今まさに竜巻等が発生しやすい気象状況となった段階(発生確度2等)である「竜巻注意情報」が発表されたら、竜巻発生確度ナウキャスト(発生確度を10km格子単位で解析、1時間後(10~60分先)までの予測を表示(10分毎更新))でも確認を行う。竜巻は予測が困難(発生確度2で予測の適中率は7~14%程度(気象庁 参照2021年1月14日c))かつ局所的で被災確率も低い特徴を踏まえ、注意情報が発表された際には空の様子の変化等に注意を払うようにする。

発生時の対応
[ 身を守る為の行動 ]

①台風:事前に防災行動計画(タイムライン)を策定し、予報が発表された段階で策定した計画に沿って準備する事が望ましい。

②竜巻:実際には竜巻が近づいている事に気付きにくい上、移動スピードが速い。建物が倒壊したり、車が転倒する場合もある事から、親雲(竜巻をもたらすような積乱雲)が近づく兆しを感じたら命を守る事を最優先する(丈夫な建物などに避難、屋内でも窓ガラスには近づかず、一階の丈夫な机の下などで身を小さくして頭を守る)。

事前の備え:住宅

台風の強風による建物被害としては屋根への被害が最も多く、建築基準法に基づき正しく施工する事が重要となる。竜巻による住宅被害を避ける事は難しく、命を守る事が最優先となる。

[ 台風対策:耐風性強化(屋根)]

①ガイドライン工法の採用(被災時・新築時)
台風による屋根被害では、ガイドライン工法*に適合しない瓦屋根被害が多いとの報告もある事から(国土交通省2020)、万が一被災した際には、ガイドライン工法に基づいた耐風性能を向上させる改修を行う事が望ましい。令和4年1月1日からは、新築時の全ての建築物にこの工法が義務付けされる。

*瓦屋根について耐風性等の高い緊結方法等をとりまとめたもの(H13年8月策定)。最近の新築住宅では相当程度活用されている。

②住宅リフォーム時の対応(既存住宅)
被災してからでは工事依頼の集中により修理までに時間を要する場合もある事から、平時からリフォームの際に耐風性の高い屋根に吹き替え等行う事が望ましい。耐震補強を行う際に、耐風性も考慮した軽く丈夫な屋根に置き換える事も考えられる。

[ 被害防止対策(窓)]

台風・竜巻共に戸建てではシャッター・雨戸を閉め、万一の飛来物の飛び込みに備える。シャッター・雨戸がない場合、飛散防止フィルムなどを窓ガラスに貼り、風圧による破砕に対して備えを実施する。

事前の備え:農業用施設
[ 低コスト耐候性ハウスの推進 ]

強風被害に備え、低コスト耐候性ハウスの導入が進められている。老朽化した農業用ハウスから、耐候性ハウスへの建て替えの支援も行われている。

全体
[ チェックリスト等の活用 ]

各ステージ(事前の備え⇒発生時⇒被害発生後)での対策を確認できる一般向けの安全チェックリスト(台風及び竜巻、日本風工学会作成)の普及や、学校災害対応マニュアル等の作成・普及により、事前に対応方法を確認する事で、市民の被災後の回復力を高める事が出来ると考えられる。

被害発生後の対応
[ 早急な被害把握と支援 ]

地域防災計画に基づく被災後の復旧・復興において、適切な支援に繋げる為の強風被害発生地域の迅速な把握が重要となる。ドローン(狭域)や航空写真・衛星画像(広域)を用いた被害把握が行われており、迅速な情報発信(防災科研クライシスレスポンスサイト等)も行われている。

コスト
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諸条件により異なるが、一事例として一般屋根住宅の屋根面積120㎡の葺き替え工事(化粧スレート瓦 )で約 160万円が目安(消費税等別、兵庫県瓦工事業共同組合 参照2022年3月28日 )

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所要時間
短期
短期〜中期
短期

適応策の進め方

【現時点の考え方】
ソフト対策(気象情報の高精度化に向けた取り組みや発信方法の工夫、防災計画の策定、迅速な被害状況把握等)とハード対策(建築基準法による告示基準の改正、耐候性ハウスへの建て替え支援等)の両面で強風対策が進められている。

【気候変動を考慮した考え方】
気候変動によって事象の発生頻度が変化することにも留意し、低頻度であるが大規模な影響をもたらしうるものも含め、様々な事象を想定して対応を検討する(国土交通省 2018より引用) 。個人の備えとして、平常時の耐風補強と被災時に耐風性能を向上させる全面リフォーム(”Build Back Better”, BBB)の両方が有効である(西嶋他2020より引用)。

【気候変動を考慮した準備・計画】
順応的なマネジメントを行うこととし、気候変動のモニタリングを継続的に行いつつ、気候変動の進行や最新の気候予測データ、地域の社会経済状況の変化、既往の対策及び新たな対策によるリスクの低減効果を踏まえて、必要なタイミングで的確な適応策を選択できるように進める(国土交通省2018より引用) 。

2022年3月改訂

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