気候変動の物理的リスクの全体像③
~海外先進事例をもとに物理的リスク評価手法や適応策を解説~
これまでの記事「気候変動の物理的リスクの全体像② ~暑熱・原材料調達・水ストレスの3分野の事例をもとに解説~」では、国内の先進事例をもとに企業の分析ニーズが高い3つの分野(水ストレス、原材料調達、暑熱)の具体的な評価手法を解説しました。
海外先進企業ではどのような分析が行われているでしょうか。また、分析を踏まえてどのような気候変動適応策が実施されているでしょうか。
ここでは、TSMC社の開示事例をもとに原材料調達分野の物理的リスク評価手法や適応策について解説します。
原材料調達への影響に関する評価例
気候変動は、製品等の製造に不可欠な原材料の生産や調達にも大きな影響を与える可能性があります。例えば、夏季の高温による品質低下や収量の減少、大雨や暴風による被害、気象災害等によるサプライチェーンの断絶などによって、調達コストが増加する可能性があります。
本記事では後者のリスク(気象災害等によるサプライチェーンの断絶)について、各サプライヤーの影響を評価し、適応策を実施している事例についてケーススタディを行います。
TSMC社
TSMC(台湾積体電路製造株式会社、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は、世界最大の半導体受託生産企業です。本社は台湾にあり、1987年に設立されました。日本からの化学品やシリコンウェハ、機材の供給をはじめ、世界の主要サプライヤーから供給を受けて、スマートフォンやパソコン、自動車などに使われる最先端の半導体チップを製造しています。
同社では、リスクマップや地理情報システム(GIS)を利用し、各サプライヤー拠点の物理的リスク評価を行い、評価結果に応じて、対応能力の向上に必要な支援を提供しています。
分析と適応策の内容は以下になります。
- <分析>
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- IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書で示された「SSP1-2.6(低排出シナリオ)」及び「SSP5-8.5(非常に高排出なシナリオ)」にもとづいて、海外拠点製造拠点及び主要サプライヤーのもつ短期・中期・長期の潜在的リスクについて、シナリオ分析を実施
- シナリオ分析の中で、物理的リスクについては、洪水、干ばつ、極端な高温、台風による風害、豪雨による土砂崩れ・土石流、海面上昇などについて評価
- 洪水リスク評価の過程では、国家災害防止科学技術センター(NCDR)が発行したRCP8.5シナリオに基づく台湾の洪水災害脅威・脆弱性図を活用し、重要なサプライヤー拠点における洪水リスクレベルを評価
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また、TSMCの各拠点における重要なサプライヤーが策定している事業継続計画を詳細に確認し、その場所の標高、排水能力、水・電力・重要システムのバックアップ及び復旧計画、在庫日数、洪水警報メカニズム、緊急対応の準備状況について精査
TSMC社の洪水リスク評価
(出典:TSMC「TSMC 2020 TCFD Report」及び国家災害防止科学技術センター「リスクチャート」より作成)
- <適応策>
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- 「Climate Risk Adaptative Standards(気候リスク適応基準)」を策定し、電力不足、洪水、水不足、強風、規制、顧客要求、その他ステークホルダーの期待に対する適応策を明確化
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策定した適応基準は新設工場の設計に適用されるなど、TSMCの自社工場及び主要サプライヤーを対象に適用
TSMC社の気候リスク適応基準
(出典:TSMC「TSMC 2024 Climate and Nature Report」より作成。環境省仮訳) - 洪水リスクについては、サプライヤーの対応能力が不十分であると判断された場合に、削減目標の策定支援やトレーニングプログラムの提供等、サプライヤーに必要な支援を提供し、改善の進捗状況を継続的に追跡することで、サプライヤーの事業中断リスクを軽減する取組を実施
- このようなプロセスを通じて、TSMCはサプライチェーンの安定性を確保し、自然災害による原材料調達リスクを最小化することを目指している
今回の記事では、海外の先進的な分析・開示事例を紹介しました。
本記事ではこれからも最新の開示事例を取り扱っていきます。国内外の様々な企業の分析手法や適応策を見て、自社の取組の一助としてみてください。
