気候変動に関するリスク・機会の分析・評価

小野薬品工業株式会社

業種:製造業
掲載日 2022年8月22日
適応分野 産業・経済活動 / 水環境・水資源

会社概要

小野薬品工業株式会社ロゴ

小野薬品工業株式会社は、1717年(享保2年)創業の、新薬に特化した研究開発型製薬企業である。医療ニーズの高いがん、免疫、神経およびスペシャリティ領域を創薬の重点研究領域に定め、これまでの研究から培った技術やノウハウを生かした医薬品創製を進めるとともに、医療現場のアンメットメディカルニーズに即した医薬品創製にも積極的に取り組んでいる。

気候変動による影響

近年、気候変動など地球環境課題が深刻化しており、2050年の未来では、水や食料の不足、新たな疾患の増加、自然災害の甚大化による生活の基盤の破壊など、さまざまな脅威が人々の健康で健全な生活を脅かすと予想される。

取り組み

当社は、事業活動が健全な地球環境に支えられて成り立っている事を認識し、環境課題の解決に向けた取り組みを強化することは企業の責任であると捉え、2019年10月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明した。

同年にはTCFDワーキンググループを立ち上げ、脱炭素社会に向かう1.5℃シナリオと温暖化が進む4℃シナリオを用いて、TCFD提言に基づく気候変動に関するリスク・機会の分析、評価を行った。

各シナリオの設定には、1.5℃シナリオではIEA(注1)による「持続可能な開発シナリオ」、 4℃シナリオではIPCC(注2)による「RCP8.5シナリオ(注3)」及びIEAによる「公表政策シナリオ」等を用いた(図1)。主力事業である医薬品製造業をシナリオ分析の対象とした。シナリオ分析の範囲としては国内の自社工場、および国内外の製造委託先、サプライヤー、投資家、顧客、人財採用等を含む。シナリオ分析の対象期間は2020~2030年度とした。

特定したリスクと機会は毎年見直す事とし、2021年度の気候変動に関するリスク評価(図2)では、2020年度に引き続き、製品構成や仕入れ先の変更等を勘案し、物理的リスク(注4)の影響額が2020年度の分析結果が見直され、洪水リスクは20億円、水不足リスクは0億円といった分析結果が得られた(注5)。さらに、認識したリスクへの対応状況を確認した。なお、移行リスク(注6)の影響額は算定時の前提条件に特に変更はないため、見直しは行われず、また、気候変動に関する機会(図3)についても、影響額の変更は見られなかった。

シナリオ分析の結果、いずれのシナリオにおいても財務上重大と認めるリスクはなかったが、今後も国際社会の動向を継続して注視するとともに、財務的影響の比較的大きいリスク・機会の影響を把握していく。

効果/期待される効果等

TCFD提言に基づくリスクの特定は、2019年6月に策定した中長期環境ビジョン「ECO VISION 2050(注7)」にて定められた重点項目の1つである「脱炭素社会の実現」における取り組みの一環ではあるが、発生時期や発生確率、影響を及ぼす範囲を分析し、対策内容などを評価した上で、総合的に優先度合を決定し、「全社的リスクマネジメント」体制との連携を図っている。

例えば、物理的リスクに関する分析結果で特定した水リスクは、全社リスクの一つ「災害/気候変動リスク」として取り上げ、事業継続計画に基づく適正な製品在庫の確保等の対策を実施している。今後も、取引先との協力体制の構築や複数供給先の確保、取引先選定プロセスにおける気候変動による洪水・水不足の影響の勘案等についても検討していく。

気候変動シナリオの考え方(注8)

図1 気候変動シナリオの考え方(注8)

気候変動に関するリスク(2021年度)

図2 気候変動に関するリスク(2021年度)

気候変動に関する機会(2021年度)

図3 気候変動に関する機会(2021年度)

脚注
(注1) 国際エネルギー機関(International Energy Agency)の略。
(注2) 気候変動に関する政府間パネル( Intergovernmental Panel on Climate Change)の略。
(注3) 代表的濃度経路(Representative Concentration Pathways)の1つで2100年に約4度の気温上昇が予測されるシナリオ。
(注4) 脱炭素政策が不透明で、気候変動によってもたらされる災害等による急性あるいは慢性的な被害。
(注5) 2020年度は、洪水リスクは34億円、水不足リスクは0億円と分析されており、見直しによりそれぞれ減額される結果となった。
(注6) 脱炭素政策が世界中で強化され、例えば気候変動政策および規制や、技術開発、市場動向、市場における評価等の変化によってもたらされるリスク。
(注7) 「脱炭素社会の実現」、「水循環社会の実現」、「資源循環社会の実現」の3つを重点項目と定め、温室効果ガス、水、資源循環についての具体的な中長期目標と毎年の年度目標を設定している。
(注8) 「気候変動 2013自然科学的根拠 政策決定者向け要約」(IPCC、2013)のP.19 世界平均地上気温変化をもとに小野薬品工業(株)作成。

ページトップへ