脚注
(注1)Eco-DRRとは、Ecosystem-based disaster risk reductionの略。
(注2)K-Cowork緑化®とは、様々なステークホルダーをつなぐ持続可能な緑化である。複数の事業者や組織が協働して取り組むこと、そこで収穫できたものを使って付加価値の高い商品を製造・販売することによって維持管理にかかるコストの低減を可能とする。また、複数の事業者や組織の関わりの中で創り出された商品を販売することで、購入者を含む幅広い層が緑化活動に関わることができ、地域の様々なステークホルダーをつなぐ効果も期待される。
(注3)「谷戸(やと)」とは、丘陵大地の雨水や湧水等の浸食による開析谷を指し、三方(両側、後背)に丘陵台地部、樹林地を抱え、湿地、湧水、水路、水田等の農耕地、ため池などを構成要素に形成される地形をいう。
(出典:神奈川県横浜市ウェブページ:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/kankyohozen/hozentorikumi/tayosei/yato.html)
グリーンインフラの促進
鹿島建設株式会社
掲載日 | 2022年6月9日 |
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適応分野 | 国民生活・都市生活 / 自然災害・沿岸域 |
会社概要
鹿島は1840年の創業以来、鉄道やダムをはじめとする社会資本の整備や、オフィス、商業施設、住宅など人々の生活や活動の場を創造し、建設事業を通じて安全・安心で快適な社会の構築に貢献し続けている。180年の歴史のなかで培ってきた高度な施工技術力をはじめ、建設バリューチェーンの上流にあたる企画・開発力、設計・エンジニアリング力、そして下流にあたる維持・管理力を駆使し、国内外の社会や顧客に対し、最高水準の都市空間、建設空間、インフラ構造物を提供している。
気候変動による影響
グリーンインフラは「自然環境が有する多様な機能を積極的に活用して、地域の魅力・居住環境の向上や防災・減災等の多様な効果を得ようとするもの」とされており、日本では2015年に閣議決定された国土形成計画でその推進が盛り込まれている。これより先「生物多様性国家戦略2012-2020」や「国土強靭化基本法」においては、自然生態系を活用した防災・減災の考え方(Eco-DRR(注1))が示されている。人口減少・少子高齢化が急速に進展する中、社会・環境・経済における複合的課題を解決するアプローチが求められており、グリーンインフラはその多機能性から、様々な課題への包括的な解決策を提供する手法として期待されている。
適応に関する取り組み
当社は、グリーンインフラを活用したまちづくりを、現地調査から運用までワンストップで総合的にコーディネートし、高い技術力とネットワークを提供している(図1)。
例として、都市部のビル屋上を利用した緑化には、「屋上農園」、「屋上水田」、「屋上はらっぱ®」が挙げられる。以下にその内容を解説する:
- 屋上農園:多くの見学者や利用者の訪問を見込めるため、ビルの集客力向上、話題作りに貢献することができ、カフェやレストランを併設すれば、屋上農園の採れたての作物を提供することが可能である。また、周辺地域との連携し地域全体の緑化活動としてポップやサツマイモを栽培しビールや焼酎に加工販売し活動資金を確保するK-Cowork緑化®(注2)の取組みも展開している。当社は企画段階から、必要なハードの検討に加え、運用時の組織体制計画、体験学習プログラム提案、維持管理計画などを提供している(図2、図3)。
- 屋上水田:農的景観を再生し稲作参加者間のコミュニケーションの場として屋上空間を有効に活用できるうえ、ビル内の温熱環境改善、雨水の有効利用なども可能となる(図3)。
- 屋上はらっぱ®:近年減少している都市部の空き地などの草地を、近隣植生と日用の廃材を用いて市民参加型で整備する新しい屋上緑化デザインである。自動潅水装置を設置し、高木や灌木を用いる従来のデザインの屋上緑化と比較し、環境に配慮した低コストで軽量な屋上緑化を実現している。周辺地域から採取した種子を用いて地域固有の草地を復元するため、各地域の特性に応じた草地を都市部の屋上に新たに創出し、地域の生物多様性保全にも貢献することができる(図4)。
また、「レインガーデン(雨水浸透緑地帯)」は、降雨時に雨水を一時的に貯留し、時間をかけて地下へ浸透させる透水型の植栽スペースである。下水道負荷を軽減するとともに、水質浄化を図り、地下水の涵養を促進する効果がある。加えて、蒸発散による温熱環境の改善など、ヒートアイランド対策としても有効である。計画する場所により、集水量や浸透量が異なるため、現地に適した材料、植栽などを選定し、土木構造物や建築物との調和を図ったデザインを実施している。
効果/期待される効果等
野菜を中心に食関連の専門店が入る京都八百一本館では、3階屋上に京都丹波の畑土を使った本格的な農場を整備した。直射日光を遮ることで建物の高温化抑制や劣化低減といった効果の期待できる屋上緑化であると同時に、同階のレストランの目前に設置されているため、来館者が季節の旬な野菜がどのように育てられているかを見ることができる。環境負荷低減効果だけでなく、集客や農業振興といった付加価値を創出している先進的な事例である(図2)。
神奈川県横浜市戸塚区では、区政の中心施設の建設にあたり、8階屋上に芝生広場、畑、ビオトープの他に、屋上水田を設け、計画地周辺に残る戸塚区の原風景である谷戸(注2)と、そこで展開される農の営みを同時に再現した。竣工後、近隣の小学生を対象に田植え、稲刈り、餅つき、注連縄作りなどを行う稲作体験講座も当社でコーディネートして実施し、屋上の未利用空間を地域交流、教育、健康、収益改善など付加価値創出に活用した(図3)。