Staff interview #10
小出 大(KOIDE Dai)

気候変動適応センター 気候変動影響観測研究室 研究員。2015年入所。専門は森林・植物の生態学。植物の分布や生長量の、気候変動による変化などについて研究している。茨城県筑西市出身。趣味は料理、お酒、卓球、美術鑑賞。

環境分野に興味を持ったきっかけを教えてください。

私は茨城県筑西市の出身で、子どものころは田んぼや里山を駆けずり回って虫を捕まえたり、魚釣りをしたりするのが好きでした。休日はよく登山に行きましたし、自然の良さは親からたくさん教わりましたね。それが、環境に関する仕事に就きたいと思う原動力にもなりました。

横浜国立大学で地球環境課程を専攻していたとき、持田幸良先生の野外授業が面白かったことがきっかけで、植物の研究室に入ろうと思ったんです。そしてその後の研究活動の中で、どっぷり浸かっていきました。植物って、動かないと思うじゃないですか。根っこが生えたら死ぬまでそこにいる、静的なものだというイメージがありますが、どうやら気候変動に応じて動いていそうだという話が見えたんですね。それが面白くて、専門としてずっと研究を続けています。

動くといっても、根っこが脚みたいになって動くわけじゃないですよ(笑)。木は種(たね)を四方八方に飛ばして次の世代を残しますが、当然、生育に適した環境の種が生き残りやすいですよね。温暖化が進むと、生き残りやすいゾーンがだんだんと寒い方向にシフトしていくと考えられるので、それを丁寧に追っていくと、やはり微妙に寒い方向に個体がずれていっています。日本全国でその状態が見られているので、やはり温暖化の影響ではないか、という仮説のもと、解析をしているところです。現状、ほぼ亜熱帯から高山帯まで、さまざまな樹木が動いていそうだという解析結果が出ています。

お仕事の内容を詳しく教えてください。

先ほどの話に付随しますが、植物の過去から現在までの分布の変化を見て、そのずれを確認しています。他にも、気温が何度くらいのエリアに現在の分布が広がっているかを把握して、将来の温度条件で分布すると考えられる領域が今後どのくらいまでずれるかを予想したりしています。

そのほかにもさまざまな研究をしていて、そのなかのひとつが、樹木の年輪から年間の生長幅を見て、それが昔とどのくらい違うかを測るというものです。比較すると、暖かいところでは年輪幅が減少傾向にあったり、寒いところでは増大傾向にあったりするんです。それは先ほどの分布に関する研究よりも、もう少し細かいレベルの解析ですね。生長幅は、その植物がどのくらい元気か、というバロメーターなので、このデータを見ることでどこの地域の個体群が脆弱になっているかがわかるんです。昔のデータがなかったとしても、年輪さえ見れば数百年レベルで評価できるので、過去に遡って傾向を見ることができることにも意味がありますね。

それから、紅葉時期の変化も観察しています。たとえば今年は何月何日に紅葉して、葉の色の強さは過去と比べてどう変化しているか…といったことですね。結構、毎年変動しているんです。毎朝9時から15時まで1時間ごとに撮影されたデータを元に紅葉時期を調べて、その日に紅葉した理由について気候条件との関係式を作り、それを使って将来予測を立てることで将来はどのくらい紅葉が遅れるか、色づきが変化するか、などの解析をしています。これは紅葉にまつわるイベント開催など、自治体が観光客を受け入れる体制を整えるのに役立てていただけます。

また、私は食べることが好きで、山菜の研究もしていたんです。都道府県別に山菜の収穫量の統計が林野庁から出ているので、それを使って、山菜の需要と供給のバランスが保たれている都道府県はどこなのか、という解析をしました。その需要供給バランスの地域差も興味深いですね。たとえば北海道は特徴的な結果を持っていて、面積が広いので供給量は多いのですが、人口密度が低いので利用しきれていない山菜が多い。自然の恵みはまだまだ北海道にありますよと言う報告をしています。

お仕事のやりがいはどんなところにありますか?

やっぱり、一番は面白いと思えるところです。植物が動いているということも、紅葉の色づきが変わってきているのも面白い。それらについて仮説を立てて、その仮説はどうやったら検証できるかロジックを組み立てて、データをとって議論をする作業は「面白い」の一言に尽きます。

気候変動適応センターは、研究だけをする組織ではありません。予想される将来変化に対して、地方自治体などが活動していくためのベースとなる情報を提供することが義務付けられています。私があまりメインで動けていない分野でもありますので、まだ勉強中ではありますが、地域ごとに考え方の違いなどがあるところも面白いです。同時に、伝え方の重要さについて考えさせられますね。

100年後の樹木の分布変化を報告したとしても、本当にそんなに変化があるかどうかは100年後にならないとわからないわけです。研究者は自分の立てた仮説が正しいと思って論文でも主張しますが、自分の立てた仮説に対して一番懐疑的なのも研究者本人なんです。不確実な部分があることを見越したうえで、自治体に「わが町ではこうします」という方針を決めていただかないといけないので、そのあたりはとても気にしながら丁寧に伝えなければいけないと感じています。

これからの目標を教えてください。

ずっと面白いことをやっていきたい。研究自体もそうですし、地域に還元していくという部分も含めてそう思います。そして、私が感じているような面白いことを、他の人も感じてくれるようになるといいなと思います。

たとえば、温暖化や気候変動の影響で桜の開花時期は早まっています。でももう少し厳密に言うと、寒い年もあれば暑い年もあるので、グラフにするとジグザグなんですね。そのジグザグの中で、おそらくほとんどの人はこの年・この場所での開花の早さ・遅さを正確に意識できていないんです。この気候によるジグザグを把握した上で、目の前の樹は気候値から予測される開花日に対して早いのか遅いのかを把握する必要があるのですが、それが携帯アプリなどで簡単に出来て「この樹はいつも開花予測日より遅かったのに、今年は色気付いちゃって急に早くなったね!」というようなことがあれば、面白いじゃないですか。

そういう細かい変化に気づけて、さらにそれを楽しめるようになると、きっと人生も豊かになるんじゃないかと思うんです。そうして周りの自然を楽しめるように一人ひとりが情報発信していけば、自然と気候変動影響にもすぐに気づける社会になるのではないでしょうか。

先日聞いていいなと思ったのは、林業に携わられている人が周辺に生えている草花を見て「見たことのない草花が生えていて、めずらしくてきれいだったから摘んできた」と鉢植えにしていたという話です。身の回りの自然をきちんと見つめて豊かに暮らしていますし、もっと言えばそれが、温暖化で新しい種が見られるようになってきても敏感に気づける社会につながっていくと思ったんです。そんなちょっとしたニュースをSNSなどでシェアして、みんなでその変化を感じ取っていけるようなムーブメントができれば、とても面白いなと思います。

森林や植物に対する愛が溢れていた小出さん。仕事がきっかけで知り合った対馬の漁師さんに送ってもらった立派な「ハチビキ」という魚を豪快にさばいたり、コロナ禍の前にはプライベートや仕事で自然豊かなタスマニアや北海道の大雪山に行ったりと、多趣味でアクティブな一面も見せていただきました。これからは周りの自然を、いままでよりちょっと意識して見てみようと思います。小出さん、ありがとうございました!
取材日:2020年11月19日

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