Staff interview #44
根本 緑(NEMOTO Midori)

気候変動適応センター 気候変動適応専門員。2018年4月入所。CCCA設立時の現役メンバーとして国内の適応推進に従事。地方公共団体の計画策定及び地域気候変動適応センターの支援業務を3年担当し、2022年から広報戦略チームに所属。適応の認知向上のため、地域の取り組み事例インタビューから、SNSやメーリングリストを活用した情報発信、Yearbookなどの冊子制作を担う。茨城県日立市生まれ。

2018年の春に入所を決めたきっかけは何でしょうか?最初はどのようなお仕事をしていましたか?

入所前、都内の仕事を辞めて茨城にUターンするタイミングで、フリーランスとして開業する準備を進めていたんです。前職では、外資系企業や大使館のプロモーション対応から、日本全国の農産物を扱うマルシェ運営、その専門誌や書籍の制作まで、幅広い業務に関わらせてもらいました。これらの経験を活かし、茨城での新たな働き方を模索するなかで、県内のハローワークで紹介を受けたお仕事が、国立環境研究所の『適応』のポジションでした。研究所は自宅から比較的近く、契約職員の場合は就業時間以外に副業も可能で、育児や家事も両立しながら働ける環境に惹かれ、応募を決めました。はじめはアシスタントスタッフとして雇っていただき、気候変動適応情報プラットフォーム(以下、A-PLAT)の地方公共団体向け専用ページの構築を担当しました。同年12月には気候変動適応法が施行し、気候変動適応センター(以下、CCCA)が国立環境研究所に位置付けられ、当時の勢いを肌で感じることができたのは、とてもラッキーな経験でしたね。

ただ、一年目は右も左もわからない状況で、とにかく報告書や関連資料を読み漁る日々... 誰かの役に立っているという実感もなく、自信も持てませんでした。転機となったのは、入所して4ヶ月が過ぎた頃、前職で農業や食関連の取材執筆を担当した経験があることから、適応の先進県といわれる埼玉県の取り組みをインタビューし、A-PLATにその記事を掲載する機会があり、何気なく上司の肱岡さん(現センター長)に話してみると、それなら書いてみたら?と進めてくださったんです。試験的に書いてみたら悪くないという評価をいただき、以来、インタビューを任せていただくようになりました。その頃から、高度技能専門員として再雇用していただき、同年度には長野県長崎県を含め6件の記事を掲載しました。

※同年に担当した記事
・埼玉県:科学的知見を県の施策へ!実装を支える研究機関と行政の連携体制に迫る
・長野県:適応策パッケージを具現化!環境エネルギー政策と地球温暖化対策を統合的に推進する
・長崎県:各部局の実行計画にある施策を、適応の視点で抽出し横串をさす試行錯誤を重ねた計画策定までの4年間
 ★その他、適応策や適応計画、地域センターの取り組み事例インタビュー記事はこちら

A-PLATコンテンツの制作以外に、どのようなお仕事を担当していますか?

入所して3年間は、主に地方公共団体を対象に支援業務を担う自治体班に所属し、法施行に伴い設置が努力義務となった全国の地域気候変動適応センター(以下、LCCAC)を訪問して、担当者との意見交換を通して現場ニーズを洗い出し、個々の課題に対する支援策の検討、作成、提供するところまで取り組みました。当時、外部のコンサルタント会社にもサポートいただきながら、科学的知見を活かした情報提供から、資料作成、小学生向けに夏休みの自由研究ネタを考えるなど、手がけた支援策の数は50件以上にもなります。何でも屋といったら語弊があるかもしれませんが、当時は誰も取り組んだことのない日本の適応業務に携われることがうれしくて、我々ができることは何でもしたいという想いでしたね。

それから、2022年に適応の認知向上や発信強化のために広報戦略チームが立ち上がるタイミングで、自治体班から広報戦略班に異動しました。同年8月には石川県LCCACと協働で環境フェアに出展するためのコンテンツを検討すべく、外部の専門家に声を掛けて「ミライ地球ガチャ」という展示ツールを開発しました。今では各地で活用いただけるコンテンツとして貸し出しをおこなっています。そのほか、定常業務としてSNS運営メールマガジン配信、所内広報室の窓口対応など、広報戦略チームの業務は多岐にわたります。2020年度からは毎年の動向や活動を記録する冊子Yearbookの制作にも取り組んでいます。

歴代のYB表紙デザイン。2024年版もお楽しみに!

大変だと感じることはありますか?

気候変動適応という概念や言葉自体の認知度がまだ低く、まずそれを知っていただく“きっかけ”をどのように作っていくのか、常に悩みつつ試行錯誤しています。気候変動による影響は私たちの暮らしの身近なところで既に生じており、一人ひとりが向き合うべき課題です。日々の生活で『適応』を我事化することができれば、想定される影響のリスクを少しでも低減できることを、ポジティブに発信していきたいです。

また、個人的なことですが、地方出張や外勤の際、家庭内のスケジュール調整は至難の業です(笑)。取り組み事例インタビューは、実際に現場に出向いて関係者の話を伺い、その取り組みの背景にある人々の想いや工夫されていることを『適応』という切り口で編集していく作業なのですが、取材先の調査では日々更新されるさまざまな適応情報、セミナーや講演資料に目を通し、気になる情報をマーカーしていく工程には時間を要します。また、先方にアポイントを取り、ライターやカメラマンのスケジュールを確認し、当日の香盤表や質問票を準備するなど、取材日を迎えるまでに多くの作業が発生します。そのため、こうした過程を経て無事にA-PLATに記事や動画が公開される時には、家族や友人にも共有して自慢したくなるほど(笑)、うれしい気持ちになるんです。

A-PLATインタビュー取材班と気象予報士・キャスター井田寛子さん

先方との調整において、こちらの意図がうまく伝わらずに断られてしまうことや反省点もありますが、すべてが成果として実らなかったとしても、このようなコミュニケーションを通して『適応』やA-PLATを知っていただく機会にはなります。時に悩むこともありますが、無駄なことはひとつもないと信じて、これからも地道に継続していきたいです。

このお仕事のやりがいはなんでしょうか?

『適応』を広く認知していただく仕事に終わりはないのですが、それが逆にやりがいにもつながっています。取材のため各地を訪問させていただくなかで、「なんとか気候変動による影響を軽減させよう」「地域の産業や特産品を守り、次世代に繋げよう」という強い意志を持って現場で真摯に取り組んでいらっしゃる方々の姿を目の当たりにすると、影響の現状やそれに立ち向かう人々の努力をしっかりとA-PLATから発信しなければ、という気持ちになります。コロナ禍で対面取材が制限される時期もありましたが、一番大変なときに助けてくれたのは、自治体班の頃にお世話になっていたLCCACのみなさんでした。地域の試験研究機関の取り組みについて詳細を教えてくださったり、他部局と繋いでくださったりすることもありました。

適応の仕事の魅力は、幅広い分野の専門家や地域の担当者と繋がり、所属やエリアを問わず有益な情報を共有し合える、そのような基盤をA-PLATが担っていることだと感じています。これまでの業務を通して培った全国のネットワークを活かして、これからもみなさんが『適応』していくために参考にしていただける情報をA-PLATに蓄積し、発信していきたいです。

今後の目標はなんですか?

気候変動だけでなく、いろいろな社会問題が浮き彫りになっている現代社会において、それらの課題と組み合わせながら『適応』も推進していけたらいいなと思っています。大学在学中に留学したアメリカ・ニューヨークでは、現地の環境団体にインターンシップとして参加したのですが、毎週末に都市部で地元農家の農産物を販売するマーケット運営の支援や、地域住民に対して環境教育プログラムを提供するサポートを行っていました。ワークショップを実施するエリアや対象に応じて配慮された言語やツールを用いながら、住民自らが環境問題を考え、気軽に意見交換をしたり、最新の知見に触れる機会が身近にあることは、とても豊かなことだと感じました。こうした活動を通して、同じ志を持つ同世代の友人ができたり、アメリカの地域性や歴史文化を学んだ経験は、現在の適応推進の業務にも大きく影響していると感じています。

私たちは日々、A-PLATというオンラインベースの情報基盤を整備していますが、同時にオフラインでも多様な人材が繋がり、気候変動適応に関する唯一無二のプラットフォームの構築を目指したいですし、いずれは地方でセミナーやイベントなどを主催したり、LCCACともさらに連携できる機会を増やしていきたいです。今後もCCCAの一員であるという責任を持ち、仲間たちと協力しながら適応推進に尽力していきたと思います。

地元茨城の名産グラジオラスの品種改良について取材した際の試験場の様子

大学では食物科学を専攻し、コロナ禍は料理家が主催するオンラインレッスンに参加するなど、食べること作ることも好きだという根本さん。地元茨城の生産者とも繋がり、旬の食材に触れることが楽しみのひとつだそうです。地域のおいしい特産品が守られるように、これからも適応の普及に力を入れてください!根本さん、ありがとうございました。
取材日:2023年6月26日

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