Staff interview #05
砂川 淳(SUNAGAWA Jun)
大山 剛弘(OYAMA Takahiro)写真左から

1000人ほどいる国環研の中でたった二人だけの民間企業からの出向者。気候変動適応推進室 高度技能専門員のお2人にお話を伺います。自治体や民間企業の気候変動適応の支援、A-PLAT運営などを担当しています。

気候変動適応センター(CCCA)へ来る前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

大山:わたしは2019年8月より出向していますが、CCCAに来る前はコンサルティング会社で行政機関や企業をクライアントとし、気候変動に加えて、地震、津波、台風などの災害全般を調査していました。企業や自治体、国レベルでどういう影響が出るかをシミュレーションし、情報共有をするイメージです。CCCAの業務は調査研究にとどまらないので、「気候変動」という分野により特化してはいますが、業務の幅は広がったという感じです。

砂川:わたしは2019年11月より出向しています。CCCAに来る前は損害保険会社で保険営業をしながら、全国各地で働いていました。
災害と保険の親和性は非常に高いんです。災害が発生すれば当然保険金をたくさんお支払いすることになりますよね。昨今の台風や大雨では、何兆円規模の保険金が動いております。しかし、損害保険会社はそのような事態に備え対策しておりますので、基本的には安心なのですが、とはいえ、お支払いするばかりでは破綻してしまうので、お客様から保険料も頂戴しないといけません。保険会社の傾向としては、リスク回避の立場から気候変動の影響とそれに対する緩和・適応策には最大の関心を持っています。

昨今では、各自治体等で策定されているハザードマップの精度が上がってきており、実際に河川の氾濫などの水害に関してハザードマップ通りに被害が出ているところもあります。企業物件に関しては、リスク判断の要素として、保険会社としてもハザードマップによる情報を取り入れつつありますが、まだ個人の分野ではそこまで至ってない状況です。アメリカではすでに個人の分野でも取り入れ始めているようで、将来的には日本でもその可能性が高まると思います。損害保険は、防災・減災の観点からも重要な商品だと思いますので、これからも多くの知見を身に着けて防災・減災のシステム、新たな商品やサービスに役立てていきたいと思ってます。

CCCAでは、どのような仕事をしているのですか?

砂川:わたしたちは、自治体や民間企業の気候変動適応の支援を担当しています。
自治体の方に関しては、法律に則って「適応策」と呼ばれる様々な施策を練っていきましょうという動きになっていますので、国環研として技術的支援をしています。あとは研修会を開いて作り方のご説明をすることもあります。
民間企業の方に関しては、適応自体がまだ知れ渡ってないところもありますので、適応策の周知がメインになります。民間企業としてすでに取り組んでいらっしゃる企業の事例をもとにセミナーを開き、情報共有しながら適応策を周知して行く仕事です。

大山:私も砂川さんと同様の仕事をしていますが、わたしが東日本を担当、砂川さんが西日本を担当するような枠組みで働いています。
2019年は全国各地へ出かけて研修会や会議を開いておりましたが、新型コロナウイルスの影響でここ最近ではすべてがオンライン化されています。今年に入ってから、思いがけずウェブ会議システムにはずいぶん詳しくなりました。わたしはA-PLATの改修プロジェクトも担当しています。テーマは、気候変動適応についてわかりやすく世の中に伝えていくことですが、今は情報が多くなりすぎているので、そもそもどのようなWebサイトを作ったらわかりやすいかな?ということを議論して改修をすすめています。

環境に関する仕事に取り組みはじめたきっかけを教えてください。

砂川:大学卒業後に損害保険会社に入社してからです。環境の分野を希望したわけではありませんでしたが、元々関心がありましたし、何よりも保険と気候変動の関わりはものすごく強いので、今もこうしてこの仕事に携われていることをとても光栄に思っています。

大山:わたしは大学時代に台風や高潮の研究をしていたのですが、気候変動による影響が大きいことに驚いたことがきっかけでした。当時、フィリピンでとても大きな台風(2013年ハイエン)があって6千人以上の人が犠牲になりました。その原因の1つが温暖化の影響ではないかとのニュースをたくさん聞くタイミングでもあったので、方針を転換して台風だけでなく、気候変動にも目を向けて研究することにしました。また愛知県の出身なのですが、東海豪雨(2000年)も経験しており、生まれた頃からいろいろな災害を経験していることもあると思います。わたしにとって環境問題はとても身近な問題でした。

やりがいや目標を教えてください。

大山:気候変動への適応というテーマを軸に幅広い業務に関われることですね。自治体や企業にいろいろな側面から支援させてもらっていて、研修等のイベントでファシリテーションをしたり、解説資料を作ったり、教材開発をしたり、Webサイト改修に取り組んだりしています。色々な業務があるので日々新鮮な気持ちで向き合えますし、すべての業務が適応というテーマで繋がってくるので非常にやりがいがあると思っています。
気候変動は、農業も健康も産業もあらゆるものに影響があります。その情報をひとつとっても「こうすべき」という答えが各自治体、各企業それぞれで全然違ってくるんですよね。個人レベルでも考え方が違ったり、取り組み方が変わってくるので、つくばにだけ居ても、なかなかできることは少ないと思っています。やはりたくさんの自治体や企業のみなさんとパートナーシップを作って連携することが重要です。今はコロナ禍で対面での人的なネットワークをしっかり作るのが難しい状況ですが、オンラインのツールを駆使してなるべく多くの方達と繋がりたいと考えています。
それから、実はわたし、以前に東南アジアへ出張したときに蚊に刺されてデング熱にかかってしまったことがあるんですね。死の危険を感じるほど、大変な思いをしました。今は、気候変動によって日本でもデング熱のリスクが高まっているといわれているんです。ですので、個人的にも並々ならぬ危機感を持っています。大きな話に聞こえるかもしれませんが、気候変動のことを世の中に広めていくことで、ひとりでも多くの人に健康で豊かな人生を送れるようになってほしいという思いもあります。
また、CCCAの業務では優秀なコンサルタントの方々にもお世話になっていますが、出向元に戻ったら気候変動への適応に向けたコンサルティングに自分はどう取り組むのか、考えていこうと思います。

砂川:気候変動自体、これからは社会の大きな問題のひとつになっていくと思います。そのような流れの中で国の研究機関、気候変動に係る情報の中枢で働くことはたいへん有意義なことですし、大きな役割を担ってると思っています。
もうひとつ、民間企業にいながらCCCAで働くことは、なかなか経験できないことだと思いますので、その点もありがたく思っています。大山さんと近いところがあるのですが、今後はやはり多方面へコネクションを作っていけたらと思っています。わたしが民間人として研究所へ来ていることで、研究所にとってみたら、民間の考え方が新鮮に思えることもあるのかなとも思いますし、そういうふうに内部でのコネクションにもなれたらうれしいです。せっかくこの場所に今いるので、今後はたくさんの研究者の方々たちと接触したいですね。
自分の出向元のことで言えば、保険会社で考えていることや研究しようと思ってることと、研究所で考えているアカデミックな部分をうまく融合させて、新しいビジネスや商品・サービスの開発に繋げられるような仕事を作れたらいいですよね。出向元へ戻るときが来れば、そういったものを持って帰って橋渡しをしたいなと思っています。

CCCAの職場環境はいかがでしょうか?

大山:気候変動はまだまだマニアックな分野だと思うのですが、環境問題への危機感はCCCAのスタッフでしっかり共有されていて、すごく一体感を持って働かれているなあというのはずっと感じています。民間企業からきた身としては、熱い気持ちで働ける環境だなと思っています。民間からの出向者はふたりだけなので、わたしたちのためにいろいろなルールを作ってくださったりと、せっかく頂いた機会なので、CCCAの活動にも新しい視点を提供できたらいいなあと思います。

砂川:職場環境は最高です。もう空気が違いますね。土の香りがします。わたしは都内からつくばへ通っているのですが、電車通勤も逆方面ですから、快適です。少し駅からは遠いんですが。

大山:自然環境という意味でもこれ以上ないです。楽園ですね。鳥や虫の声が聞こえてきたり、たまにヘビがでてきたり。わたしは家族でつくばに引っ越したのですが、出向が終わってももう都内23区には戻れない気がします。東京に適応できる自信が無いですね(笑)。

どんな分野のひとにCCCAへきてほしいですか?

大山:気候変動はいろんな分野に影響を与えているので、どの分野の方が来ても得るものは有るとは思うのですが、個人的には健康分野に関心が高いので、お医者さんとか、アスリートの人でしょうか。そういう方々は、気候変動をどう捉えているかを知りたいですね。去年の世界陸上では、女子マラソン選手の4割以上が暑すぎたせいか棄権してしまっていることや、日本のスキー場も今年は全然稼動できなかったりとか、スポーツへの影響も大きいと思うんです。そういう情報発信は面白いんじゃないかなと考えています。

趣味はありますか?

砂川:現在は卓球です。国環研に卓球部があり、10年ぶりに再開しました。中学、高校の6年間、社会人になってから5年はやっていましたので、通算10年くらいですね。終業後に3〜4人で練習しています。今はコロナの影響でないのですが、つくば市の大会などにも出たりするんですよ。
それまではゴルフをしていました。保険会社の時代は、全国転勤があるので、環境が変わると、趣味も変化します。ゴルフでは、国体予選に出場したり、かなり本格的でした。H.Cは6.0です。走ること以外の運動は好きです。運動した後のがりがりくんは最高です!

大山:私は走ることが大好きですよ!今はギターですね。一度、ソフトボール大会に出場したとき、ラッキーヒットでMVPになっちゃったんです。その流れで一度、野球部に入ろうとしたのですが、練習がかなり過酷だったので止めました(笑)。
これまではバンドを組むことが多かったのですが、つくばへきてからはメンバーが居なくてもいい「ひとりギターバンド」で活動しています。音をリアルタイムで重ねていくスタイルです。昨年は国環研の音楽祭にも出ました。

民間企業から出向しているお二人の話は、ひと味もふた味も違う視点が垣間見られたように思います。出向の制度自体は1年更新ということで、期限付きではありますが、「出向が終わったあとも適応のパートナーとして頑張っていきたい」と語るお二人は、行政と研究者、さらに民間企業の橋渡しとなるキーパーソンであると思いました。どうもありがとうございました!
取材日:2020年9月16日

ページトップへ