ビル事業における強力なBCP対策

三菱地所株式会社

業種:不動産業、物品賃貸業

掲載日 2024年2月26日
適応分野 自然災害・沿岸域 / 国民生活・都市生活

会社概要

三菱地所株式会社は総合不動産会社であり、基本使命として「まちづくりを通じた社会への貢献」を掲げる。当グループの事業領域は丸の内に代表されるオフィスや商業施設の開発・賃貸・運営管理、収益用不動産の開発、住宅の開発・分譲、更には設計監理や不動産仲介、海外事業など多岐にわたる。

気候変動による影響

気候変動の影響により、異常気象やゲリラ豪雨による洪水‧台風‧ハリケーンなどを含む自然災害が近年激化しており、当社が運営するオフィスや商業施設等の事業継続に影響を及ぼす可能性があると考えている。当社はこのリスクを新興リスクの一つと捉えている。

気候変動リスクに関する取組

当社では、安心・安全に過ごせる街を実現・維持するため「エリア防災ビル」(図1、注1)によるエリア全体のBCPに取り組んでいる。この一つの事例として、当社が大丸有エリア(東京都 大手町・丸の内・有楽町地区)で保有する「大手町フィナンシャルシティグランキューブ」における施策について紹介する。

当ビルは、開発計画段階に起こった東日本大震災の教訓を活かし、高度防災機能の強化を重視した設計を経て2016年4月に竣工、大地震や停電等の災害時にも業務継続をサポートするために以下のBCP機能を備えている。

1.災害時に機能する電気・水・換気のインフラ機能

当ビルでは民間事業者では初となる都心浄化施設を設置し、災害時にインフラ供給が止まった場合も電力、水、換気が全て自立して機能するシステムを備えるなど、高度防災都市づくりへの工夫を随所に凝らしている(下表、図2)。

インフラ種別 対策
電力 ・耐震性に優れるとされる中圧ガス(都市ガス)に」よるコジェネレーションシステムに加え、中圧ガスとA重油(注2)の双方に対応するビル用非常用発電機(デュアルフューエル型発電機)を設置。電力会社からの供給が途絶えた場合、中圧ガスの供給があれば、ビル共用部へ最低でも10日間の電力供給が可能となるほか、万が一に中圧ガスの供給も途絶え場合、敷地内に備蓄したA重油を利用し72時間電力供給が可能。
・コジェネレーションシステムは通常時も常用運転を行い、ビル全体の25%の電力供給が可能。
・災害時にも飲用水を確保するため、敷地内に井戸を採掘し、汲み上げた井水を引用可能な水質にろ過する高度ろ過設備を設置。
・都心浄化設備によりトイレ洗浄水等のビル内の汚水を浄化処理し、日本橋川へ放流。これにより、災害時にもトイレの利用が可能。
換気 ・大手町の地区の安定したエネルギー供給を支える丸の内熱供給株式会社の地域冷暖房施設サブプラントを建物内に設置。災害用電力をサブプラントにも供給することで、専用部内の冷暖房機能を維持。

また、東日本大震災の際に被災地で入浴需要が高まったことを教訓に、地下1,500mから温泉を掘削し、温浴施設を設置した。有事の際には、災害活動要員等の衛生環境向上のため開放する計画である。また、隣接の国際医療サービス施設との連携による災害救護機能の確保等、より広範囲の防災性向上、地域貢献の役割を担う。

2.水害対策

浸水対策として、段階的な止水ラインの時間経過イメージを想定し、浸水経路の洗い出しを行った(図3)。次に、浸水経路を整理し水損被害の洗い出しを行った結果、重要室(受変電設備室・防災センター)について、復旧計画上著しい水損被害(長期間に渡る機能停止に至るケース)が想定された。これらへの被害は、ビル基幹設備への影響・BCP機能への影響が大きく、減災・早期復旧の必要ありと判断された。
そこで、重要室や備蓄倉庫は、水損リスクを低減するために地上階に設置した。また外水氾濫(注3)を想定した止水対策(図4)や、最下階の止水対策(図5)も講じている。

3.耐震性能

制震ブレースおよび耐震壁の配置、そして鉄骨断面の中にコンクリートを充填したCFT柱の採用により、通常ビルの1.5倍の耐震性能を確保している。

4.災害救護機能

医療施設との連携により、要救護者の一時受入れへの協力や、災害活動要員の滞在受入れスペースの提供している。また、自立型システムによる水と電力の供給、そして敷地内で掘削する井戸水の活用により、救護活動を支援する。

5.帰宅困難者支援機能

帰宅困難者が屋内で滞留可能な一時滞在施設(建物内最大約2,000㎡、約1,000人の収容が可能)を整備している。また、3日分の食料、毛布などの防災物資を備蓄する倉庫も完備した。

効果/期待される効果等

これらの対策機能により「大手町フィナンシャルシティグランキューブ」は一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会から「エリア防災ビル」として認証されるなど、エリア全体の防災性向上機能を担う存在となった。災害時には、水害対策と電力・水・換気対策により業務継続をサポートし、地域冷暖房プラントによる大手町エリアへの熱供給など地域に貢献することが期待される。

エリア防災ビルのイメージ
図1 エリア防災ビルのイメージ
災害時にも機能する「電気」「水」「換気・空調」(大手町フィナンシャルシティグランキューブ)
図2 災害時にも機能する「電気」「水」「換気・空調」(大手町フィナンシャルシティグランキューブ)
図3 浸水時の経路洗い出し
外水氾濫を想定したビル出入り口の止水対策 (※イメージ画像)
図4 外水氾濫を想定したビル出入り口の止水対策 (※イメージ画像)
最下階の止水対策 (※イメージ画像)
図5 最下階の止水対策 (※イメージ画像)

脚注
(注1) 建築単体の安全性・災害対応力と、帰宅困難者滞在や周辺ビルへのエネルギー供給など地域貢献能力を備えたビル。「エリア防災ビル審査会」で認定される。
(注2) A重油とは、工場等でボイラー関係の燃料として使われる重質の石油製品のこと。
(注3) 外水氾濫とは、低気圧(台風など)や前線の影響による河川や湖沼の増水、高潮や津波によって、堤防から水があふれたり堤防が決壊したりして起こる水害のこと。

出典・関連情報

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