Staff interview #35
藤田 知弘(FUJITA Tomohiro)

気候変動適応センター 気候変動適応戦略研究室 研究員。岩手県出身。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫性博士課程修了。国立環境研究所生物領域にて博士研究員として勤務した後、2019年4月より現職。

大学時代、大学院時代はどのような研究をしていましたか?

大学時代は野生動物の研究をしたいという思いで森林科学科に入学し、大学院に進んでからは、日本とアフリカのマラウィを行き来しながら森林生態学の調査研究を行っていました。マラウィにはサバンナと熱帯雨林が混在する場所があります。熱帯雨林は人間の手により減少してますが、伐採されていない地域では熱帯雨林が拡大しているという報告があります。それがどのように生じているのかという研究を行っていました。

研究そのものも楽しかったですが「アフリカに行ってみたい」という不純な(?)動機もありましたね。子どものころはアフリカ好きの母と、「ジャングル大帝」やネイチャードキュメンタリーなどをよく観ていたので、その影響も強かったと思います。アフリカのなかでもあまり研究されていない場所がいいなと思って、マラウィを選びました。

マラウィと日本を行ったり来たりして、長いときは10か月も現地に滞在していました。ホテルなどないような農村で、村長に挨拶に行って「調査したいから泊めてください」とお願いして住まわせてもらっていました。マラウィは「The Warm Heart of Africa(アフリカの温かい心)」と言われるくらいおだやかな国民性で、みんなとても親切でやさしかったです。

博士課程を修了されて、国立環境研究所に入所されたのでしょうか?

はい。最初は環境研の生物センターに3年間、博士研究員として勤務しました。仕事のひとつは、パソコンを使って日本全国の将来の土地利用を予測するというものでした。気候変動や人口変動などの影響で、土地利用の仕方は変わります。そして土地利用が変わることで、生物の分布や、人間が享受する自然の恵みも変わります。そこで森林や水田、農地、都市部などが、今後どのように変化が生じうるのかという予測モデルを作っていました。

たとえば水田であれば、人間の関与がキーになります。ただ面白いのが、北海道はいままで気温が低くて稲作に適していませんでしたが、気候変動影響により水田が現在よりも拡大しうることが分かりました。すなわち、北海道に限っては、人口変動に加え、気候変動も大きな影響を及ぼしていました。場所によって効いてくるファクターが違うというのは、得られた結果として貴重でした。

もうひとつの仕事は、人口減少が進む農村の森林化について、福島県の会津若松地方をモデルに、生態学的な面からアプローチする研究です。全国どこでもそうですが、農業従事者は年々減って、耕作放棄地が増えています。人の手が入らなくなった農村がどのように森林になっていくのか、あるいは森林にならないで止まっている場所についてはその阻害要因はなんなのか、ということを研究していました。

そこからCCCAに移ったのですね。現在のお仕事のひとつが、地方自治体の適応に関する研究ということですが、具体的にはどのような内容ですか?

適応推進の主役ともいえる重要な立場の地方自治体がいまどんな取り組みをしているのか、また取り組みに際してどんな情報を必要としていて、どんなことを課題に挙げているのかなどを分析しています。そしてその成果をもとに、地方自治体を支援できるよう情報の整理やツールの開発などをしているところです。

全国の適応センターの担当者の方々とお話をさせてもらうことも多いです。適応推進に取り組んでいらっしゃる自治体同士のつながりがあまりないようで、他の自治体の取り組み等を整理して説明すると喜ばれますし、その後の適応計画の参考として使っていただけているようですので、もう少し使いやすくツール化できたらと思っています。まだ完成はしていないのですが、地域が適応計画を作成するときに必要な情報が、ボタンひとつで最低限出力されるようなツールを作成中です。

自治体によって地域気候適応センターの体制は違います。少人数で運営しているところもあれば、研究機関の有無などの事情もありますし、自然環境も違うため、問題もそれぞれです。自然環境的な条件にプラスアルファして現状を理解するのにまず時間がかかってしまうのはもどかしいですが、なるべく迅速に対応できるよう努力しています。

地域との関わりのなかで、面白いと思われた事例などはありますか?

たくさんあります。栃木県では県内の事業者の適応に関する取り組みを調査して、補助金について検討するなど、一生懸命サポートされていて先進的で面白いです。三重県では農業試験場や畜産試験場をまわり、適応に関する取り組みを取材してパンフレットにまとめていました。情報発信という意味では徳島県の大学生が地球温暖化防止活動推進員として、適応に取り組んでいる現場を取材してレポートをホームページで公開するなど、さまざまな活動をされています。

適応自体は新しい概念ですが、長い間個人個人が取り組んできたことが実は適応策に資するものだった、ということも結構多いんです。「あなたたちの取り組みが適応ですよ」ということをまず理解してもらい、そのうえでそれだけでは足りないところ、すなわち将来の気候変動を考慮していくという流れが、適応を広める第一歩になっているのかなと思います。

藤田さんが行っているもう一つの研究が、植物の進化に関する研究だそうですね。

特に都市域に生育する植物を対象とした研究で、2021年から調査を始めました。生き物は長い時間をかけて進化していると思われがちですが、実はかなり短いタイムスケールで急速に進化しうることがわかってきたんです。そこで、都市域の環境に生育している植物の適応進化に関する研究をしています。種子の採取や形・サイズの測定のために、現地(主に東京)調査に行きますし、取ってきた種子を使って栽培実験を進める予定です。

今後の目標について教えてください。

まずは、地方自治体が取り組む適応策の類型化や、バリエーションの背景にある要因の解析をして、こちらも論文化していきたいです。同時に、研究に基づいて自治体への支援業務にも力を入れていきます。いまは「緩和」に比べて「適応」の認知度が低いと思うので、気候変動に対しては「緩和」と「適応」の両輪で進めていくということを周知して行きたいですね。また、都市域に生息する植物の研究をしっかり論文化していくことですね。

お休みの日は、お子さんと遊ぶことがなによりの楽しみという藤田さん。ずっと続けてきた野球も環境研の野球サークルで継続中、公私共に充実しています。2021年にふたり目のお子さんが誕生して、今まで以上に、「子どもたちにより良い未来を託したい」と思う気持ちが強くなったそうです。研究が論文化され、適応策が広まっていけば、そんな未来もきっと実現しますね。藤田さん、ありがとうございました!
取材日:2022年1月13日

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