都市開発事業とリゾート事業におけるシナリオ分析
(H30年度環境省支援事業を通したTCFDシナリオ分析)

東急不動産ホールディングス株式会社

業種: 不動産業、物品賃貸業
掲載日 2020年6月18日

会社概要

東急不動産ホールディングス株式会社ロゴ

東急不動産ホールディングスグループは、主要事業として、都市事業、住宅事業、管理事業、仲介事業、ウェルネス事業(リゾート事業含む)、ハンズ事業、次世代・関連事業、と多様に展開している。

気候変動による影響

TCFD提言では、気候変動の物理的な影響がもたらす企業のビジネス上のリスク(物理的リスク)、および低炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク)についてのシナリオ分析の実施が求められている。
当社に関する物理的なリスクや機会としては、平均気温の上昇によって熱中症の頻発や冷房使用による操業コストの増大が想定される。また、海面上昇によって、施設の浸水リスクが発生する。さらに、台風やゲリラ豪雨等で風水害が頻発することで、建物の破壊による改修コストの増大や顧客流出等が想定される。
なお,移行リスクとしては、政策強化による影響、社会的影響、技術発展による影響がある。

取り組み

当社はH30年度環境省支援事業に参加し、シナリオ分析を実施した。具体的には都市開発事業とリゾート事業(リゾートホテル、ゴルフ場、スキー場)を対象にシナリオ分析を実施した。以下に、その概要を示す。

①リスク重要度の評価

将来に想定される気候変動リスクと機会の重要度を評価した(図)ところ、気候変動が当社に及ぼすインパクトとしては、次のような移行リスクと物理リスクが想定される。影響が大きい物理的リスクとして、慢性リスクである平均気温の上昇や海面上昇、また急性リスクである異常気象の激甚化がある。これらのファクターは、熱中症の頻発や操業(冷房使用)コストの増大、施設の浸水リスク増大、風水害頻発で建物破壊による改修コスト増大や顧客流出等を引き起こす恐れがある。一方、影響が大きいと想定される移行リスクとしては、政策強化(炭素税やZEB注1導入化規制の導入等)による影響、社会的(顧客のニーズ変化や顧客・投資家の評判変化)影響、技術発展(ZEB技術や省・再エネの技術発展と普及)による影響がある。

気候変動に関するリスクと機会が事業に与える影響

図 気候変動に関するリスクと機会が事業に与える影響
(出典:環境省 (2019) 「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド~」)

②シナリオ群の定義と事業インパクト評価

上記「①リスク重要度の評価」の後、4℃シナリオと2℃シナリオにおけるシナリオ分析を実施した。なお、都市開発事業におけるシナリオ分析では、主力事業として、中期計画の時間感で、シナリオ分析の観点から今後何を行うべきかを検討することが目的であるため、2030年をターゲット年とした。一方、リゾート事業におけるシナリオ分析では、物理リスクのインパクトを検討した上で、今後の対応策を検討することが目的のため、物理リスクの差異が顕著化してくる2050年をターゲット年とした。以下に、その概要を示す。
4℃シナリオでは、低炭素化や再エネ導入の普及が進まず、自然災害の激甚化が想定される。そのため、環境変化(物理的リスク)が事業に一定の影響を与えると評価した。事業へのインパクトの一例として、都市開発事業(2030年)では、風水害被害の増加による、一部の物件の評価低下や開発コスト増加が見込まれる。一方で、風水害に対する建物のレジリエント化と顧客へのPR等の対策をとることで、他社との差別化ができる等の機会にもなる。リゾート事業(2050年)におけるインパクトの一例としては、降雪減少によるスキー場の収入減少や営業時間短縮等の可能性がある。一方で、先進的な降雪機や屋内リゾートの導入によって他社と差別化ができる等の機会にもなる。
2℃シナリオでは、低炭素化に関する政策導入や規制強化が進み、ZEB・再エネ導入の普及が進み、4℃シナリオより自然災害の激甚化が軽減されると想定される。そのため、法規制の厳格化(移行リスク)が事業に一定の影響を与えると評価した。両方の事業へのインパクトの一例として、炭素税導入による関連コストの発生が挙げられる。一方で、当社の高環境性能建物の優位性による他社との差別化、再生可能エネルギーの活用、等の機会となることも想定される。

注1)ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼びます。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。

効果/期待される効果等

このように、シナリオ分析を実施したことで、気候変動リスクと機会の評価ができたため、今後取るべき戦略や対策の選択肢を明確化することができた。

(本記事は2018年度の活動内容に基づくものです。)

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