Staff interview #34
サカタ スラーブカ(SAKATA Slavka)
宮塚 亜希子(MIYATSUKA Akiko)写真左から

今回はアジア太平洋地域を対象に適応情報を発信するAP-PLATの制作や運営に携わるアジア太平洋気候変動適応研究室の高度技能専門員2名にお話を伺いました。

環境に興味を持ったきっかけを教えてください。

宮塚:高校生のときに中国北部の広大な砂漠地帯で植林活動に参加した経験から地球温暖化に関心を持つようになりました。これが人生の大転換点でしたね。その後、大学で国際関係と環境経済・政策ゼミを専攻し、世界をもっと見たいと春や夏の長期休みは海外へ。“温暖化で沈む国”と言われていた島国ツバルを2005年に訪れた時は、国土の小ささや特性ゆえ人々の暮らしの場まで波が迫る光景に衝撃を受けました。温暖化がさらに進めば国の安全や人命に直接関わる問題になるのではと考え、学びを続けたくロンドンの大学院の修士課程に進みました。

SAKATA:私はチェコスロバキア生まれで、小学生のときに国がチェコとスロバキアに分かれたため、現在の故郷はスロバキアです。もともと外国語を学ぶのが好きで、大学では、日本語を専攻しました。在学中に禅仏教に関心がわき、それがきっかけとなり、宗教学専攻の学生として日本の大学に留学しました。
そのまま日本で大学院に進むことにしましたが、修士課程では専攻を変えて、サステイナビリティ学の研究室に所属しました。子供の時から山登りが趣味で自然が好きでしたので、環境問題に興味があり、サステイナビリティ学への進学は自然な選択肢でした。ただ、従来の環境学とは位置づけが異なるサステイナビリティ学の概念は当時まだ新しく、この専攻も私が入学する半年ほど前にできたものでした。修士のゼミで、よく「サステイナビリティとは何か」を話し合っていました。

大学院を修了されて、適応センター(CCCA)に入るまではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

宮塚:最も長く勤めたのは地球環境問題を専門とする国際色豊かな研究所で、6年間研究職として、各国の気候政策の調査分析や、越境大気汚染問題と気候変動の双方に効果をもたらすコベネフィット型の対策を検討する国内外の政府と専門家の国際パートナーシップの運営を担当しました。その後3年間、環境省で国際業務を統括する部署の政策班アシスタントとして、気候変動など国際的な課題について多国間での協議にあたる担当官のサポートにあたりました。それからCCCAに入所し、もうすぐ2年になります。これまで気候変動分野の仕事を続けてきた中で、適応について初めて真正面から取り組んでいます。

SAKATA:私は修士課程を終えた後、実は豆腐屋で働いていました。大学院ではほとんどの時間は文献を調べたり論文を書いたりするのですが、机上の知識だけで、「私はこの分野の専門家」と言えるまでには経験が偏っているなと感じたんですね。一方的に頭に知識だけを詰め込むのではなく、頭も体も動かすような職人の仕事がしたいと思うようになりました。豆腐屋で仕事をさせてもらい、豆腐も作れるようになりましたが、身体的には想像以上に骨の折れる仕事で腰痛になってしまい、やむを得ず辞めることにしました。
その後は技術系の研究所で事務、テクニカルスタッフとして4年ほど働き、2021年4月にCCCAに入所しました。また、学部生時代からずっとフリーランスで通訳・翻訳・スロバキア語講師の仕事も続けてきましたが、この経験は今のCCCAの仕事でも少し活かすことができています。

SAKATAさんはソーラーシェアリング発電所を作って運営もされているそうですね。

SAKATA:そうなんです。つくば市内に住む友人が作ったソーラーシェアリング発電所を見て、農業と太陽光発電が両立できる仕組みは素晴らしいと思い、当時の夫と一緒に市内に土地を買ってソーラーシェアリングシステムを設置して、今でも共同で運営しています。ちなみに発電の規模は40kWくらいで、月12〜15世帯の電気が賄える程度の発電量です。電気は残念ながら直接自家消費ができず全て売電していますが、送電網の特性上、作られた電気は近くに消費されているようですので、電気の地産地消と言えます。

大学院を修了されて、適応センター(CCCA)に入るまではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

宮塚:アジア太平洋地域向けの適応情報や科学的知見・ツールを発信する『AP-PLAT』ウェブサイトの運営として、世界の適応に関する情報収集やコンテンツ制作、関係機関との協力調整などを広く担当しています。
私がAP-PLATの担当となって最初に取組んだのは、実はウェブサイトのコンテンツ拡充とデザインの大改修でした。わずかな期間で完了させねばならない一大ミッションでしたが、日々アイデアを練りながら一つずつ形にして公開することができました。次の目標は域内各国の国家適応計画(NAP)を含む適応政策に関する情報を充実させることで、新しいプロジェクトの計画を準備しているところです。

SAKATA:宮塚さんと同様にコンテンツ作成や情報発信などAP-PLAT全体の運用に携わっていますが、中ではコンテンツの一つとして2021年にClimoKit(クライモキット)というデータベースを作り始めました。各国の研究機関や大学は気候変動の影響評価などに役立つ様々な科学的ツールを開発して公開していますが、ユーザーはそれらを個別に探すのが大変です。そこで、情報プラットフォームであるAP-PLATの役割のひとつとして、世界中のツールをデータベースにまとめようとしています。ClimoKitは2021年の春から、気候変動適応センターのWebチームと一緒に開発を始めました。現在は基盤となる検索機能付きのページができ、約60のツールが紹介されていますが、これから本格的にユーザビリティの向上やツールの追加を進めていく予定です。

お仕事のやりがいはどのようなところにありますか。

宮塚:自分の仕事の成果を主にウェブで披露するというのは個人的には初めてですが、“ものづくり”に関わり、多くの関係者との協力を経て作ったコンテンツを外部に発信できるのは嬉しいことです。それらを適応への着手や推進強化のために実際に多くの方に活用していただかなければならないことはシビアに捉えており、やることも多いですが、個人的には満を持しての任務で、武者震いしているといいますか(笑)。科学的知見の集積を担う国立環境研究所やCCCAという環境やリソースをいかして、多様な専門性や経験とアイデアを持っておられる方々との協働をもっと行っていきたいですし、現場のニーズの声を直接聞くために出かけていきたいとも考えています。

SAKATA:社会的にも気候変動は話題ですし、大学院でサステイナビリティ学を学んできたので知識もありましたが、特に適応について実際深く調べるきっかけになったのは今の仕事に就いたことです。
AP-PLATは新しい取り組みで、これからアジア太平洋地域で気候変動への適応をどう支援していくか、チームで議論しながら進めていますが、それはとても面白いですし、クリエイティブな仕事ですのでやりがいがあります。和やかな雰囲気のなか、自由に意見を交わしながら進めています。アジア太平洋で、たくさんの人が使えるプラットフォームにしていけるというのは、とても夢があります。

今後の目標を教えてください。

宮塚:AP-PLATが必要とされた時に、役に立ったと言っていただけるよう、コンテンツを一つでも多く揃えて現場に届けていくことです。
その上で、これまでの自らの経験を踏まえて忘れないようにしていることがあり、一つは、自分の仕事の先には守りたい自然と人々の暮らしがあり、そこに自分を投影して考えてみること、もう一つは、日本とは言葉も日々直面する状況も異なる方たちを相手にする仕事ならば、常にどこかで“日本を中心に据えて考えてはいけない”というマインドでいることです。
それから、真面目なことを真面目にやるだけではだめだとも思っています。私が学生だった頃と比べると、適応の行動を喚起する情報量や取組の多様化に驚く日々で、情報発信と入手先もSNSが主流になり、気候変動への意識がファッションとしてアピールされる多様化の時代。これからも良い意味でも予測できない事がさらに起こってくるはずで、視点を凝り固めず、常に頭の中に新しい「!」が入るスペースを取っておきたいです。そのひらめきを今後のAP-PLATのコンテンツ制作にも生かせたらと、アイデアを書き溜めています。

SAKATA:AP-PLATに限らず、多くの人に使ってもらうためには、質の高いコンテンツを使いやすい形で提供することが重要だと思います。その上で、知ってもらうための宣伝も必要です。アジア太平洋地域でどのような適応ニーズがあるかを見極めて、いかにそれに応えるコンテンツを作るか。役に立つコンテンツがなければ、どんなに素晴らしいデザインでも、どんなに熱心に宣伝をしても、多くの人に使ってもらうのは難しいと思います。
また、情報プラットフォームとして一方的な情報発信だけではなく、この分野で活動している機関などと手を組んでアジア太平洋地域を中心に双方向・多方向に情報やアイデアを流れやすくするのも、将来的には大切です。気候変動の影響で生活に被害が出ている人もいる中、現地に行って助けることまではできなくても、AP-PLATを通して「人が助かる」ことへの貢献をしていきたいです。まだ開発途中の部分もありますが、一歩ずつ、チームみんなで着実に進めていきたいと思います。

イギリスに留学された宮塚さんは紅茶が大好き。紅茶を含む茶の生産も国内外で温暖化の影響を受けており、ティーカップと適応策は繋がっていると話してくれました。SAKATAさんも山や動物が大好き。自宅の近くに設置しているソーラーシェアリング発電所にはヤギ3頭と長老の雄鶏が1羽いるそうです。おふたりとも気候変動問題を自分事として捉え、情報発信の大切さを熱心に語っていらっしゃいました。今後のAP-PLATの発展が楽しみです!
取材日:2021年12月16日

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