Staff interview #16
石崎 紀子(ISHIZAKI Noriko)

気候変動適応センター(CCCA)) 気候変動影響評価研究室 研究員。大学で大気科学の授業を受けたことがきっかけで、気候学・気象学に関心を持つ。卒業後は文部科学省や環境省のプロジェクトで地域気候変動研究に従事。2018年に国立環境研究所に入所し、同年12月よりCCCA所属。現在は領域モデルを用いた領域気候解析、温暖化の影響評価のためのバイアス補正などを行う。茨城県出身。趣味は料理とアウトドア。

今までの経歴を教えてください。

もともとは環境というより、数学に興味があって大学に入りました。ただ、高校まで感じていた数学の面白さと、大学で扱う数学が少し違ったんですね。それで3年次に専攻を決める際、地球科学が面白そうだ、ということで地球科学に進みました。

面白いと思ったのは、地球科学のなかの気象に関する分野(大気科学)ですね。地球の裏側にある海の情報が、日本の気候に影響しているということを知って、とても不思議で、大気科学に興味を持ちました。科学でそれが説明できるということを面白いと感じました。

研究室では、地球スケールの大きな循環が、どのような規則性があって年々どういう変動をしているかということをデータ解析で調べていました。たとえば、日本で毎年起こる梅雨の大きな元となっているのがモンスーン循環です。モンスーンは、ユーラシア大陸とその周辺の海洋上とで熱のコントラストがあることによって起きる現象で、様々な地域に雨季をもたらします。雨季の始まる時期や雨の量は年々違いますが、毎年インドシナ半島あたりから雨季が始まってそれが広がっていくんです。毎年変わらない規則性について調べていると、海陸分布や細かい地形が、大きなスケールの現象に影響を与えていることがわかりました。

たとえば、ヒマラヤ山脈の山の高さがどのくらいモンスーン循環の強さに影響しているのか、ということを研究している人もいらっしゃいます。ありえないことではありますが、「インドシナ半島がなかったらモンスーン循環はどうなっていたか」というシミュレーションもできるんです。そういったことの一つひとつが、とても面白かったです。実際には不可能な話でも、その実験をすることで、いま起こっている循環がどう成り立っているかということを考察できるのです。

ちょうど私が学生の頃は、地域の温暖化予測を進めていこうという世の中の潮流にあった時期でした。温暖化が進んだら日本域の気候はどうなるか?どのように対策していくべきか?というプロジェクトがあちこちで立ち上がっていたことから、気象研究所、海洋研究開発機構、防災科学技術研究所、筑波大学など、プロジェクトに合わせて転々と研究しているうちに、国立環境研究所に辿り着いたというわけです。

現在のお仕事について教えていただけますか?

地球の気候予測は、地球全体を覆ったような「全球モデル」というものを用いて行われています。全球モデルは格子状になっていて、格子の一辺が100km程度なので、日本だけを取り出しても解像度が粗い状態。それを現実的な予測に近づけるため、データを空間的に高解像度化しています。

さらに全球モデルで過去の気候を再現したとき、実際に観測した値と比較するとズレが生じることが多いんです。そのズレを解消する「バイアス補正」は重要な業務のひとつ。データの高解像度化とバイアス補正をして、地域の気候変動がどうなっていくかという情報を作り出し、データを提供しています。

データを利用するのは影響評価をする人や、自治体が多いです。影響評価というのは、たとえば将来熱中症患者の搬送者数がどうなるか、あるいは米の収量がどうなるか、という予測のことですね。将来の気温や影響評価の結果についてはA-PLATを通じて公開していますが、今後は、最新の予測情報やそれに基づく影響評価の研究結果を更新していく予定です。いろいろなところで活用していただけたらと思います。

お仕事のやりがいや、反対に難しいと感じることはありますか?

以前、もう少しスケールの大きな解析をしていた頃は、研究者のコミュニティの中で気候場の形成について議論することが多かったのですが、CCCAに来て、データの利用者(自治体の方々や農家さん)の顔をより意識するようになりました。そこで私たちが公開したデータを使っていただけるうれしさを実感したり、しっかり作っていかなければならないという責任を感じたりしています。そういうところにやりがいを感じますね。

一方で利用者と直接対話をする機会も増えたのですが、たとえば「もう少し細かい情報がほしい」、あるいは「10年先などの、近い未来の結果を知りたい」と言われることがあります。データを作っている側からすると、細かくすれば正しい情報が得られるというわけではないんです。

カメラであれば画素数を上げればきれいに見えますが、それは実際にあるものを写しているからです。気候予測情報は、将来どうなるかわからない状態のものを見ていくわけですから、ある程度過去の情報に基づいてルールを決めて高解像度化をする必要があります。必ずしも精度が上がることとイコールというわけではありません。それを理解していただくことに、難しさを感じることがあります。

気候予測は天気予報とは違い、温室効果ガスが増えたときに気候モデルがどういう反応を示すか、ということを表したものなので、気候変化分が小さいとその影響がわかりづらい、という理由もあります。遠い未来で気温の上昇が大きい仮定の結果であれば、気候変動に応じた変化について言及しやすいのですが、近い未来の場合にはどこまで気候変動の影響と言えるのか、そのあたりの伝え方がとても難しいなと思います。

研究をしていると、将来の予測がいち早くわかるのは楽しいですね。自分の解析を見ながら「50年後、本当にこうなるのかな」「どの全球モデルの予測がもっともらしいのかな」と想像の翼を広げています。

今後、未来はどうなっていくと思われますか?

今後も昇温は続く見込みです。でも世界も変わってきていて、日本でも温室効果ガスの排出をゼロにしようという取り組みが始まっています。だんだんと、環境負荷を減らす努力が常識になっていくのではないでしょうか。そのために必要な情報を発信していかなければならないと思っています。

温暖化対策としては「緩和」と「適応」があって、これらに向けての意識は、一人ひとりから始まります。行動してすぐに温暖化が止まるわけではないのですが、まずはその影響を「知る」ことが重要です。たとえば温暖化の影響で大雨が増えて、洪水による事故が各所で起こっていますが、「大丈夫だろう」という思い込みで避難しない人もまだまだ多いです。こんなこと初めてということがこれからもっと頻繁に起こるだろうと予測します。これまでの常識が通用しないということを理解して、自分や家族の命を守ってほしいと思います。

これから特に力を入れて取り組んでいきたいことがあったら教えてください。

地域の将来予測データの作り方には、統計的な手法と、領域モデルを使う手法があります。私が現在主に取り組んでいるのは統計的な手法なのですが、領域モデルを使う手法のメリットも明らかなので、精度の高い将来予測をするために両者を融合させた新しい方法の開発に取り組んでいきたいです。私たちが作った気候シナリオを様々な分野の方々に上手に活用していただきたいと思っています。

子どもの頃からお父様に魚釣りやきのこ狩りに連れて行ってもらっていたことがきっかけで、いまでもアウトドアが趣味という石崎さん。料理もお好きで、得意料理は八宝菜だそうです。ご実家が兼業農家ということもあって、野菜料理がお得意なのでしょうか。物腰が柔らかく、専門的な業務内容についても丁寧に教えてくださった石崎さん、ありがとうございました!
取材日:2021年2月12日

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