Staff interview #01
行木 美弥(NAMEKI Mimi)

気候変動適応センター 副センター長・気候変動適応推進室 室長(兼務)。気候変動適応センターの設立(2018年7月〜)からのオリジナルメンバー。2020年8月、環境省へ帰任。小学生の女の子を持つ母。北海道厚岸町出身。

環境に関する仕事に就いたきっかけを教えてください。

わたしは北海道厚岸(あっけし)町、牡蠣が有名な港町で幼少期を過ごしています。人間の数よりも牛や馬の数のほうが多いような大自然の中で育ちました。

高校生の頃は漠然と「医者になろうかな?」と考えていたんですね。でも、ある日、本屋さんでなんとなくひかれて手に取った一冊の本がわたしの未来を変えました。環境ジャーナリストの石弘之さんが書かれた『地球環境報告』という本だったのですが、自分が暮らしている場所の環境とは、まるでかけ離れた環境問題が世界中で起きていることを知ったのです。このままでは、地球のキャパシティを超えてしまうという事実に大きな衝撃を受けました。

「このままじゃ、まずい。なんとかしなくては!」という危機感と、自分が育った豊かな自然を守りたいという想いが募り、「わたしも環境のために何かをしたい!」という思いの丈をしたためた手紙を著者である石さんに出しました。すると、なんと「頑張ってください」とお返事がいただけたんです。わたしはとても単純なところがあって、このときに環境問題に取り組もうと心に決めました(笑)。

そのあとは、ずっと環境問題に関わってきました。環境問題について学べる大学に進学し、学生時代には環境問題へ取り組むNGOの代表も務めました。卒業後は、環境省(当時は環境庁)に入り、慶應義塾大学の環境情報学部の准教授などを経て、今に至ります。

気候変動適応センター(CCCA)では、どのような仕事をしているのですか?

わたしは、ふたつのポストを兼任しています。

ひとつは副センター長。気候変動適応センター(以下、CCCA)には、「研究分野」と「行政分野」のそれぞれにひとりずつ副センター長がおり、わたしは行政分野の副センター長です。CCCAの仕事は“研究に基づいて得られた科学的知見”を実際に地域で活かしたり、国の適応策の検討に活かしてもらうために技術的な支援をすること。行政的な視点からCCCA全体の動きを見るのが、わたしの仕事です。

ふたつめは「気候変動適応推進室」の室長です。気候変動適応推進室は、CCCAに4つある部屋のうち、唯一研究系ではありません。CCCA全体の窓口として、行政的な業務での貢献をスムーズにできるように 所内や省庁、ほかの研究機関との調整役として機能しています。例えば、CCCAは、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)の事務局でもあります。気候変動影響・適応に関する情報を掲載し、情報基盤としての充実を図るだけでなく、今後は人材育成にも繋げていく予定です。

現在、日本国内の情報基盤(A-PLAT)だけでなく、アジア・太平洋の情報基盤(AP-PLAT)での発信も行っています。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で、日本政府が約束してきたアジア太平洋気候変動適応プラットフォーム(AP-PLAT)が2019年の正式な立ち上げに至るまで、私たちはさまざまな準備をしてきました。国連の適応委員会に参加し、環境問題への地域の取り組みを押し進めるためにはどんな情報をどうだせばいいのか? それを活用してもらうにはどんな課題があるのか?、といったことを議論したり、環境省をはじめ、国内の関係機関、ADB(アジア開発銀行)やUNEP(国連環境計画)なども含めて、たくさんの国の人と話し合いを持ちました。

この仕事のやりがいはどんなことでしょうか?

豪雨災害をはじめとして、気候変動の影響がいろんな場所で出てきていますよね。ある日、お米を買ったら「暑くなりすぎて、いいお米がつくれなかった」という手紙が入っていたこともありました。いち消費者としても、ふだんの生活にも影響が出てきていると実感するできごとでしたね。

環境問題については、もちろん普通の人よりも知っているつもりでいました。でも、CCCAへきて “適応”に関わるようになり、気候変動の影響をひとにお伝えするような立場になると、改めて愕然とすることがあります。今すぐ対策を厳しくしたとしても、当面は悪くなる一方なんですよね。それはすでに研究の結果からも予測されています。

わたしたちがやっていることは、できるだけ悪い影響を抑えながら、変化に備えて支援をすること。すでに今も大変なのですが、この先はもっと大変になっていくのは間違いありません。

だからこそ今、頑張ることで、できるだけ多くの人への悪い影響や生活の負担が減るようにしなければいけません。これはとっても難しいけれど、非常にやりがいを感じています。

新しい分野だからこその難しさも感じています。CCCAも2018年に立ち上がったばかり、法律(気候変動適応法)も動き出したばかりです。一からつくるのは、大変ですよね。でも、同時につくり出す喜びもあると思っています。

気候変動適応センター(CCCA)はどんなところですか?

センター長の向井人史さんは、ほんわかとしたお人柄で全体をリードしてくれる芸術家タイプ。研究分野の副センター長である肱岡靖明さんは、体育会系のリーダーシップで研究員を引っ張っています。わたしは…そうですね、お母さんタイプでしょうか(笑)。自分としては、羊飼い的なリーダーシップを目指しています。

このように三者三様のキャラクター。違うタイプのリーダーとご一緒できているので、お互いに補完できるところも多い気がしています。CCCAは、本当にいい人ばかり。みなさん、ユニークで面白いんですよ!

お昼休みに活動する合唱団もあり、参加しています。メンバーは20〜30人。10人程度が入れ替わり立ち代わりで練習しています。わたしは高校時代、合唱部だったので、久しぶりに歌ったら、とても楽しくて。音楽のよろこびを再認識しているところです。残念ながら新型コロナウイルスの対応で春以降練習もできなくなってしまいましたが。

うちへ帰ってもこんな話をするので、娘には「もしかして、遊びに行ってるの?」といわれてしまいます。名誉挽回のために『夏の大公開』という国環研で開催されるイベントに連れてきたところ、クイズや実験など楽しいことが満載だったようで、疑問は確信に変わったようです(笑)。もちろん、本当はとても忙しく働いているのですが、ひとに恵まれて、とても楽しい職場ですね。

これからの目標を教えてください。

わたしは人生で最も大事なことは、“人との繋がり”だと思っています。

これからはどんな人でも気候変動の影響を受けていくと思います。まずは、ご縁があって繋がる人たちの影響を少しでも抑えられるように、貢献していけたらいいなと思っています。

わたしには10歳の娘がいます。自分たちの世代はなんとか乗りきれるとしても、子どもや孫の世代は今よりもっと状況が悪化していきますよね。でも、原因をつくったのはわたしたちや親の世代。もうだいぶひどくしちゃったのは戻せないのですが、少しでもよりよい未来へ繋いでいけたらと思います。

CCCAの立ち上げからこれまで、リーダーのひとりとして行政分野を統括してきた行木さん。確かなキャリアと親しみやすい人柄で、まさに羊飼い的にメンバーを引率くださいました。今年8月に環境省へ帰任されましたが、今後も気候変動の問題に取り組む大切な仲間として、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました!
取材日:2020年7月28日

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