TCFD提言に基づくシナリオ分析と戦略への反映

キリンホールディングス株式会社

業種: 製造業
更新日 2022年3月18日
掲載日 2021年12月16日
適応分野 産業・経済活動

会社概要

キリンホールディングス株式会社ロゴ

キリンホールディングス株式会社は、祖業であるビール事業において、日本を代表するビールメーカーとして地位を築いている。また、海外にも進出しており、現在ではアジア・オセアニアを中心に有力なブランドを保有する。さらに、ビール製造で培った知見を活用することで清涼飲料など食領域において事業を拡大し、1980年代以降には医、ヘルスサイエンスにも事業領域を拡げている。

気候変動による影響

キリングループでは、「環境ビジョン2050」の中で、「水資源」、「生物資源」、「容器包装」、「気候変動」の4つの柱を重要なテーマとして掲げており、中でも「気候変動」は社会全体と企業活動に大きな影響を及ぼす重要な課題となっている。

取り組み

当グループでは「気候変動」に対し様々な活動を行っており、2018年には日本の食品会社として初めてTCFD提言への賛同を表明した。

なお、当グループは自然資本で成立している企業として、2017年6月末にTCFD最終提言が公表される以前から様々なリスク調査を行ってきたため、2018年にはTCFD提言に沿ったシナリオ分析結果等の情報を「環境報告書2018年度版」において開示することが可能であった(図1)。このシナリオ分析では、RCPシナリオ(注1)とSSPシナリオ(注2)の組み合わせからなる3つのグループシナリオ(図2)を設定し、農産物収量へのインパクトを調査・評価した。

2019年には、3つのグループシナリオのうちRCP2.6とRCP8.5に対応する2つのシナリオ(注3)を対象に、2050年と2100年時点の主な原料農産物への影響、農産物生産地や製造拠点、物流拠点での水リスク・水ストレス調査、及びカーボンプライシングの財務影響評価を実施した。

2020年以降は、農産物の収量減が調達コストに与える財務インパクトや水リスク・水ストレスが製造拠点に与える財務インパクトの試算に加え、熱中症や感染症への影響に関連して、気候変動がもたらす事業機会についても試算している(図3)。

効果/期待される効果等

2018年7月に発生した西日本豪雨(平成30年7月豪雨)では事業の最盛期に配送が止まり大きな影響が生じたが、TCFD提言に沿ったシナリオ分析の結果を踏まえ、同年秋には同様の災害が発生した場合のマニュアルを再整備し運用を開始した結果、2019年の台風15号(令和元年房総半島台風)、19号(令和元年東日本台風)では大きな影響を避けることができた。

また、シナリオ分析の結果は様々な経営戦略にも反映されている(図4)。

気候変動をはじめとしたさまざまな環境課題を各事業会社の経営戦略に落とし込むべく、事業を通じて中長期的に目指す姿を明らかにする「CSVコミットメント」を改定するとともに、2022年度からの中期経営計画に反映している。

図1:2020年までのシナリオ分析

図1 2020年までのシナリオ分析

図2:『キリングループ環境報告書2018』 シナリオ分析

図2 『キリングループ環境報告書2018』 シナリオ分析

図3:2021年シナリオ分析の結果

図3 2021年シナリオ分析の結果

図4:ブランドを代表する商品でのCSV(社会との価値共創)の具現化例

図4 ブランドを代表する商品でのCSV(社会との価値共創)の具現化例

脚注
(注1) 将来の温室効果ガスが安定化する濃度レベルとそこに至るまでの経路のうち、代表的なものを選び作成されたもの。RCPはRepresentative Concentration Pathways(代表的濃度経路)の略称で、RCPに続く数値が大きいほど2100年における放射強制力(地球温暖化を引き起こす効果)が大きいことを意味している。
(A-PLAT グラフの見方について:https://adaptation-platform.nies.go.jp/map/guide/about_graphs.html
(注2) 統合評価モデルコンソーシアムが中心となって開発した、新たな社会経済シナリオ。SSPはShared Socioeconomic Pathways(共有社会経済経路)の略。
(国立環境研究所 気候変動研究で分野横断的に用いられる社会経済シナリオ(SSP; Shared Socioeconomic Pathways)の公表:https://www.nies.go.jp/whatsnew/20170221/20170221.html
(注3) 3つのグループシナリオのうち、RCP2.6に対応するグループシナリオ1とRCP8.5に対応するグループシナリオ3を対象としており、2019年以降グループシナリオ1を「2℃シナリオ」、グループシナリオ3を「4℃シナリオ」と呼称している。
(注4) 野生生物の保護、土壌と水資源の保全、農薬の制限や廃棄物の管理、労働者の適正な給与、労働者とその家族および地域社会の生活向上、子どもたちの医療・教育の保障などを通じて持続可能な森林管理や農園経営を目的とした包括的な基準を満たしている農園だけに与えられる認証。
(キリンホールディングス ニュースリリース:https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2015/0901_03.html
(注5)FSC(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)は、木材を生産する世界の森林と、その森林から切り出された木材の流通や加工のプロセスを認証する国際的な機関で、その認証は、森林の環境保全に配慮し、森林のある地域社会の利益にかない、経済的にも継続可能な形で生産された木材や紙に与えられる。
(キリンホールディングス ニュースリリース:https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2017/0227_01.html

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