Staff interview #36
レン メイチ(LIAN Maychee)
津田 直会(TSUDA Naoe)写真左から

今回は、気候変動適応戦略研究室の准特別研究員と高度技能専門員の2名にお話をお聞きします。レンさんは生物季節未来予測に関する研究や、地理情報システムに関わる問題のサポート、津田さんはデータベース構築や解析支援、研究者に渡すデータとなる野生生物のフィールドワーク支援などを行っています。

学生時代はどのような研究をされていましたか?

津田:子どものころ、都内で大きな池のある公園の近くに住んでいたんです。毎日水に入って魚を獲っていたことから特に魚が好きで、それ以外の生き物や、自然も大好きでした。水があればそこに何がいるのか知りたいし、穴の開いた木があれば、怖いけれど何がいるのか知りたくて、とりあえず手を入れてみるような子どもでした。
その流れで大学・大学院時代の研究テーマは、沿岸域に生息する微小動物プランクトンの生態学で、二枚貝が餌として取り込むことで、それを食べた人間が食中毒を起こす貝毒プランクトンの培養を行っていました。

レン:私はマレーシアで生まれて、父の仕事の関係からほぼ台湾で育ちました。二つの国の多様な文化を経験し、世界の広さを感じたことから「もっといろいろな地域の大自然と人の文化について知りたい」という気持ちが大きくなり、大学時代の専門分野として広い範囲を学べる地理学を選択しました。
地理学には文化地理学や経済地理学など、人に関わる「人文地理学」と呼ばれる分野があります。多方面に興味があったので最初はそちらを選びましたが、勉強している間にだんだんと自然地理学に興味が移り、修士のときは土地利用の未来予測の研究を行っていました。

国立環境研究所(CCCA)に入所するまでのご経歴について教えてください。

津田:大学院修了後、学生時代のアルバイト先だった生物調査会社に就職し、魚介類を中心にフィールドワークを行っていました。大規模工事を行うときは、それに伴う環境影響調査が義務付けられているのですが、いくつか項目があるなかのひとつに、動物・植物・生態系の項目があり、私は主に希少な動植物や生態系への影響を調査していました。
主な対象は、環境省や都道府県のレッドデータブック(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)に掲載されている種です。工事の影響が及ぶ範囲の生物を調べ、絶滅危惧種がいるようであれば、工事をすることで生息を脅かしてしまうことにならないか、あるいは繁殖の妨げにならないか、裏付けをとって報告する仕事です。
その後は建設コンサルタント会社に転職し、前職で行っていたような生物調査の結果を集約してデータベース化して、多変量解析などを行い、将来予測をする仕事をしていました。外来種の侵入は今後どうなるか、どう広がっていくか。あるいは希少種がどう減っていくかなど、さまざまな変数を集めてきて、いろいろなツールを試しながらヒットするモデルを作っていました。

レン:大学と修士時代は台湾で過ごし、2014年に来日して筑波大学博士課程に入学。修士まで主に地理情報システム(GIS)を使ってさまざまな研究をしてきましたが、博士課程でも同じくGISを使い、同じ地理学の範疇で、今度は災害のリスク評価の研究を行っていました。
博士課程は満期退学し、長野県環境保全研究所(2019年より:信州気候変動適応センター)に就職。そこで、気候変動に興味を持ったという流れです。長野では、気候変動影響についていろいろな話を聞きました。たとえば、降雪の少ない年は夏の水量に大きく影響します。水量が少ないと農地に入る水も当然少なく、農作物もうまく育ちません。私が長野に就職した年が、ちょうど水量が少ない年でした。気候変動は自分の生活に直接関わってくるものであると、ここで初めて実感したのです。

CCCAに入所したきっかけと、現在のお仕事、やりがいなどについて教えてください。

津田:徐々に普及してきた地理情報システムを使って、データ表示したり、計算を進めたりしているうちにスキルを身につけることができ、地理情報システムを扱える人材を募集しているということでCCCAに採用していただきました。地理情報システムだけでなくプログラミングや、これまで行ってきたフィールドワークも現在の仕事に生きています。
現在の仕事のひとつであるフィールドワークは、魚ではなく主に植物調査です。トラップを設置して植物の種子を集めたり、都市の植物を歩いて採集したりしています。人間が自然に働きかけて維持されてきた生物多様性が、これからどう変化していくのか。そこにひとつのファクターとして温暖化も関わってくることが予想されており、A-PLATで公開しているデータを計算するときにこのフィールドワークの知見が加味されていきます。
地味な活動ですが、私の働きが、より精度の高いモデル計算の実現につながっていくかと思うと、大きなやりがいを感じますね。

レン:前職で気候変動に興味を持ち、CCCAに転職しました。現在の仕事のひとつは、生物季節未来予測に関する研究のサポート。過去のデータの整理や生物季節未来予測に関する文献、資料などの整理をしています。
もうひとつは、地理情報システムに関わる問題のサポートです。地理情報システムのソフトウェアを使うときに(例えば:地図の作成、データ格式の変換など)起きる問題についてサポートしています。
地域適応センターの皆さんがどのようなことに問題意識をもっていて、どのようなデータが欲しいのか。それを聞いて私が働きかけることで前進すると、うれしいですね。みなさんの助けになれるところにやりがいを感じています。

レンさん、CCCAでの仕事を通じて感じたことなどありましたら教えてください。

レン:私が来日したとき、気候変動というテーマはあまり日常的に会話として使われていませんでした。最近は多くの人々が関心を持って一緒に考える流れになっていて、それが一番の変化だと思います。
私が育った台湾も、近年気候変動に注目しています。また、私が生まれたマレーシアも気候変動影響から短時間の大雨による水害等が増えていて、ニュースとして注目されるようになってきたと感じます。
今後はもっとたくさんの人々が、環境問題や気候変動に関心を持つようになるでしょう。企業や個人が、さまざまな方法で気候変動に貢献できる活動を起こしていくことになると思います。私も自分の知識や技術を活かして、それらの活動に貢献していきたいです。

津田さん、フィールドワークを通じて、自然と人間の調和について考えることもあると思います。未来に向けてどんなお手伝いができると思いますか。

津田:津田:過去には人間と自然が対立してきたような側面もありましたが、やっぱり人間は、自然から完全に分離してしまうと本当に息苦しいと思います。たとえば、虫の嫌いな人は、家のなかにハチが入ってきたらパニックを起こしてしまいます。ハチが減るようにと、生息する街中の街路樹を伐採したり、殺虫剤を散布したりすることで、それまではハチが捕食していた毛虫が大量発生し、さらに植え込みを伐採せざるを得なくなったりするわけです。居心地が悪い面もあるかもしれないですが、多様な生きものがいろいろな働きをしてくれるおかげで緑豊かな樹木が保たれ、鳥が飛んでくるような公園ができるわけです。そういった場所が身近にあることで私たちは精神的に癒やされる部分があります。ちょっとの不便と大きなメリット、という点を理解してもらえると、自然と人間が調和して生きていけるのではないかと思います。
人口減少問題と絡んで、これは今後の課題ですね。今後もフィールドワークを通じて、いまと同様、若い研究者のサポートができたらと思っています。

仕事だけでなく、プライベートでも自然のなかで過ごすのが好きな津田さん。釣竿やルアー、フライまで自作し、カヤックに乗って海釣りをするのが最近の趣味だそうです。
レンさんが来日したきっかけは、日本のアニメが好きだったから。日本文化の影響が濃い台湾で、日本語を日々耳にしながら育ちました。休日は、推理小説を読んでリフレッシュしているそうです。
これからも、気候変動適応に向けたサポートをどうぞよろしくお願いします!
取材日:2022年1月27日

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