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イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

湖沼とその流域*

水環境・水資源分野 | 水環境

*ここでは湖沼を含む流域全体が気候変動に対して堅牢となるような、長期的な生態系保全の視点を記載している。流域に係る各項目の影響及び適応策は以下ご参照下さい。
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影響の要因

高い気温及び降雨の偏在化(出水と渇水)は、湖沼とその流域の水質や生物の生息環境等に顕著な影響を及ぼす。

現在の状況と将来予測

現在、湖沼やその流域で水温が上昇している。また湖沼での貧酸素化、川の瀬切れ、流域での湧水の減少といった問題が生じている。淡水生物の多様性も減少しており、特に冷水性の種の減少が著しい(右図上参照)。

日本の45湖沼における在来淡水魚類の
(a)種多様性および(b)機能的多様性の変化
出典:Matsuzaki, S.S. et al(2016)を一部改変

湖沼の水温は、近畿の8割、東北・関東・中部・四国・九州の概ね4~6割の湖沼で、夏季に有意な上昇傾向がみられる(環境省2020b) 。北海道も気温上昇が予測されており、今後の水温上昇が懸念される。琵琶湖では、100年間で年平均気温が約1.4℃上昇(彦根気象台2022)したのに対し、水温は40年間で約1.5℃上昇している(滋賀県2023)(右図中参照)。

上記のように高水温が進行すると、①水生生物の酸素消費量(呼吸量)が増え、②更に大気からの酸素の溶込みが少なくなり、酸素が湖底まで届きにくく貧酸素の問題が生じる。実際、世界規模で湖沼の貧酸素化が進行している事が分かっている(右図下参照)。

琵琶湖水温の経年変化
出典:滋賀県総合企画部CO2 ネットゼロ推進課提供(2023)

将来、更なる気温の上昇に伴う水温上昇により、水質悪化(溶存酸素量低下、底層の低酸素化、富栄養化等)、水生生物への影響(夏場の水温が冷水性魚類の適温外となる等)が一層懸念される。

1980年以降の湖沼底層の溶存酸素濃度の減少傾向
(縦軸はモデル推定値の平均値)
出典:Jane SF et al(2021)、松崎(2021)

適応策

湖沼でも溶存酸素濃度の環境基準が定められ、湖沼水質保全計画でも今後の気候変動適応への必要性が記載されている。各湖沼の特徴(大型/小型、深い/浅い等)や、 周辺環境(水資源利用、社会・経済活動)も踏まえ、長期的に流域全体を健全化し気候変動に堅牢なシステムにしていく事が必要とされている。

気候変動に堅牢なシステムにするための生態系の3つの力を高め、長期的に流域全体を健全化する
分類
湖沼の水質保全短期~長期対策
流域保全長期対策
順応的管理短期~長期対策
方法

各湖沼の現状(問題発生の有無)を把握し、問題が生じている場合はその原因や湖沼タイプ(浅い湖/深い湖)等を踏まえ対策を検討する。

[ 予防:インプット制御 ]

流域からの栄養塩や有機物の流入を少しでも減らすことで、湖底近くの酸素消費速度を抑制し、貧酸素化の進行速度を遅らせることができる。また湖内の光合成を阻害する濁り成分の流入を減らすことで、湖底での光合成活性を高め、溶存酸素量を増やす。(以上高津 参照2023年2月8日)特定汚染源(下水等)と非特定汚染源(農地等)の両方からの外部負荷の低減を図ることが挙げられる。また流域内に湿地を増やし保全することで、その微生物の脱窒*の働きにより水質改善を図る。

*脱窒:微生物の活動により硝酸イオンなどの窒素化合物が還元され、窒素ガスとして大気中に放出される作用(松崎2020)。

[ 対策:湖内対策 ]

具体的な対策として①内部負荷の削減(湖水の浄化等)、②湖水の混合促進・底層への酸素等の直接供給、③生態系機能を活用した水質浄化、④水草の過剰な繁茂の抑制、⑤浚渫(富栄養化した底泥を取り除く)や伏砂(底泥表層に砂をまく)がある(環境省2020b)。2016年3月には底層溶存酸素量(生活環境項目)と、沿岸透明度(地域環境目標)の指標が新たに設定され、影響評価や適応策に関する手引きやガイドライン(環境省 水・大気環境局 水環境課2021)も発行されている。

[ 多様な生息場所の保全 ]

湖沼を含む流域全体で、生物が戻ってこれるように水質や物理環境を整える。

①成長段階・生活史に応じた生息場の保全
淡水魚は、成長段階や生活史に応じて多様な生息の場(河川、湖沼、水田等)を利用する。そのため、それぞれの生息の場を保全・再生し、それらの場への行き来が確保され、淡水魚が生活史を全うできることが重要(淡水魚保全のための検討会 2016より引用)である。琵琶湖沿岸の水田地帯におけるニゴロブナ等の魚道確保(西田他2020)など各地で取組が行われている。

②水生生物の退避場所
夏季の底層の貧酸素化により大型の冷水性魚類が大きな影響を受けるのは免れません。一方、小型の魚類、水生昆虫、水草などは酸素を豊富に含んだ冷たく小さな湧水帯を保全することでも、絶滅を回避できる可能性があります。貧酸素化を防ぐとともに、こうした退避場所を残すことも大切(以上高津2022より引用)との指摘がなされている。

[ 地下水への浸透性の向上 ]長期対策

近年の都市化等に伴い雨が土壌に浸み込みにくくなり、結果として地下水の湧水量は減りつつある。夏季に豊富な地下水が湖沼に流入するようにし、底層水が滞留しにくく、貧酸素化しにくい環境を作る必要がある。(以上高津2022より引用)印旛沼・流域では雨水の地下浸透が重要となる台地や斜面を中心に、緑地や農地など浸透機能を有する場所をできるだけ保全するとともに、市街地開発における雨水浸透・貯留施設の設置普及を推進している(印旛沼流域水循環健全化会議 2022)。

[ 環境モニタリング ]

気候変動による影響の把握や適応策の検討、および効果検証を行うため、さらに現状では十分に解明されていないメカニズムを明らかにするために、水量や水質、生物に関する長期的・継続的なモニタリングが不可欠(環境省2021bより引用)。

[ 環境悪化の要因解析 ]

モニタリングデータに基づき環境悪化要因を解析し、要因に応じた適応策の検討を行う。

[ 湖沼・流域特性に応じたモデル開発・検証 ]

要因解析に基づき考案された適応策を実施した場合の効果をモデルで検証し、関係者と共有・今後の施策実施に反映する。

[ 気候変動に堅牢なシステムにするための生態系の3つの力を高め、長期的に流域全体を健全化する ]長期対策

気象の極端化や、その影響予測の不確実性等に対し、変化力・対応力・回復力を高める事で対応する「適応力向上型アプローチ」が提案されている(西廣他2022)。湖沼やその流域においても、回復力が高い状態(湧水など多様な生息環境の存在、良好な水質環境等)や、対応力が高いシステム(生物多様性が維持され生態系機能(極端な気象現象への頑健性等)が高まる)となる事で、気候変動に対しても堅牢となる。

適応策の進め方

【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】
「湖沼の水質保全」「流域保全」「順応的管理」一体となって、上記に示したような適切な対策を検討する。更に長期的な視点で、湖沼も含む流域全体で水質や水資源(地下水への浸透、湧水の維持等)、生物の生息環境の保全を進めていく事が、流域全体を健全化し気候変動に堅牢なシステムの構築へと繋がる。

2023年7月初版
水環境・水資源分野

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