各セクターから見たCOP29気候変動適応分野の調査報告 |
 COP29 気候変動適応特集!

適応専門家から見たCOP29
– 国立環境研究所 肱岡靖明気候変動適応センター長

A-PLATでは、COP特集記事の締めくくりとして、COPに参加した様々なステークホルダーの皆様からの印象をお伺いしています。今回は国内の適応専門家である、国立環境研究所 肱岡靖明気候変動適応センター長からお話を伺います。肱岡さんは、センター長として「気候変動適応研究プログラム」の統括等を行うのみならず、UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change:国連気候変動枠組条約)の「指標に関するUAEベレン作業計画」を支援する専門家計78名のうち唯一の日本人として活動されています。今回COP29の結果を受け、GGA(Global Goal on Adaptation:適応に関する世界全体の目標)指標選定作業に直接関わる専門家として、また日本の適応センターを率いるお立場からのご意見を伺いました。

まずは、肱岡さんが普段主に行っていらっしゃるご研究等の紹介をお願いいたします。

「気候変動適応研究プログラム」の統括をしています。これは、過去から現在の状況変化や気候変動影響のメカニズムを解明するプロジェクト1、シナリオ等を用いて気候の将来予測をするプロジェクト2、適応の社会実装に当たってのギャップを解析するプロジェクト3から構成されています。その他にも、適応策の優先度付けに関する意思決定に対して有益な科学的情報に着目した研究なども行っています。

UAE-ベレン作業計画の専門家として、どのようなことをしていらっしゃるのでしょうか。

UAEフレームワークには「7つのテーマ別目標」と「4つの適応政策プロセス別目標」がありますが、私は後者のプロセス別目標に対する指標を選定する専門家グループに所属しています。COPまでの期間は、8,000近くある指標候補リストに対し、フレームワークで定められた目標、および適応との関連度合いを精査する作業を行ってきました。同じグループに所属する28名の専門家同士で何度も打ち合わせを行い、分担して作業を行いましたが、とにかく指標の数が膨大ですし、専門家によって考え方が異なることもあるので、正直とても大変な作業でした。グループリーダーの尽力もあり、何とかCOP前に結果をレポートにまとめることができました。

COP29での交渉結果を受け、専門家としての今後の作業にどのような影響がありそうでしょうか。

まず、指標の数が100個以内に決まったことによる影響はとても大きいと思います。これまでの作業では指標候補の数が膨大すぎて、収拾がつかない面がありました。合計100個ということであれば、ひとつの目標に対して10個程度の指標に絞られることになるので、指標の優先度や使い易さについて議論していけば、洗練していくことができるのではないかと考えています。また、グローバルに適用可能な指標も含む、といったような全体的な枠組みがある程度定まったことで、議論が活発化していくと思います。今後、ひとつひとつの指標に対し、しっかりと中身の議論を行いながら選定していく作業に進んでいくことを期待しています。

その上で重要なことは、まずは、GGA指標を用いて測定を行うことに対する目的を明確にすることだと思います。例えば途上国は適応ニーズに対する資金の情報を得たいのに対し、先進国は支援した資金によって実施された適応策の効果を知りたい、といったような意見の隔たりがあると思いますが、目的が異なれば、使用する指標も大きく異なるので注意が必要です。また、様々な施策やその効果について測定する際、適応に特化した内容をいかに抽出するのかということも考える必要があります。「水不足状態の集落の数」や「農作物の収穫量」といった漠然とした指標では、数値の変化が適応策によるものなのかその他の要因によるものなのかがはっきりせず、肝心の適応の議論ができなくなってしまう恐れがあります。

MoI(Means of Implementation:実施手段)指標も含まれることになりましたが、研究者としては、単に適応資金の過不足に関する指標のみで測定するのではなく、支援したことによって社会がどう変化したのかといった、より本質的なことを図るべきだと感じています。そのような指標の開発や運用は容易なことではないとは思いますが、できるだけの努力はしたいと思っています。

COP30で、UAE-ベレン作業計画の成果物、すなわちGGAに関する指標セットが完成することになります。これは今後、日本社会にどのような影響を及ぼし得るでしょうか。

日本国内においては、政府が用いる指標、それを参照しつつ自治体が用いる指標などがそれぞれ存在しますが、GGAの指標はグローバルが対象なので、日本としては、政府が中心となり、日本国内の適応進捗状況や国際協力の成果を報告していく立場にあると理解しています。GGAのような上位の目標とその指標が分かり易いものであれば、自治体や民間セクター、市民にとっても、目指しやすいものになります。

GGAの指標が定まることによる日本社会への直接的な影響はすぐには無いと思いますが、特に国際的に事業を展開する企業や開発関係機関などが、COPでの適応についての議論や決定を認知しておくことは、とても重要です。世界共通の適応目標がしっかりと定められ認知されていることで、事業の戦略や活動計画を練る際に適応を主流化する動きが強まるでしょう。カーボン・ニュートラルについて考えてみても、ほんの数年前まではほとんど認知されていませんでしたが、今や多くの企業や自治体が積極的に取り組むようになっています。適応についても、世界の目標を自身の戦略や計画に落とし込んで推進する企業や自治体が出てくることで、その取り組みが拡大していくことを期待しています。

政策の議論、科学の議論、一般の取組、は、一見直接的な繋がりが無いように見えても、同時進行でそれぞれがきちんと連携しながら動いていくことで、社会全体の適応が少しずつ進んでいくものと考えています。A-PLATでも引き続き、それぞれのアクターによる最新の適応関連情報を、広く日本社会にお知らせしていきたいと思っています。

肱岡気候変動適応センター長
肱岡気候変動適応センター長
(2024年12月24日 IGES松尾茜研究員によるオンラインインタビューより)
(掲載日:2025年1月17日)