Staff interview #20
山野 博哉(YAMANO Hiroya)

国立環境研究所生物多様性領域 領域長/気候変動適応センター センター長代行
東京大学大学院理学系研究科地理学専攻修了、1999年国立環境研究所入所
兵庫県の尼崎市出身

はじめに、国立環境研究所に入所したきっかけを教えていただけますか?

最初まで遡りますと…、偶然が重なりご縁があって入所しました。
学生の時、自然地理学でサンゴ礁の環境や地形を研究していて博士号を取りました。ちょうど募集があったのを、当時の先生に紹介してもらったのがきっかけでした。ですが…募集の内容が私の専門とは離れており、人工衛星を使ったリモートセンシングの研究で陸域が対象でした。当時はサンゴの研究はもうできないよと言われていました…(笑)。

サンゴの研究に繋がったエピソードはありますか?

98年に海面水温が上がってしまって、大規模なサンゴの白化現象がありました。「白化を、リモートセンシングで見ることができないか。」という話がもち上がったのがきっかけでしたね。それまで空中写真を活用する研究しかやっていなかったので、衛星リモートセンシングの勉強をし、サンゴの反射スペクトルを測定し、衛星でどう観測できるかという研究をしました。当時の衛星データの空間解像度は今と比べると荒かったのですが、私は現場のことをよく知っていたので、どこにサンゴがたくさんいるかを絞って解析することができ、白化を検出することができました。それを、当時の上司が気に入ってくれたので「サンゴの研究、いいんじゃない?」と雰囲気が緩まって研究を続けられました(笑)。

組織も5年ごとに改変があるのですが、私は運よく複数の分野に関わりながらもサンゴの研究を続けてきました。サンゴも水温上昇をはじめ気候変動に影響を受ける生き物です。海面が上がると海岸に届く波が大きくなるので、サンゴ礁でできた島にどういう影響が出るのかも、大切な研究です。今は私が続けてきた気候変動影響や適応のことが主流になりつつあり、有り難いことに現在も継続して研究を続けられています。

サンゴそのものに興味を持ったのはいつ頃でしょうか?

そうですね。サンゴに出会ったのも偶然だったんです。のちに就く先生になる方が、地質調査所(現在の産業技術総合研究所地質調査総合センター)に勤めていた方で、研究を手伝う学生アルバイトを募集していました。「沖縄にいける!」と聞いてアルバイトに応募し、その時初めて沖縄に行きました。海で泳ぐとたくさんサンゴがいて、これはおもしろい!と感じ、卒論のテーマもサンゴにしました。
サンゴを介した発見の面白さに惹かれます。サンゴは景観をつくるもの、地形をつくる生き物という点でも面白さを感じています。サンゴ礁を作る時間スケールの長さは実にダイナミックです。サンゴは動物ですが、単細胞の褐虫藻という藻類を取り込んで共生生活をしていて、褐虫藻が植物なので植物的な要素も持ち合わせます。また、サンゴは炭酸カルシウムの骨格を作るので鉱物としての性質も持っています。生き物として、こういう多様な特徴を持っている点に惹かれますね。興味がつきないです。

今の適応センター(CCCA)での仕事や研究について教えてください。

CCCAでは組織の人事面を担当しているのですが、CCCAで働く方々は専門やバックウランドも異なるので、それぞれの個性や想いを把握することに努めています。物の見方や考え方も違うので、どういう興味や熱意で関わっているのか知りたいなと考え面談を実施しています。こういった状況下なので、リモート面談ばかりで、なかなか直接お会いできないのは少し残念ですけどね。
また、気候変動適応研究プログラムでサンゴ礁の気候変動適応を行っており、おかげさまでサンゴの研究は続けられています。

一般の方に「適応」という言葉を伝えるアイディアはありますか?

海の中のことは、普段の生活では気にかけないものだと思いますが、実は海の中の方が変化も早くて顕著です。まずは、気候変動でこれだけ変わっているというのを意識してもらうことが大切だと思います。事実、海水温が上がっており、サンゴが白化していて、北の地域でサンゴが増えています。将来予測の話も大切ですが実感があまりわかないと思うので、事実をお見せして意識してもらうことが効果的だと考えています。

海に良く行く人は、変化を発見しやすいと思うので、そういった方を巻き込んで伝えられたらとも考えています。『サンゴマップ』(https://www.sangomap.jp/)という、ダイバーの方から情報を提供してもらう取り組みがあります。ダイバーの方々が海の中で見つけた日々の変化を情報提供してもらうプラットフォームで、そこに集まった情報で気になる点があれば、実際に行ってお話を聞いて、論文や講演で発表して、その成果をまたお伝えするといように、対話をして進めています。もう10年以上続くサイトで、細く長くできるといいなと思います。

最後に趣味や休日の過ごし方を教えてください。

出かけることが好きなので、出張が趣味になっています(笑)。どこに行きたいか?と聞かれると国内外のサンゴがいるところですが、どうしても仕事関連で考えてしまいますね。海以外だとけっこうプライベートのみで楽しめます。良いのか悪いのか、海だと仕事もプライベートもシームレスになってしまっています。私がよく海外で行っていたのは太平洋のツバル・キリバス・プカプカなどサンゴ礁でできた島ですが、カリブ海の方のサンゴも気になります。サンゴは基本的に南の地域に生息するものですが、けっこう北までいて、本州でも旅行して海辺を散策した際にサンゴが打ちあがっているのを見つけることがあります。まだ記録の無い場所でサンゴがいることを示している可能性や、水温上昇でサンゴが北上している可能性があって、これはとても気になっています。

紆余曲折ありながらも、一貫してサンゴに関わり飛躍し続ける山野さん。サンゴの話をしている山野さんはとっても楽しそうです。素敵なエピソードをたくさんありがとうございました。
取材日:2021年5月25日

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