例えば、水ストレスリスクが高い拠点を特定し、そこから、どこに優先的にアクションを実施するかを決定できます。その際に最も利用されている指標は、利用可能な水資源量に対する取水量の割合を評価した Baseline Water Stress 指標です。この指標は5段階で評価され、値が40%以上の場合に最も深刻なリスクに該当すると定義しています。
Baseline Water Stressは、水の競争や断絶の可能性を示すもので、例えば「1年以内にどれくらいの頻度で水不足が発生するか」などを定量化しているものではないことに留意が必要です。また、グローバルモデルの空間解像度は粗いため、各拠点レベルで見るとデータが当該拠点の水ストレスの実態を正確に反映していない場合もあります。そこまで知りたい場合には現地データを取得するなどして詳細な分析をする必要があります。
Water Security Compassは、無料でグローバルな水ストレス情報を提供するツールです。 Water Security Compassの特徴は大きく二つあります。一点目は今までの水ストレス評価ツールにはなかった指標がいくつも含まれている点、二点目は世界版のほかに日本版を作成している点です。
一点目に関して、Water Security CompassではBaseline Water Stressのような取水量と水資源量の比率だけではなく、「持続可能な水資源 から、必要な時に必要な量の水が取れるか」という観点を取り入れた指標を作成・公開しています。一言に水資源の逼迫といっても、大規模な灌漑が行われている乾燥地において持続的に水を得るのが難しいというケースと、明瞭な雨季と乾季のあるアジアにおいて乾季に水を得るのが難しいというケースでは状況が異なります。後者については、雨季の水を乾季にまで貯めておける大きなダムがあるかで、影響は変わってきます。
このような水需給の季節性やインフラの効果も考慮して、取りたいときに取りたい量の水が取れるかを示すのがCumulative Deficit to Demand(CDTD)指標の特徴になります。また、Sectoral and Statistical Demand to Availability(SS-DTA)という指標では、生活用水、工業用水、農業用水などの用途のうちどこまで水不足が及ぶのかを評価することができます。
企業目線では自社の水ストレスを評価する際に Water Security Compass をどのように活用できますか?
花崎:
企業のTCFD開示等で多く使用されている Baseline Water Stress 指標は、水資源量に対する取水量の比、つまり、水資源の余裕を表すリスク指標になります。例えば、日本をこの指標で見ると比較的高い値が出やすく、日本は水ストレスが高い、すなわち操業リスクが高いと見られることがあります。しかし、我々が実際に水不足を経験することはそれほど多くなく、指標と現実のギャップを感じることがあります。