TCFD提言に基づくシナリオ分析
東急不動産ホールディングス株式会社
業種:不動産業、物品賃貸業
更新日 | 2024年12月4日 |
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掲載日 | 2020年6月18日 |
会社概要

東急不動産ホールディングスグループは、オフィスビルや商業施設、住宅等の開発・運営等の都市開発事業、再生可能エネルギー発電施設や物流施設等の開発・運営等の戦略投資事業、マンション・ビル等の総合管理やホテル・ゴルフ場・スキー場等の運営等を行う管理運営事業、不動産売買仲介や賃貸住宅・学生マンション等の管理・運営等を行う不動産流通事業と、不動産に関わる事業を幅広く展開している。
気候変動による影響
当社グループは、気候変動が事業活動に大きな影響を与える重要な環境課題であると認識している。2014年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によると、地球温暖化には疑う余地がなく、20世紀以降の温暖化は人間活動による可能性が極めて高いとされている。地球温暖化による気候変動は、海面上昇だけでなく、大雨・洪水の増加や干ばつなどの異常気象につながる。当社グループの事業では、スキー場の運営のように降雪量などの気象条件が直接的に事業活動に影響を与えるものだけでなく、事業に必要なさまざまな物資の調達が地球規模で困難になるなどの間接的な影響を受ける可能性がある。
取り組み
当社は2019年3月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同し、TCFDの取り組みについて議論する国内組織である「TCFDコンソーシアム」にも参加している。当社グループでは、気候変動リスク・機会の重要度に応じて順次対象事業を拡大しながら、バリューチェーン上流・下流への影響を含め、シナリオ分析を実施してきた(図1、図2)。
2023年の分析は、国際エネルギー機関(IEA)および気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のシナリオを参考に、1.5℃(脱炭素社会への移行を達成)、3℃(各国が国別目標を遵守)、4℃(政策・技術・市場等が現在の傾向延長で拡大)の3ケースで実施した。 各シナリオ分析結果の概要は、以下の通りである。
① 1.5℃シナリオ(脱炭素社会への移行を達成):図3
中期(2030年)では都市事業において炭素価格や ZEB 対応コストによる大きな財務影響 (注)が生じるが、長期(2050年)ではZEB化が完了し、市場の中で優位性を確保することにより、賃料収入増加が見込めると予想される。また再エネ事業も拡大が期待できる。 物理的リスクについては、異常気象による自然災害が緩やかに増加するが、BCP・LCP対応の強化により影響度は低いと予想される。
② 3℃シナリオ(各国が国別目標を遵守):図4
中期(2030年)では都市事業におけるZEB化が比較的穏やかで1.5°C シナリオに比べて財務影響は低く抑えられるが、長期(2050年)でもZEB化の影響が続くと予想される。また再エネ事業は一定の拡大が期待できる。
物理的リスクについては、1.5°C シナリオに比べて自然災害の激甚化や気温上昇の進捗が速く、リゾート事業における影響度は大きくなるが、立地の選別やオフシーズンの施設利用などによる競合施設との差別化策により一定の財務影響の抑制を図ることが可能と予想される。
③ 4℃シナリオ(政策・技術・市場等が現在の傾向延長で拡大):図5
中期(2030年)では気候変動の影響は小幅であり、移行リスクが顕在化しないため財務影響は低く抑えられるが、長期(2050年)では自然災害の激甚化や気温上昇の財務影響は大きくなることが予想される。都市事業におけるサテライトオフィス展開、リゾート事業における立地の選別やオフシーズンの施設利用などによる競合施設との差別化策により、一定の財務影響の抑制を図ることが可能と予想される。また再エネ事業は市場動向に即した拡大が求められる。
効果/期待される効果等
シナリオ分析によって特定された気候変動リスク・機会は、事業戦略と財務計画において、取組や目標として反映している(図6、図7)。
気候関連戦略の時間軸
【短期】会計年度をベースとする1 〜2年
【中期】中期経営計画を含む3〜9年。シナリオ分析では、SBT 1.5°C目標を設定した2030年を中期と想定
【長期】長期経営方針を含む10〜30年。シナリオ分析では、ネットゼロエミション目標を設定した2050年を長期と想定
気候関連リスク・機会の財務影響
【高い】連結営業収益の10%以上
【やや高い】当該事業ポートフォリオ営業収益の10%以上
【中程度】当該事業ポートフォリオ営業収益の5〜10%
【やや低い】当該事業ポートフォリオ営業収益の2〜5%
【低い】当該事業ポートフォリオ営業収益の2%未満
年 | 概要 | 分析シナリオ | 対象事業 | |
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中期 | 長期 | |||
2018 | 環境省支援事業として シナリオ分析を実施 | 2°C、4°C | 都市 | レジャー |
2020 | 対象分野の拡大 シナリオ分析の見直し | 1.5°C、3°C、4°C | 都市 住宅 レジャー 再エネ | |
2023 | IEAの最新シナリオ NZE2050の反映 | 1.5°C、(3°C、4°C) |



区分 | 影響と対応 |
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製品・サービス | 気候変動リスク・機会に対し、当社グループでは従来から緩和策としての建物の省エネ性能向上、および適応策としての運営施設のBCP強化に取り組んできました。2021年に策定した長期ビジョンではさらにZEB/ZEHの推進を掲げました。また東急不動産(株)では再生可能エネルギー事業「ReENE」の事業拡大・推進を目指しています。 |
サプライチェーン、バリューチェーン | 上流については、2020年に策定した「サステナブル調達方針」では気候変動問題も課題に掲げ、さらにゼネコンとの協働による建物建設工程の低炭素化の検討を開始しました。 下流については、分譲・賃貸住宅のZEH化および再生可能エネルギー電力導入を推進しています。 |
研究開発投資 | 建物管理を業とする(株)東急コミュニティーでは、技術提案力向上に向けた技術研修センター「NOTIA」を建設し、Nearly ZEB認証を取得しました。また、2022年度には、東急不動産(株)が新築の小規模オフィスビルや、既存のオフィスビルにおけるZEB化を実装するための検証を実施しています。 |
施設の運用 | 都市・リゾート施設などを運営する東急不動産(株)では、自社事業の再生可能エネルギー電力の活用を図ることで、2050年に再生可能エネルギー電力利用100%を目指す「RE100」を2019年に宣言しました。2022年12月には、国内の保有施設全244施設での電力を100%再生可能エネルギーに切り替え完了しています。 |
区分 | 影響と対応 |
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間接費 | 東急不動産(株)は、シナリオ分析の結果に基づき、既存運営施設におけるCO₂排出量について、中期・長期の省エネ改修と運用改善により削減可能な限界値をシミュレーションしたところ、SBT水準のCO₂排出量の削減を実現するためには、速やかに再生可能エネルギー電力の購入に着手し、段階的に削減量を上積みしてゆく必要性を認識しました。そこで自社の再生可能エネルギー事業で発電した電力の購入で賄う検討に着手し、再生可能エネルギー電力の購入に伴う間接費の上昇額を試算しました。その結果を踏まえ、RE100の早期達成をめざし、各年度の予算額に対する影響度を評価しながら運営施設の再生可能エネルギー電力導入を早期に進める方向に舵を切りました。 |
資本配分 | 東急不動産(株)は、政府の再生可能エネルギー推進策に対応して、2014年からメガソーラー事業に進出し、さらに2018年度から実施しているシナリオ分析の結果を受け、再生可能エネルギー事業拡大を気候変動関連の機会と位置付け、積極的な投資を行っています。2022年3月末日時点で稼働施設は66施設ですが、さらに太陽光発電7ヵ所、風力発電6ヵ所、バイオマス発電2ヵ所を開発中です。 |
負債 | シナリオ分析の結果に基づき、環境関連課題に対する取り組みに対する評価を投資家から得ることを目的として、2019年度には100億円のグリーンボンドを発行しました。2021年度には、国内初となるESG債の長期発行に関する方針「”WE ARE GREEN”ボンドポリシー」を策定し、ESG債比率を、2025年度末に50%以上、2030年度末に70%以上まで引き上げることを目指すこととしています。 |
資産 | 長期ビジョンに基づく事業ポートフォリオマネジメントにおいて、環境影響を評価指標の一つとしました。 |
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