高水温化に対応した貝殻魚礁によるキジハタ資源保護

海洋建設株式会社

業種:建設業
掲載日 2021年1月19日
適応分野 農林水産業

会社概要

海洋建設株式会社ロゴ

海洋建設株式会社は、人工魚礁の開発・製造・販売を主体に、関連する漁場調査、水域環境調査等に携わる企業である。

人工魚礁とは、魚介類を効率良く集めたり、保護して増やしたりすることを目的に、主として海底に設置する人工構造物である(魚が生息するためのマンションのようなもの)。当社の主要製品である「JFシェルナース」は、国内で年間約 38 万トン発生するといわれているカキやホタテ等の貝殻を活用し、 人工魚礁として海へ戻し、生物多様性の向上、水産生物の増産に貢献するものである。

従業員は25名で、内6名が水産分野の技術士であり、ほぼ全員が潜水士の資格を所有している人工魚礁、漁場調査のスペシャリスト集団である。

気候変動による影響

温暖化にともなう海水温上昇が予測されており、既にサンマの漁場が日本近海から離れ、記録的な不漁に見舞われるなどの影響が現れている。沿岸域においても藻場の減少やそれに伴うアワビ類の減少、低水温を好む魚類資源の減少などが懸念されている。その一方で、ハタ類などの暖水を好む魚類は分布を広げている。

このように気候変動による海域における生態系の変化は避けがたいものであり、海面漁業における分野においては、資源状況の把握とともに、変化に対応した資源保護、管理などの取り組みが必須となっている。

適応に関する取り組み

キジハタは元来西日本で主に漁獲されており、関西では「アコウ」という呼び名で通っている高級魚である(図1)。かつては幻の魚とも呼ばれていたが、近年は海水温の上昇、種苗放流などの取り組みによりスーパーの魚売り場などで見ることも珍しくなくなった。

当社では、近年日本海や瀬戸内海で分布の広がりが見られ、高値で取引されているキジハタに着目し、貝殻魚礁の開発で培った技術がその資源保護に大いに役立つのではないかと考えた。

このキジハタの放流種苗や天然の稚魚を保護することで、より効率良く資源を増やし、保護することができる。そこで、当社ではキジハタの稚魚を保護するために開発した人工魚礁製品(保護育成礁)を開発し、漁業者団体であるJFグループとともにその普及に取り組んでいる(図2)。保護育成礁は、保護するキジハタのサイズに合わせて、ホタテガイ殻を並べた隠れ場用のパイプ、餌となる小さなエビ・カニ類などを効率良く増やすことができるカキ殻パイプを使用しており、内部のすき間を狭くして、稚魚を食べてしまうような大型の魚などが入りにくいようにした構造となっている。

本技術は、岡山県で開発した技術に改良を加えたものであり、愛媛県、山口県、広島県等で導入が進んでいる。近年キジハタの分布が広がっている日本海側においても富山県で試験採用されるなど、本技術の活用が広がっている。

効果/期待される効果等

これまでに保護育成礁の導入が進んでいる愛媛県や山口県、広島県等では、導入後の潜水調査を行っており、放流されたキジハタ種苗や天然稚魚などが隠れ場として利用している状況が多々確認されている(図3)。

愛媛県では幼稚魚保護育成礁による漁場整備や種苗放流が20年ほど継続されており、それに伴い市場におけるキジハタの取扱量が増えるなど目に見えた効果が現れている(図4)。

このように、海水温上昇により今後分布が広がることが想定される種を対象に、それぞれの生態的特性に合致するような漁場整備の取り組みを進めることで、持続的な水産資源の利用が可能となることが期待される。

キジハタの写真

図1 キジハタ

幼稚魚保護育成礁の設置と種苗放流の様子の写真

図2 左:幼稚魚保護育成礁の設置、右:種苗放流の様子(山口県)

放流直後の稚魚の写真

図3 放流直後の様子

グラフ

図4 愛媛県内産キジハタ取扱量と貝殻増殖礁のキジハタ(全長25cm以上)の出現個体数の推移
(出典 加村聡ほか:愛媛県東中予海域に造成された増殖場とキジハタ資源の関係についての検証,土木学会論文集B3,Vol.75,No.2,pp.Ⅰ_534-Ⅰ_538,2019)

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