「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

高分子フィルム農法による不毛地帯での食糧生産

メビオール株式会社

業種:製造業
掲載日 2019年4月26日
適応分野 農業・林業・水産業

会社概要

メビオール株式会社ロゴ

1995年に農業分野でのハイドロゲル素材活用を目的に創業した研究開発型ベンチャー。国内ではアイメック®による収益性が高い高品質トマト生産事業が本格化、普及面積は25エーカーとなっている。海外では、中東、中国、アフリカ、欧州などへの展開を開始。2016年に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)主催「大学発ベンチャー表彰~Award for Academic Startups~」にて「特別賞」を、2018年には一般社団法人科学技術と経済の会より「科学技術と経済の会会長賞」を受賞した。

気候変動による影響

気候変動の影響により、地域によっては干ばつや水不足が深刻化し、土壌が劣化する恐れがある。従来通りの栽培が難しくなったり、作物の品質が低下したりすることで、食糧供給基盤が脅かされる。

適応に関する取り組み

高分子フィルム農法では、メビオールが開発した「アイメック®」のフィルムを土壌の代わりに使用することで、土壌や水を使わずに作物を栽培する。アイメック®-とは、医療用に開発した膜およびハイドロゲル技術を農業に応用したものであり、高分子フィルム上で果栽類・葉物など様々な農作物の栽培が可能である(図1)。加えて、この農法には次のような利点がある。

土の要らない農法であり、従来の土耕栽培の問題点を解消する。土耕栽培では、土壌作り・水やりに技術が必要であったり、また砂漠化した土地や土壌汚染地は栽培に使用できなかったりする。しかし、アイメック®を使用した高分子フィルム農法では、農業未経験者でも不毛の土地でも高品質野菜の生産が可能である。

アイメック®では、従来の水耕栽培の問題点も解消する。水耕栽培では、溶液の循環、酸素付加、殺菌などのためにコストが高かったたり、水分過多によって品質低下等の問題が生じたりする。しかし、アイメック®では、フィルムは水をたっぷりと含みながら表面は乾燥した状態を保ち、給水を制御できるため野菜類の栄養価(糖度など)が高くなる。止水シートにより供給された水と肥料が外部に漏れないために従来の農法に比べて水と肥料の使用量を大幅に削減できる。また、フィルムのナノサイズの孔を通して作物の根が水と養分のみを通すため、作物の病原菌・ウィルス感染による病気が予防され水のロスも抑制できる(図2)。そのため、アイメック®の栽培では、従来の水耕栽培より、システムコストが大幅に削減でき、節水効果が高いと同時に作物の高品質化を可能とする。

効果/期待される効果等

アイメック®のフィルム農法によって、土壌の状態にかかわらず少ない水資源で高栄養価の農産物の生産が可能となるため、干ばつや水不足の影響を受けづらくなり、食糧生産・供給基盤における気候変動への脆弱性の軽減が期待される。また、場所や人材を選ばないため、地域に雇用を生み出し、地域経済に貢献することが期待される。

「誰でもどこでも農業」を実現するアイメック®は、国内では大震災で大きな被害を受けた農地や、海外ではUAEの砂漠や土壌汚染の危惧を抱える上海近郊でトマトを生産した実績がある。このように、それぞれのニーズにこたえる形で採用が進んでいる。砂漠の多い中東で水資源が節約できることで評価され、中国では土壌・水質汚染への不安から採用が進んでいる。

図1 植物の根が張り付いるアイメック®フィルムの様子
図1 アイメック®フィルムの表面に植物の根が張り付いている様子
図2 アイメック®フィルムの特性を説明した図
図2 アイメック®フィルムの特性