Staff interview #14
阿久津 正浩(AKUTSU Masahiro)

気候変動適応センター 研究調整主幹
2020年7月より環境省から出向中。環境省では福島第一原発事故後の対応に長く従事。その他、有害廃棄物の輸出入規制の法改正なども担当。栃木県日光市出身。
「趣味」は野球。国環研の野球同好会にも所属。

環境省から出向されて、今はどのようなお仕事をされていますか?

「研究調整主幹」という役職なのですが、何をやっているかと問われるとうまく説明ができないです・・・(笑)、CCCAの「支援業務」の総合調整といったところでしょうか。支援先には、各自治体も民間企業もありますが私は自治体がメインです。支援業務では研修を企画したり、A-PLATのコンテンツをつくったり、講演に講師派遣をしたりといった様々な取り組みをしていますが、それらの進捗管理のほかNIES内の他センターや省庁・他研究所等の外部機関との連携が必要なときの調整役も担っています。「プロジェクトマネジメント」が私の担当と言えますかね。

コロナ禍ですが、各自治体や関係者とのやりとりはどうされていますか?オンラインの活用はいかがですか?

本来ならば、各自治体を直接訪問したいのですが、コロナ禍でなかなか行けない状況です・・・。もし足を運べていたら、対面で話すことによって電話やオンラインでは話しにくい細かなニュアンスも含まれたご要望や悩みをお聞きすることができるかなと考えています。ただ、オンラインも必ずしも悪いことだけじゃないと思っています。例えば講演や会議をオンライン開催にすることにより、現地開催では参加できないような遠方の方々も参加いただける環境になっていると思います。支援先は全国各地で、すべてに足を運ぶには限界があるので、オンラインによってより広範囲に支援を届けられるという利点もあるかなと考えています。

環境省でのお仕事について教えてください。福島にいらっしゃったと伺いました。

そうですね、環境省での仕事は福島にいた期間が長かったです。福島第一原発事故後の対応で福島事務所にいました。避難指示区域内の放射能汚染廃棄物(津波がれき等)の処理、中間貯蔵施設への除染土壌の輸送などに携わっていました。一度本省に戻り別の仕事(廃棄物の輸出入規制の法改正)をしてからもう一度福島に行ったので合計で5年いました。福島に携わりたいと思ったのは、東北大学大学院の在学中に東日本大震災があり、その翌年に環境省へ入省したのですが、東北にいるうちに復興に対して何もできなかったという後悔と、被災地はまだまだ大変な状況なので力になりたいという気持ちを抱えていたためです。入省後1年間は東京の本省配属が決まりなのですが、入省1年後しばらくして希望を出し、2年目から福島に行くことができました。

福島に関するお仕事から、CCCAへの出向は何かきっかけがあったのでしょうか?

異動しなければならないタイミングになり、こちらも希望をして配属してもらいました。地球温暖化への対策は「緩和」と「適応」の2つがありますが、世間的には温室効果ガスを削減するアクションを起こす「緩和」がメインの対策としてイメージされ注目されていますよね。でも、本当は車の両輪と同じで「緩和」と「適応」は両立してやっていかなくてはいけないものなので、「適応」にもっと力を入れていかなければならないと思っていました。
希望した背景には福島での経験もあります。環境問題の多くはそうかもしれませんが、特に「気候変動適応」は各地域の状況に応じた取組みを進めていただかなくてはいけないことだと思います。東京の人と地域の人の考え方はやはり違いますから、東京で考えたことをやってもらおうと思ってもダメで、地元の人が大事にしていることや想いを汲みながら地域で主体的に取り組みを進めていただくことが、とても大切な要素になってきます。各地域を支援させていただく上で、私の福島での経験、事業を進める中で地元の方々の気持ちを考え向き合い、時には(ほぼ毎回に近かったですが・・・)お叱りをいただきながら・・・、取り組んできた経験が活かせるのではないかと思いました。

「適応」という言葉を伝えるのはなかなか難しいと思いますが、阿久津さんにとっての「適応」とは何ですか?

「適応」という言葉の響き自体が、将来の悪いことへの対応というマイナスをゼロにするようなイメージが伴うと思うので、そのまま伝えるとあまり響かないと支援業務を実施しながら感じています。また気候変動に関する対策は長期的な取り組みなので、想像がつきにくく自分事として感じにくいという点からも、取り組むのにハードルが高くなっているように感じます。それを払拭する意味から、今は、地域を魅力的にするという切り口で適応に取り組む意義を伝えられないかと考えています。温暖化は今後も当面進行していくことは変えられない事実。その現実を踏まえて、自分が住むところをより豊かに魅力的に、安全安心に生活できるように努めていきませんか?という提案ができたら、もっと積極的に取り組んでいただけるんじゃないかと考えを巡らせています。

その切り口での何かエピソードはありますか?

栃木県の那須塩原市は市の気候変動適応センターを設置されています。センターがない都道府県もある中で市(市町村)として早くから設置している事例としても素晴らしい例です。地元贔屓じゃないですよ!(笑)以前、CCCAがお話を聞いた時に、気候変動への適応を通して安心安全に暮らせる「幸せな街づくり」という観点で前向きに取り組まれているお話をお聞きして感銘を受けました。気候変動だけでなく環境問題は、直接関係がある人・関心がある人だけでなくあらゆる業種や職種の人とも協力しなくてはならないものです。組織にありがちな縦割りでなく、範囲外のことも勉強して連携してやるという意識が必要だと思います。那須塩原市は市役所の中に気候変動適応センターがあるのですが、横断的にあらゆる部局を巻き込んでやっていこうという体制になっています。垣根をこえてやることはたくさんのご苦労があると想像できますが、一致団結してやる体制は目指すべき姿だと思います。

大きく「街づくり」だと、「適応」対策をとらえるとき、関係者が増えて、自分事として取り組むことができるのがいいですよね。「街づくり」というキーワードにより、自分の住む地域をより良くし魅力的にしていくというポジティブなとらえ方にもなって素敵だなと思いました。

今後チャレンジしたいことはありますか?

このコロナ禍の状況がよくなったときのために、今は力をためる時期と考えています。CCCAとしてA-PLATのコンテンツづくりにも力を入れてきました。加えて、今後はそれらを活用したプッシュ型の支援も目指しています。こちらからコンテンツを発信するだけでなく、先方に「何か困っていることはありませんか?」とオンラインでも積極的にコミュニケーションをとって、個別に対応ができたらいいなとも構想しています。あとは、ステイホームで動画を見る人も増えたと思うので、動画を使っての気軽に触れられる科学的知見の情報発信もしていきたいですね。今年度外に出られなかったことにより、生み出せたアイディアやパワーを次年度にいかせていけたらと考えています!

今回記載しきれなかった学生時代の話も含め、引き出しをたくさん持っていらっしゃる阿久津さん。「街づくり」という新たな視線で「適応」についてお話をしてくださり新鮮でした。ありがとうございました!
取材日:2021年1月22日

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