Staff interview #37
濱 順子(HAMA Junko)

気候変動適応センター 気候変動適応推進室 高度技能専門員。筑波大学第二学群生物学類卒業後、名古屋大学大学院博士課程大気水圏科学専攻で博士号(理学)を取得。その後は大学研究室で研究・教育支援や、国立科学博物館筑波実験植物園で技術補佐員として企画展を担当するなど、さまざまな経歴を経て2020年に気候変動適応センターへ。現在は気候変動すごろくの制作や、専門家会合の取りまとめなどを行う。

大学時代は生物学、大学院で大気水圏科学を専攻されたそうですが、どのようなことを研究されていましたか?

動植物が好きで生態系に興味があったので、大学時代は生態系について勉強できる環境生物学を専攻しました。なかでも私が専門としていたのは、生態系の中で生き物同士がどのように関わりながら生きているかを調べていく分野です。その流れで、大学院でも地球全体で生物を通した物質のやり取りをテーマとした研究をしていました。
正式名称は大気水圏科学ですが、有機物を扱う地球科学とイコールで、有機地球化学ともいわれます。私が所属していた研究室では、地球上の有機物の中に入った炭素の循環を中心的な課題としていました。

私の専門は、植物プランクトンによる有機物生産です。植物プランクトンは光合成で増えますが、見方を変えれば水の中で有機物を生産して水中の生態系に供給しているともいえます。陸上の植物と同じ役割を果たしています。植物プランクトンが特に増えるのは、栄養たっぷりの生活排水などが流れ込んでくる、陸に近い内湾です。そこでサンプルをとったり、水質や有機物の分析などを行ったりしていました。

国環研に入るまでの経歴についてお伺いしたいのですが、大学院で博士課程終了後は何をされていましたか?

実験データは溜まっているけど論文があまり書けていない、という状態でしたので、結婚・出産を挟み、子育てをしながら論文を書くという生活がしばらく続きました。
それが終わったあとは大学で非常勤講師をしたり、研究室で技術補佐員をしたり、分析の仕事や研究プロジェクトの手伝いをしたりといろいろな仕事を行いました。教育の面でも役割があり、大学院で学生が卒論や論文を書くときのサポートをしたり、分析機械の使い方を教えたり、マニュアル作りを手伝ったりしていましたね。自分が持っている知識・技術を生かすことができたいい仕事だったと思います。

国立科学博物館筑波実験植物園でも企画展を担当されていたことがあるそうですね。

そうなんです。筑波実験植物園内の登録学習展示室で、定期的に行われる企画展の担当をしていたことがあります。研究員と企画について話し合い、会場の検討や、展示台のレイアウト、ポスター作りまで一通り行いました。

小さな博物館では学芸員がパネルや展示などを手作りして企画展をやっているところもあるのですが、そんな裏方の仕事を経験できましたね。もともと学芸員への憧れがあり、資格も取得していたほどですので、とても楽しかったです。

大学と違って来場者と対面し、展示に対する反応を見たり、感想を聞いたりできるのも醍醐味です。生き物が大好きな人と語り合えるのも楽しくて、その流れで「自分ができることで、何かお役に立てることはないだろうか」と思い始めました。
そんなときにたまたま気候変動適応推進室で募集があり、自分のこれまでの仕事をすべて活かせるように感じ、応募し、採用していただきました。

現在の業務について教えてください。

研究機関等連携チームでは、国立のさまざまな研究所や大学、自治体、企業、NPO、メディアなどに所属されている専門家の連携を支援しながら気候変動や適応に関するご意見を伺ったり、資料を提供していただいたりしています。その他、会合のセッティングなども担当しています。

また個人の適応チームでは、センター長のアイディアで気候変動適応すごろくの制作を行っています。スタートを現在、ゴールを数十年後の未来の街に設定し、止まったマスで適応にとってよいことをやれば「適応ポイント」が貯まるという仕掛けになっています。

また、大気中の二酸化炭素を減らすような行動につながるイベントが起こると「緩和ポイント」も貯まります。逆に二酸化炭素を増やしてしまうような行動に関してはマイナスポイントになりますが、未来の街のために適応につながる投資ができるイベントもあります。最後には、よりよく適応した人が勝つ仕組みです。

いまは試作段階で、バージョン6まで完成しました。センター内で意見をもらいながら修正を重ねているのですが、最初は「話題作りになれば」と始めたことも、やっているうちに「もっと面白くしたい」とさまざまな意見が出て、どんどん本格的なゲームになってきました。そのうちウェブ公開をして、みなさんにダウンロードして遊んでいただけるようになればいいなと思っています。

今後は気候変動適応に関するポスター作製や学習ビデオの制作にも関わっていく予定です。

現在、国環研に入って3年目だそうですが、その前から適応の概念はご存じでしたか?

いえ、私は炭素循環の研究室にいて、当時は二酸化炭素が関係する「緩和」についてはなんとかしなければならないと思っていたものの、「適応」についてはよく知りませんでした。国環研で適応という言葉に触れたとき、ついにそこまでやらなければならない段階にきているのか、と驚いたのを覚えています。

そこから適応について勉強を始めましたが、初めて適応の概念を知って驚いたときの衝撃はいつまでも忘れないようしたいと思っています。専門機関にいると、専門用語を当然のように使いますが、緩和も適応も一般の人にはまだ浸透していない言葉です。「緩和ってなに?」「適応ってなに?」という感覚を、これからも持ち続けていたいですね。

気候変動が進むと、たとえばいままでとても寒かった地域が暖かくなるなど、プラスの恩恵を受けるケースもあるわけです。しかし地球全体で見たら危ないことに変わりはなく、そこはやはり「緩和あっての適応」に他なりません。そのことをみなさんにも広く知ってもらいたいと思います。

お仕事のやりがいはどのようなところにありますか。

「つなげる」ことが推進室の一番の役割ですので、そこで役立てることがうれしいです。研究者同士をつなげることもありますし、研究成果を社会に発信して多くの人が利用できる形にすることも「つなげる」ですよね。そこで、いままで自分がやってきたことが役に立ったと実感できる瞬間がうれしいです。

専門家会合の報告書が、すごろくの原案に生きることもあるんです。例えば水環境の分野では水の中で増えたアオコが水道水に影響するといったところから、健康分野ではどんな病気が流行りそうか、どんな動物が問題になってくるかなどもすごろくに反映されています。これは作りながら大変勉強になりましたし、この場をお借りして、専門家のみなさんにもお礼を申し上げたいです。

今後の目標を教えてください。

いろいろな人と接点を持っていきたいですね。研究者に限らず、地域の気候変動対策に携わる人、あるいはもっと年齢の若い学生さんや子どもたちともつながりたいと思っています。

気候変動についてどこか他人事だったり、自分の力ではどうにもならないと思って無関心になったりしている若い人が多いことは、自分の子どもを見ていても感じるところです。一方で、意欲的に気候変動に注目している若い人もいます。
みんなに、もっと未来への希望を持ってもらいたい。「自分の身近なところからやれることはいっぱいあるし、世の中は変えられるんだ」と前向きに思ってもらえるような情報を、こちらから発信していきたいです。すごろくというツールがそれを叶えるきっかけになったら、本当にうれしいですね。

昔から生き物や植物が好きだった濱さん。特に好きなのが鳥です。ひなから育っていく過程を見るのも楽しい、と話してくれました。いま飼っているのはインコ。1羽1羽それぞれに個性があり、いま家にいる子は運動能力がとても高いのだそうです。また絵を描くことも好きで、適応すごろくの絵も担当しています。「少しゆるいテイストの絵」とは、ご本人談。一般公開されるのが今から楽しみです。濱さん、ありがとうございました!
取材日:2022年4月21日

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